委員長との会談
『......』
『......』
『......』
街行く人は皆揃って息を呑む。
人々の目の前で本物のロケットランチャーが放たれた。
その場を覆う一瞬の静寂。
『きゃああああああああああああ!!!!!!!!!!』
状況を飲み込んだ人から順に逃げ果せていく。
そう。皆すぐに理解したのだ。
”これまで何人も殺してきた目”を。
「あちゃー...みんな消えちまったよ」
辺りから人が一切いなくなった。
「これじゃあ依頼してくれる人がいないなぁ弟よ。」
「......(待って、あそこを見て兄さん)」
「ん?」
アルフレッドが指さすその先には、近くのカフェテラスのテーブルの上に置かれた札束と紙切れ。
「おぉ?いいもん見つけたな弟よ!」
そそくさと駆けつけるカルロス。札束を迷わず腰に下げた袋に詰め込むと紙切れを手に取った。
「おい見ろよ。写真もあるみたいだぞ弟よ」
「......(どうやら若い男の子の写真みたいだね。その紙切れには何が書いてあるんだい兄さん)」
「...どうやら早速お仕事が見つかったみたいだぞ弟よ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「...うぅ...何だ一体...」
頭がガンガンと揺れているような感覚。
耳鳴りも酷い。
俺はミサイルが飛んできたことによって死ぬかもしれないところから
辻宮さんを守ろうとしてたはずだったよな...
...ん?
目を開けるとすぐ目の前に茫然とした辻宮さんの顔があった。
彼女の顔はとても整っていて肌もきれいだ。
透き通った黒い瞳、こぶりな鼻、程よく水分を含んだ唇。
何もかもが美しかった。
「あぁ...すっげーきれー...」
「......ちょっと」
彼女は少し眉を顰めた。
......あっ。
「...とりあえずどいてくれないかしら。その...密着しすぎというか...」
「あああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!」
俺は後ろに飛び退いた。
つい咄嗟の判断だったとはいえ、覆いかぶさるとはなんてことをしたんだ俺は!!!!!
しかも思ったより密着していた!!!!!思わぬ収穫だ!!!!!!
...いかんいかん。立ち去れ邪念。辻宮さんにそんなこと考えちゃだめだ。
「...どうなってるのよこれ...」
立ち上がり体の埃を払いながら辺りを見渡した辻宮さんは、荒れ果てた図書室内に放心していた。
「私の図書室が...どうして...」
「...辻宮さん...」
「...説明してくれるかしら。千鳥ヶ崎君。」
「......」
「咄嗟の判断だったんだ。あのままじゃ俺か辻宮さんのどちらかに激突してた。
でも...事故だったとはいえほんとにごめん。」
「...貴方が謝ることじゃない。むしろ私が感謝しなきゃいけない事だわ。ありがとう。」
「いや、いやぁ!男として当然のことをしたまでであります!」
嬉しさで語尾に影響が出てきた。
「...それにしてもそのミサイル...どこから飛んできたのかしら...」
「わからない...少なくともこんな現代社会にミサイルを容易く学校に発射できる状況は皆無だと思うけど...」
「とにかく、この爆発音で先生かだれか来るはずよ。ここは一旦先生に事情を話しましょう」
「そうだね...俺たちが犯人扱いされそうだよ」
「...窓からいきなり小さなミサイルねぇ...」
「先生!本当なんですってば!俺たちも信じれないけど実際にあったんだ!」
「なーに大丈夫だよ別にお前たちを疑ってない。そもそも学校に爆発物持ち込むような人間じゃないってことは俺が一番知ってる。」
この先生は学年主任の天木智久先生だ。
学年一の人気者の先生で、生徒からは”あまちゃん”と呼ばれて親しまれている。
「第一お前らがテロ起こすんなら、お前らの好きな図書室の前なんかより職員室の中とか教室にするはずだろ。」
流石先生だ。辻宮さんはもとより、俺も図書室が大好きなことをちゃんと知ってくれている。
「しかし、それによく気づいたな千鳥ヶ崎。それに女の子を守るってのはやるじゃねぇか。お前がそんな男らしい奴だなんて思ってなかったぞ、見直した」
「は、はぁ...」
俺の事は前から女々しいとでも思ってたのかよこの野郎...!!
「まぁ、今日のところはケガもないようだが...大事をとって早退することだ。いいな?」
「はい」
「辻宮もだ。図書室の掃除と整理は先生たちがやっておくから、お前は家でゆっくり休め。」
「...いえ、図書室の整理は私がやってから帰ります」
「いやぁ、そうは言ってもだな...」
「私がやります」
「...そうか、千鳥ヶ崎、お前も手伝ってやれ」
「あ、もちろんでs」
「結構です。」
「...そうか。まぁ二人とも今日は安全第一で過ごせ。終わったらすぐ帰るんだぞ。」
「はい。」
「...はい。」
なんか...ショック。
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「...辻宮さーん」
流石に一人で図書室全部を掃除させるのは悪い。
俺は辻宮さんを手伝うべく図書室に来たのだが...。
「私一人で出来ます。」
「いや、でも女の子一人でこれ全部やらせるってのは...」
「大丈夫です。」
「...なんか怒ってる?」
「...いえ、怒ってるのではないんだけど...」
「...じゃあ図書室に隠し事でもあるとか?」
「......」
「...そっか、じゃあやめておくよ」
「......」
「じゃあ、俺は先に帰るとするよ。」
「......待って」
「ん?」
「...貴方には...見せてあげる...」
「...え?」
「私の...秘密...」
「...え???」
なんだ。この展開は。
流石に女の子の秘密を拝見なんてことはあってはならない。
男としてのプライドに傷がつく。
母は言っていた。女の子の秘密と個人情報は絶対に守り通せ、と。
「いや、でも見せたくないんじゃ...」
「いいから!来て!」
...うーん...
一体何が起ころうというのだ......
「...え...」
彼女は図書室の奥のほうへ俺を連れてきたと思ったら、徐に本を押し始めた。
それも様々な本をバラバラな順番に。
まさか、ここの奥に秘密の部屋でもあるんじゃないかと。
俺の思惑は、悲しいまでに当たっていた。
本棚がゆっくりを横に動き、扉が現れる。
「貴方はここに入って」
「...え?何ここは...」
「私の秘密の部屋。貴方には見せてもいいわ。」
「...なんか申し訳ないよ、やっぱり遠慮して...」
「ここまできて見ずに帰るつもり?そんなの許さないわよ?」
「いやでも...」
キーンコーンカーンコーン。
「...どうやら昼休みに入ったみたいね。整理は粗方終わったし、今日のカウンター当番は私じゃないから
私も部屋に入ることにするわ。」
「......」
「なにもたもたしてるのよ。早く入って。」
「え、ちょっと、押さないで」
俺は押し込められるかのように部屋へ入って行った。
「こ、ここは...」
中に入った俺はまず驚いた。
本しかない。
蝋燭のついたランプの明かりが照らす中、狭い部屋にはベッド、机、椅子。それ以外は全部本だ。
壁一面の本の羅列に俺はただ呆然と立ち尽くした。
「どう?私の部屋は。研究に適してると思わない?」
「...研究?」
「そ、魔術の研究よ。」
「...魔術?」
なんということだ。委員長、まさか厨二病をこじらせていただなんて。
しかも図書室に秘密の部屋まで作って。
...どうやら筋金の入った厨二病のようだ。俺にはわかる。
俺だって厨二病だったからだ。
「...まさか、知らないなんて言わないでしょうね。あんなとんでもない制御魔術使っておいて。」
「...制御魔術?なんだそれ。」
おぉ、だいぶ仕上がってるなこの娘...
「......貴方...知らないであんなことやってたの?」
「あんなことって?」
「あなたがミサイルを感知して避けたあれよ。...無意識なの?」
ここは...辻宮さんの顔を立てるべきなんだろう...
なんだかとてもやりずらいが...あの頃の俺を思い出しながらやんわりと合わせるしかないか...
「いや、意識はあったんだけど...なんというか、自然にできたというか...」
「貴方...魔術の天才って感じなのかしら?」
「さ、さぁ?どうだろう...」
黒猫に授けられた魔術だと思います!!(泣)
「...とにかく、昼休みの間はここで身を隠すわよ。爆発の時近くにいたことなんて既に生徒全員に知れ渡ってるんでしょうから、今日は生徒の前に顔を出せないわね」
「...随分とここの生徒を信じていないんだね...」
「あら、貴方もよっぽどじゃない?」
「な、なんとか下校できるな...」
「そうね。一安心、といったところかしら。」
昼休みをあの部屋で乗り越えた俺たちは、5校時が始まってからなんとか図書室を出ることができた。
図書室からは教室の前を一切通らずに校庭まで行ける。
今隣を歩いている図書委員長は、学校の構造まで変えてしまう筋金の入った厨二病だったという事実はまだ受け止めきれないが...
俺たちは何故か一仕事終えた様な気でいた。
...しかし現実はそんな甘いものじゃなかった。
「おぅおぅ!いたぞ!あれだ弟よ!」
「......(ほんとうだ、写真とおんなじだよ)」
...?何者だ?近所のホームレスか?
にしては俺達と同世代のようだが...若くしてホームレスとは世の中は非情だ。
...他人事みたいで自分の中でちょっと申し訳なさが芽生えた。
近所のホームレス(?)2人組がこちらへ近づいてくる。
「...何、あの人達。こっちを見て喜んでるようだわ」
「辻宮さん、あの人達知ってる人?」
「私も知らないわよ、外国の人よ、あの2人」
外国人の2人組は俺たちの目の前で足を止めた。
「やぁやぁごきげんよう千鳥ヶ崎麻人クン。お会いしたかったよ。」
こいつ、俺の名前を知ってる...
「まぁ、早速なんだけどさ...」
男は腰につけている袋から何かを取り出した。
「俺たちのために、死んでくれよ☆」
男は持っている小瓶をこちらに思いっきり投げつけてきた。
小瓶は俺の足元で炸裂し
爆発した。