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NO DIE!!!  作者: 雨中仁
2/8

図書室の幻想

ドーモ、ハジメマシテ。ウチュウ=ジン デス。

ミテクレテ、アリガトウ。

「うわぁっっ!?!?!?」




目が覚めた。いつも通りの朝だった。

...いや、何かがおかしい。昨日の晩の黒猫は何だった。

あれは夢だったのか。

にしても変な夢を見たものだ。





とにかく今日も学校がある。早く身支度を済ませなければ。

いつものようにトーストを焼きながら、テレビのニュースで今日の天気を確認。

制服への着替えを済ませたら目玉焼きを作っていく。

出来上がった目玉焼きをトーストの上に乗せ、お徳用の味付け海苔を2,3枚取り出して乗せ

醤油を適当にかけてトーストごと谷折りにする。

それを片方からかぶりつく。いつもの朝食だ。

基本的に楽なので特に食べたいものがなければこれで済ませている。

ささっと食べ終えたらその足で出発する。

いつも早く出て図書館で本を読むのが日課だ。

図書館にいればいつもよりは被害は出ないからである。

ふと昨日の夢について思い出す。あの黒猫が言っていたこと...

妙に引っかかる。”死なない力”とはなんなのか。

よく見るファンタジーものの物語にはそんな能力は出てこない。

出てくれば物語が破綻してしまう。あまりにもチート過ぎる。

...おっと、昨日の夢にでき来た黒猫だ。

まさか猫が喋るとは思わなかった。我ながら奇想天外な夢を見たものだ。







「よぉ、こんな朝早くに出てんのかお前さん」







...?

あれ...?

今この黒猫が喋ったのか?

まさか。昨日のあれは夢だったんだぞ。あり得ない。

猫が喋るだなんてオカルト研究部にでも持っていけば大ニュースだ。

そんな事が現実に起こるわけ...

「猫が喋るなんてあり得ないって顔だな。」

「読心術!?!?!?」

...驚いた、この猫、喋る上に心まで読めるのか。

「読心術も何も、顔に出ちまってるからなぁお前さん」

「......昨日のは夢じゃなかったのか...」

「おぅおぅそうだったな、昨日は力を渡す途中で気絶しやがったからなお前」

「えぇ...」

困った、夢じゃなかったようだ。

俺はいつの間にか寝ちまってたってことか......

「...待てよ、その力って何なんだよ一体。俺には何が何だか...」

「あーわかるぞその気持ち。誰だって現実じゃああり得ない力を手に入れてしまったらみんな困惑する。

そして落ち着いたらこう思うんだ。”この力で好き勝手やってみよう”ってな。」

「...まだ落ち着いてもないんですけど。」

「おぅおぅそうだろうな。まぁひとまず力の説明だけしてやるよ小僧。

お前に授けた力はな、”死ぬ直前になると時間を制御できる”って能力だ。」

「...なんだそれ」

「よく言うだろ、人間ってのは死ぬ直前になると世界がスローに見えて、その上に走馬燈とやらが現れて自分の思い出をフラッシュバックさせるってよ」

「あぁ、言ってるな」

「あれのパワーアップ版だと思ってくれ。いつ、どんな状況下でも

お前が死の直前となったら発動して世界がスローになる。その間お前は好き放題だ。

死を避けるだけもよし、死の元凶となる相手に一発食らわせるもよし。どうだ?便利だと思わないか?」

「......」

「...どうした。とんだクレイジーな能力だと思うだろ。俺も思うぜ。何しろ死ぬ直前にならないと発動しない能力なんて聞いたことが...」

「馬鹿馬鹿しい。」

「...?」

「馬鹿馬鹿しいよ、そんな話。あまりにも馬鹿馬鹿しすぎる。

そんな馬鹿げた話誰が信じろっていうんだよ。え?俺か?お前か?

そもそも俺は自殺しようとしてたはずだ。そんな時に死なない力だと?

ふざけんなって。俺は死にたかったんだ。死んじまったほうが、苦労する人やストレスがたまる人が減っていいだろ?」

「...マ、そうなるだろうな。とりあえずはその力を使う機会なんてないだろう。

今日のところはゆっくり一日を満喫しな。」

まるで呆れたかのような口調で猫は言った。

...いや、この反応を既に知っていたかのような。

そのまま黒猫はそそくさと家の軒下へと消えていった。

「...知るかよ」

全く以て馬鹿馬鹿しい。あまりにもふざけている。何が死なない力だ。

そんなもの俺は信じないし、活用しようとも思わん。

第一、力を授けるくらいならもっと強そうな力にしてほしかったぜ。

こう...炎を操れる、だとか。









―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――









図書室に着いた。

今日も案の定誰もいない。

この静かな空間こそが俺の生きる場所なんだ。

俺は荷物を机の上に置いて、昨日から読み始めた本、「魔法使いの錬金術」を開いた。

魔法学校に通う主人公が錬金術一つで下剋上を果たすという内容だ。

やはり男であるからには、”下剋上”という言葉には魅力を感じずにはいられない。

実力で上へと昇っていくその姿はまさに輝ける英雄だ。

その本を開いて読み始めたのも束の間、一人の生徒が図書室に入ってきた。


いつもこの時間になると決まってやってくる生徒。

長い黒髪を靡かせながら入ってくる姿はまさに麗しの図書委員長。

そう。彼女は辻宮乃蒼(ツジミヤノア)。図書委員長その人である。

いつも静かで、テスト結果発表の張り紙にはいつも一番上にでかでかと名前が書かれている。

彼女とは仲がいいわけではないが、図書室を居場所としているところは自分と似ていて

勝手に親近感を抱かせてもらっている。

彼女はほぼ毎日ここにきているため、俺のことは知っているはずだ。

話しかけてみたいが、どうも勇気が出ない。

これはボッチ男子の宿命なのだろう、と割り切っている。

どうせ未来永劫、彼女と関わることは本の貸し出し以外ないのだから。





「......貴方、毎日来てるわよね?」

「......」

しかし今日もここで本を読むのは実に清々しい。

この早い時間であるが故、まだ昇りきっていない朝日が煌々とこの部屋を照らす。

その幻想的な空間で静かに本を読むことはまさに、自分だけの世界へと入り込んでいると言えるだろう。

「ちょっと」

「......」

そして今読んでいるこの本もまさにそうだ。

主人公が旅をする道中。戦いを終えた彼は昇りゆく朝日を街とともに眺め、

この街の未来の訪れと不安への勝利をその身に噛みしめている。

カッコイイ。

「......ねぇってば。」

「...あっ」

ふと読んでいた本が上方向へと引っ張られる。

...さっきの図書委員長だ。

俺は言葉も発せずに茫然としていた。

「君、このシリーズ好きなの?」

「えっいけないですか」

......あぁ。

コミュ障を隠そうと何かしゃべろうとした結果これだ。

一度落ち着いてしゃべればいいものを焦って思ったことをすぐ口に出してしまう。

ついさっきまで図書委員長とお近づきになりたいとか思ってたくせに

これじゃあ煽った感じになって嫌われるよ。

「......」

「......」

「...私も好きなのよね、このシリーズ」

おおおおおおおおおお!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

これはお近づきになる大チャンス到来じゃないか!!!!!!!!!!!!!

いいか、俺。一度落ち着いて言葉を選ぶんだ。

コミュ障と思われない、その上で相手を傷つけず、かつ仲良くなれる言葉を......!!!



「あっそうなんだ~、奇遇だなぁ俺もなんだよ!このシリーズ面白いよね!特にこの主人公の起死回生ぶりといったら......」

「いや...ごめん、さっきの嘘なんだけど」



はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?


どういうことだよ!!!俺が必至で紡いだ言の葉がいとも容易く打ち砕かれた!!!

何しにそんな事言ったんだよ委員長!!!!!!


「その...君、毎日来てるからちょっと気になっちゃって」

「あ...あぁ、そうですね、クラスも違いますし話す機会ないですしね」

「嘘ついたのはごめんなさい、でも君にお礼を言っておきたくて。」


お...お礼!?!?嘘だろ、そんな感謝されるようなことした記憶ないぞ......いや、待てよ?この間家の中に入ってきた蜘蛛を外に逃がしたことがあったぞ。朝蜘蛛は縁起がいいとか聞いたからな、もしかしてあれの影響か?いや、そんな小さな事でこんなでかい事件になるはずがない、そもそもそういう器じゃないだろ俺!!...まさか、蜘蛛の恩返し的な?いやいやありえないだろ流石に。それ以外の思い当たる節なんて......


「毎日図書室の鍵開けてくれて、ありがとう」

「...あぁ、そんなことか。」


...深く考えた俺が恥ずかしい。

あまりにも小さいことだったし、つい口に出てしまった。


「私、割と感謝してるのよ?それに今までずっと言ってこなかったのもあるし、申し訳なく思ってるわ」

「い、いやいやそんな事ないですよー(笑)。むしろそれくらいで来てくれたことが嬉しいくらいで...」

「...えっ?」

「あっ、いやいや、なんでもないですはい...」


つい萎縮してしまった。

やばいぞ、よく考えれば女子と話すなんて小学校以来だ。

なんだか緊張で唾が異常分泌してるぞ......


「貴方、名前は確か...千鳥ヶ崎麻人(チドリガサキアサト)君...よね?」

「えぇ、そうですよ。」

「...貴方、最近何か起きたんじゃない?」

「え?」

「いつも見る貴方より何か変よ。何か悩みでも抱えてるような。」

「そう...かなぁ。」

「私でよければ相談に乗るけど。どうかしら。」

「えっ、いいのか!?」

「えぇ。毎日見かけるのに様子が変わったままじゃ落ち着かないもの。」




これはビックチャンスだ。

悩みを相談することによって、委員長との会話が出来る!

それによって更に距離を縮めれる!!!!





いや...待てよ、悩みといっても、委員長に相談できるような悩みなんてないぞ...

友達料の件は巻き込みたくはないし、家での孤独を話すなんて話題がディープすぎる。

黒猫の件は...話しても信じてはくれないだろう。

能力の有無は俺も信じてはいないが、猫が喋るくらいでも疑うべき問題だ。

ここは素直に友達がいないこととでも言っておくか。


「...実は、俺......」




















......












......












...あれ?




なんだ...?




突然の謎の感覚。





周りの空気が一瞬で重くなったような......





この瞬間何故か現時点の状況を7割ほど理解した。





そう、今何らかの事態によって俺は死の直前にいて、





今朝黒猫が言っていた「死の直前に、世界がスローに見える感覚」をこの身で味わっているのだ。





俺はその時に黒猫の言葉をさらに思い出した。






「死の直前となったら発動して世界がスローになる。その間お前は好き放題だ。」






俺は咄嗟に辺りを見回した。





きっと近くに俺の死の原因となるものがあるはずだ。





図書室の中にはそれらしきものはない。





先ほどの姿勢のままスローになった委員長。





綺麗に整頓された本。





窓から差し込む朝日。






照らされる室内の埃。






窓の外からこちらへと飛んでくる小さなミサイル。















......は?






これだ。死の原因はおそらくこれだ。





だが俺はせっかちなものだ。頭の中がパニックになってしまっている。





いくらスローとは言えど一刻も早くこれをどうにかしなければ。





下手すれば委員長も巻き添えを食らってしまう。





俺は机の反対に回り込み、委員長を抱え込むように机の下に伏せた。





その時尖りきっていた俺の神経が解けた様な感覚に襲われた。





それと同時にスローだった世界が秒速に戻る。





豪快に割れる窓の音、真上を横切るミサイル。


ミサイルは図書室の扉を突き破り、廊下の壁にぶつかって爆裂した。


とてつもない爆風が爆音と共に図書室内を襲い、俺は委員長を庇うように覆いかぶさり、


その爆風が止む時を待った。












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