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贅肉を焼き尽くすハタケンジャー

「おい、賢道」

「あ、おかえりー」

「お帰りじゃなくて、なんか長坂なんとかって後輩が挨拶に来たんだけど」

「夜ご飯何にする?」

「カツ丼で、じゃなくて賢道」

「はいはい、今作るからねー」

「じゃなくて賢道」

「卵硬めでいい?」

「よくわかってるじゃないか、じゃなくて賢道!お前の後輩がだなぁ」

「長坂めるちゃんね。お互いに気に入ると思って紹介したんだよ」

「どこら辺が気に入ると思ったんだよ!住む世界が違い過ぎるわ」

「肉食と草食でピッタリかと」

「あの子が肉食?そうは見えないけど……」

「じゃあどう見えたの?」

「天使……」

「気に入ったみたいだね」

「危うくカモにされるところだったよ」

「あの子、アイドルだからね。ライブ来てくださいとか言われたんじゃない?」

「そうそう。そうやって都合のいい客にしようとしてたんだろうな。僕が冷静な人間で良かった」

「ライブに行くぐらいいいんじゃない?その後で仲良くなればお互いのことも分かるだろうし」

「お前はよくそんな気持ち悪いこと言えるな」

「はい、カツ丼おまたせ」

「あ、どうも。いただきます!」

「あの子もさぁ騙して釣ろうとしてるわけではないと思うんだよ」

「まぁそれはわかるが、客と恋愛するわけないだろ」

「自分のことを知ってほしいってことかもしれないし」

「あほくさ」

「でもあの子すっごく頑張り屋だよ。学校の後でライブを遅くまでやってるのに次の日の登校に遅刻したことは一回もない」

「ひとつ聞いていいか?」

「なに?」

「あの子と付き合ってたの?」

「うん。1週間だけ」

「なんで1週間」

「お互い肉食系だと分かってしまったからね」

「なるほどね……」

と微笑。


「そろそろ金曜日の子が来る感じ?」

「まだ時間があるけど」

「んじゃもう行くわ」

「また学校でね」

僕は家をあとにする。凍てつくような寒さに体を縮める。

「今日はどこか暖かいところで時間潰すかな……」



そしてたどり着いたこのライブ開場。

じ、時間潰すのにちょうど良かっただけだし。

「1回だけ1回だけ」とか言いながら見つけるのが大変なほど小さい地下のライブハウスだった。

人参戦隊ハタケンジャー5人居るなか、長坂さんは左の端っこ。

昨日見た120%の笑顔で全力の歌と踊りを魅せた。

「この後開場外にてファンの皆様とおはなし会がありますので、お時間よろしければいらしてください!せーの」

「「「「「この世の贅肉は許さない!ハタケンジャーが焼き殺してやる!!ワーハッハ!」」」」」

開場全体で叫んだ。驚いた。自分だけアウェーだった。

ていうかハタケンジャーが悪の手先みたいになってませんかねぇ。


我先にと外に出て長坂さんを待つ。一応挨拶くらいはしてもいいだろう。でももしファンに囲まれてるようだったら帰ろうとか考えながら階段を上る音を聞いた。

なんか緊張するー。別になんもないけどさ。ただ挨拶するのにも、やはり童貞坊やには一大イベントなわけですよ。

突然肩をトントンと叩かれる。

「来てくれたんですね、安藤先輩」

心臓がバクバクです。

「暇だったんでな」

騙されちゃいかん。あくまで商売としての笑顔なんだから……。

「嬉しいです!」

とか言って上目使いを止めるんだエンジェルよ。

「そ、それはそうと、ハタケンジャーって肉と戦ってるんだね」

なんだこのつまらん返しは……と我ながら思う。

「ハタケンジャーってダサいですよねー」

「え?言っちゃっていいの?」

「メンバーのみんなも、ファンの人も言ってますよ。ダサいダサいって」

「確かに焼き殺すって畑のやることじゃないしな」

「そうなんですよー!悪役みたいなこと言ってるんですもん!」

会話が成立している!!女の子が僕の言った言葉に反応して笑ってくれている!!ここは現実なのだろうか!

「じゃあ着替えてくるんで、ここで待っててください」

「え、待つの?」

「はい、今日もうあがりなんで」

「あ、うん」

その後の帰り道まで一緒だ…と……。もうここまででいっぱいいっぱいなんだが耐えられるのか……。帰り道に話す内容がちっとも想像つかん。

ここで童貞は嫌われたくない思考ループに陥るのだ。おどおどして気持ち悪がられていないかとか、相手を傷つける失礼なことを言ってないかとか、体が触れてセクハラになっていないかとか……。

「お待たせしました」

「早っ!!待ってないよ!」

「ジャージ上に来てきただけなんで安藤先輩の家もう誰もいませんよね?」

ごくり。

「そこで着替えさせてもらっていいですか?」

賢道が言ってた通りなんだ。

この子は肉食系だ。

次回で終わる

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