2日目 朝焼け
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お願いします。
所変わって、ここは美術準備室。
…言いづらいな。
文章に言いづらいも何もあるか、とは思うが、美術準備室は確かに言いづらい。手術準備室と同じくらい言いにくいものがある。
「さあさあ、いらっしゃい、我がびじゅちゅ準備室へ」
そらみた。先生も言えてない。しかし、そのことには敢えて触れず、足場の狭い美術準備室に歩みを進めた。
何故足場が狭いかというと、床一面に紙が広げられているからだ。それに加え、周りにはたくさんの絵具や筆、パレットなど、作画するための道具がところ狭しと置かれていた。 床一面に広げられた紙には、どこかの王宮の一室のような豪華絢爛な部屋が描かれていて、細部の装飾はほとんど出来上がっているにも関わらず、大部分の壁が一部しか塗られていなかった。
「んで、まあ、この絵なんだが」
華麗に足場を見つけながら部屋の奥にむかう柳先生。
「塗るの手伝ってくれないか?」
「ええと…」
俺が返答に困っていると、
「急ぎでな。昨日部員に頼んだんだが、生憎断られてしまった」
となんともいたたまれないエピソードを先生が吐いたので、俺は承諾することにした。
「ここの壁を塗ればいいんですか?」
「理解が早くて助かる」
「絵具は?」
柳先生がその辺に転がっていたパレットを拾って、色をつくる。そしてそれを俺に渡してきた。つまり、この色で塗れというわけか。
そう解釈した俺は、黄色とオレンジと他何色かを混ぜた、まあ所謂クリーム色で真白な未開拓地の部分を塗りはじめた。先生はちょこちょことチューブから色を出して、繊細に色をつくっている。
静かになる美術準備室。朝早いせいか、生徒の声は聞こえない。聞こえるのは、鳥のさえずり…ではないな。これは先生の鼻歌か。何を歌っているのかと、よく耳を澄ますと
『けーむりたーなびくーとまやこそー』
と聞こえてきたのできっと歌っているのは『海』だろう。…きっと。 俺がきっと、とつけるのには訳があって、その、つまり、先生の音程があっている気がしないからだ。確かに聞こえてくる歌詞は『海』なんだけど、音だけ聞いていると違う曲のようにも聞こえてくる。
先生って、音程にアレンジ加えるの上手だな。と、そう思うことにして、俺はアレンジを加えないまま一緒に口ずさんだ。
そういえば、この色塗りを断った部員って誰なんだろうか。美術教師を顧問に迎えるくらいだから、さしずめ部員と言ったら美術部なのだろう。しかし、美術部が色塗りを断るとは、無粋なこともあるものだ、とか思いながら、俺は一向に終わりそうにないこの絵を塗り続けた。