1日目 朝風
こんな調子でだらだら続きます。
だれか読んでくれていたら幸いです。
「ところで、なんで俺の名前?」
先程サラリと流してしまったが、先生が俺の名前を知っていた、というのはよくよく考えれば不思議なことだった。まだ、美術の授業はやってないし、俺との関わりは一切ない。俺が何かで目立つ生徒であれば名前を憶えられていても不思議ではないが、そんなわけは、ない。
「なんで俺の名前知ってるのか?ってか。お前、執念深いな」
「まさか。寝たら忘れるタイプですよ」
「期限付きの執念か」
「…人聞きの悪い」
特に思っている風でもなく呟くと、「冗談だよ」と感情のこもっていないフォローが返ってきた。
「朝早く、一番に来て掃除をする。そんな奴は週番か潔癖症位しかいねぇよ。そして、」
白衣の汚れを指して、
「この汚れを見て、洗えと言わなかったので、よって君は潔癖症ではない」
肯定の証として頷く。先生はそれを見届けてから、親指で背後にある黒板を指した。
「もう一人の週番は公欠なんだろ」
ああ、そういえば。
「公欠じゃない方が近藤。だからお前が近藤」
黒板に書かれている、週番の名前を見たのか。どうりで。
「なるほど。で、俺の名前はいいとして。先生のお名前を頂戴しても?」
「当ててみるか?」
いい年こいた大人が悪ガキの顔をつくったので、俺は挑発的な笑みで
「みましょうか?」
と応戦したら
「柳 総司だ」
とあっさり名前が頂けた。
「柳先生ですか」
「先生って言われると、なんだかむず痒いな」
「じゃあ、やめちまえ」
「不謹慎な」
そんな感じで、たわいもなく話をしていたら七時四十五分を知らせるチャイムが鳴った。
「おっと。それじゃあ、僕はここでお暇するよ」
柳先生がドアに向かって歩き始める。授業の準備でもあるのだろう。美術教師も案外暇じゃない。
「それでは」
俺は軽く会釈をする。ドアを開きかけた柳が、 「また明日も」 と少し振り返ったので、
「来るとか言わないでくださいね」
と俺は先手を打った。
豪快に笑う奴。そして何を言うかと思えば、
「真顔で冗談言うところ、気に入った。じゃあな!」
とドアを開けっ放しにして、出ていった。
俺は、呆然とドアを見つめる。
その後も教室に響いた先生の笑い声は、しばらく消えなかった。