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僕らの妹 二

地下への階段を降り、扉を開けると薄暗い部屋がある。

何十本ものコードと多くの器材に囲まれたガラスケースの中で、ぼんやりと照らされながら、全裸の少女が水の中にただよっていた。


「ミウミ、調子は?」


目を閉じている少女は、ルシカの声に反応しない。彼が首を傾げると、ようやく澄んだ青の目がルシカを映す。


『……ルシカにぃ、遅いー』


どうやらふてくされていたらしい。

彼女はほおを膨らませ、唇を尖らせていた。


『三月には戻るって行ってたのに。いま、九月だよ!

あたし、待ちくたびれたぁ!』


「悪かったって…。

全く、兄さんと同じこと言うなよ」


ルシカが困ったように額に手をやるのを見て、ため息を吐くミウミ。


『まぁいいけど…。

もー、ルシカにぃは優しいから許しちゃうよ』


ルシカがガラスケースに手を触れると、温もりを求めるように同じ箇所へ頬を近付けた。


ミウミはこのガラスケースで生きている。

飛空船の事故で一度脳死した妹を冷凍保存し、キュアが蘇らせた。

生き返った代償として、羊水代わりの特殊液が入ったガラスケースから一生出られない。


だからめったに会えないルシカが帰ってくるのを、とても楽しみにしていた。


『あ、聞いたよ。ルシカにぃ、昇進したんでしょ!おめでとぉー!』


水の中で手を叩くミウミ。

ルシカは照れ臭そうに笑う。


「兄さんにも言ったけど、特に反応無かったから忘れてたよ。

つかあそこに『居た』んなら教えてくれればいいのに」


『あの時はちょっと怒ってたんだもん。

それにちゃんと『実体』で会いたいし。

あれでもキュアにぃ、けっこう嬉しいんだよ。複雑なんじゃない?』


少し意地悪そうに可愛く睨むミウミに、肩をすくめるルシカ。


ミウミの身体はガラスケースから出ることはできないが、キュアの研究で『精神分離電気回路』の実験がなされてから、

ミウミの精神をホログラムが反応し、この工場内でのみ投影することが可能になった。


だが彼女自身、『まるで幽霊みたい』と気に入っていないため、家族の前でしか見せることはない。


「ホログラムの衣装設定って兄さんがやってるのか?」


『あたしも口出しするけど……基本はお任せだもん』


「…兄さんて若干変態だよな…」


ミウミがホログラムで着ている服は昔の貴族が着ていたふりふりした服が多い。

しかもなかなかセンスが良かった。


『――あ、キュアにぃが呼んでるよ。上のラボに行こう』


ミウミに促され、階段を上る。

彼の後ろには今日のファッションに身を包んだホログラムのミウミがいた。

膝上プリーツスカートに、白い透け感のあるシャツとピンクのネクタイ。丁寧に髪の毛までゆるいおだんごと、可愛くコーディネートしてある。


『どうしたの、ルシカにぃ?』


「…………いや、別に……」


兄の趣味にときめいてしまったルシカは、激しく自己嫌悪していた。

重い足取りで兄のラボを訪ねる。扉向こうで、キュアがフラスコにジュースを入れて休憩していた。

眼鏡を外していることから、話し掛けても大丈夫なサインが出ていた。

ルシカを見て、にやりと口を歪ませるキュア。


「なんだよ、気持ち悪いな」


「聞き忘れてね……見つけたか?」


一瞬沈黙し、俯くルシカにミウミが首を傾げる。


「アレは……あんなもの、見つかりっこない。

兄さん、まだ信じてるのか?」


フラスコが、割れる音。

床にこぼれていく水音。

キュアは冷たく睨み付けていた。


「当たり前だ……!

何の為に研究をしていると思ってる?


全てはあの唯一無二の鉱物、


……エレメントストーンの為だ」




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