7話 「戦闘」 ゴブリン (3)
「せいっ」
ギャリッギギギギ
速度を載せたナイフの一撃を放つが、バンダナを巻いたゴブリンはいつの間に抜いたのか
大振りのナイフでその一撃を危なげなく受け止める。
バンダナ野郎から視線をそらさずバックステップを行い距離をとると共に手にしているナイフを視界内にいるゴブリンの一匹に投擲する。
「ケガッ」
ザッ という音と共にナイフが突き刺さる。
そして胸にナイフを生やしたゴブリンは鳴き声を上げながら倒れ、魔素となった。
その光景を確認しながらナイフをイメージし手元に呼び出す。
髪の毛の生えたゴブリンをいたぶっていた禿頭たちはこちらを見ながら唖然としていたが、バンダナ野郎が短く「ゴッ」っと低い声で鳴くと慌てて自身の武器を握りなおしこちらに向けて駆け出す。
「俺はいたぶる趣味は無いからな、確実に逝かせてやろうっ!」
むかって来たゴブリン達を、
魔力を乗せた左手の突きで、
力を乗せた回し蹴りで、
ナイフの一閃で続け様に屠ってゆく。
7匹ほどいたゴブリン達は1匹にまで減り・・・
「はっ」
そして最後の一匹を斬り倒す
「後は、バンダナ野郎だけだな。」
普通のゴブリン達と戦ってる最中も視界に捉えていたが、
こいつ、見ているだけで何もしてこなかったな。
そのことを不思議に思っていると、バンダナ野郎は口角を吊り上げ ニヤリ と笑う。
「声のトーンもそうだが表情も豊かだな。」
「・・・ギッギッ。ヤル・・・ゾッ!」
「な、こいつ。喋れたのか。」
喋りだしたかと思うとこちらに駆け出す
「ギッ」と声を上げながらナイフを横に振る
力とスピード、重さが加わったその攻撃をまともに受けるわけにはいかないと思い
ナイフを握る右手に左手を添え、屈みながら相手の一撃を逸らす
すかさず蹴りを放つが斜め後ろに下がりやり過ごす
ちなみに今の姿は、
バンダナ野郎が革か何かでできたベージュの短パン、と同じ色だが布でできたバンダナ、
両の手首には薄汚れた包帯のようなものが巻かれている。
サポートテープかリストバンドみたいだな
そして、右手にナイフ、ダガー?それとも、短剣と言ったほうがいいのか30cmほどの得物
他のゴブリンからしたら20cmほど背が高いがそれでもゴブリン、ナイフがやけに大きく感じる。
ちなみに、普通のゴブリンたちは100cmあるかどうかで
短パンなどではなく腰蓑、武器は20cmくらいの木でできたこん棒
石斧を持っていたのは最初の自滅ゴブリンだけだった。
副隊長かなんかだったのか、それとも力自慢だったのかは今となっては不明である。
そして、うつ伏せに倒れているボロボロな髪有り変異種ゴブリンは、ボロボロな布切れを巻いている。
時折痛々しい呻き声が聞こえてくる。
何でこんな話をするかって?
そりゃ今の現状を確認してるのだよ。
俺の姿?そりゃゼ・・ン・・・
ウロコヲマトッテイルカラゼンラジャナイヨ。
うん。認めんぞ。そこは、ただのトカゲの時から鱗を纏っているからと納得することにしている。
そうじゃないとイルマの前で開放的な姿だったということにもなるからな。
そりゃ今はゴブリンの骨格にトカゲを近づけた感じの見た目だしな、背丈のほうも普通のゴブリンとそう大差ない100cmを少し超えてるかどうかである。
しいて言うなら今の姿は「トカゲ男」、リザードマンっと言ったところか・・・
体色は全身茶色っぽい。
ただのトカゲ状態だった時の見た目は、日本の固有種でカナヘビ科カナヘビ属に属する爬虫類「ニホンカナヘビ」に近いかな。
田舎のばあちゃん家の庭で見かけたことあったな・・・。なつかしーな
そして最後に武器は、魔力を纏った状態の手足と、右手に握る20cmもないナイフ
よし、確認終わり。
互いに得物を振るい、交わし、弾き、かわし、時には掠める、お互いに軽傷ではあるがダメージが通る
拮抗状態が続いていたが、髪有りのゴブリンが急に「か、けっは・・・」と苦しそうにしだした。
「こうなったらっ!」
相手の懐に潜り込み、すかさずナイフを呼び出すと左手に握り一閃
こちらが急にナイフ二刀流になったことによりバンダナ野郎は反応しきれず腹に一撃をもらう
「ギウッ」っと短く悲鳴を上げる
体勢が崩れた隙を突き、空いた横っ腹に回転しながらの尻尾の一撃をぶつける
まともに受けた攻撃にボールのように2回ほど跳ね飛び転がった。
俺はそこに追い討ちをかけるべく、足に力を入れ跳びかかる
バンダナ野郎はかわしきれず・・・
「ガ、アアアッ」
二本のナイフが胸元と鳩尾辺りに深々と突き刺さった。
「カッ・・・ハ・・・ハア・・・」
浅い呼吸をしながらナイフを手放し、その手で自身のバンダナを握り締め、剥いだ
その頭には色が違うがやはりと言うべきか髪が生えていた。
「ガッ・・・ウ・・・」
痛みに声を震わせながらも握り締めたバンダナをこちらの胸に押し当てる
「マ・・・ケ・・・。ト・・・レ。」
掠れゆく声でそう告げる
その言葉に小さく頷くとナイフから左手を離しそのバンダナを受け取る
それを見届けると、力無く笑い。こちらから視線を外し、代わりに天井を見る
「ヤス・・・ミ。」
それが最後の言葉だった。ゆっくりとまぶたを閉じ、眠るように活動を停止した
「・・・。ああ、おやすみ。」
眠るように動かなくなったゴブリンにそう告げる。
そして、ゴブリンの体は霧散した。
カラン、カラン と二本のナイフが転がり落ち、大振りのナイフと
こちらが握るバンダナのほかにはなにも残らなかった。
無言で落ちた二本と大振りのナイフを格納し、歩きながら髪の生えたゴブリンに近づき
そばに転がるナイフも格納する。
バンダナもイメージしたら格納できたが、武器とは別枠らしい。
「とりあえず、ボロボロのゴブリンだな・・・。」
横に屈むと、その身体を返しながら抱きかかえる
「俺にできることは・・・。そうか、魔素でできているというならそれを応用して・・・」
左腕で首の後ろを抱え、右手を腹に軽く当て、自身の持つゴブリンの魔素、それも今倒したバンダナの少し特別そうなやつを流し込む。
「う、ううゥ・・。」っと呻くが、見える範囲で傷や痣の様なものが薄れ消えていく
少しして流し終わると、これは成功したかなと思い顔を覗く。
ちなみに、バンダナのやつの髪は焦げ茶色って感じだったが
この子は黒に近い灰色、灰色が混ざったかんじの、なんかこう・・・
ハーフとかですか?って聞きたくなるような混ざった感じの色合いである。
そして、魔素を流し終えたあたりから、前髪の一房が部分的に少し茶色く変色している。
「こりゃ、確かに変異種というかなんと言うか・・・。」
覗いた顔を見て思う、こりゃゴブリンといわれたら首を傾げるな・・・見た感じ人の子と大差ねーゾ。ただ、体色は流石にゴブリン依りに薄緑がかってはいるが・・・
ニヒルなバンダナ野郎よりいっそう違う存在だな。
そう思っていると、薄目を開けてゴブリンがこちらを伺う。
無事か?そう言おうとして思いとどまる。この子も変異種だとして、バンダナ野郎のように言葉を発するとは限らないしな、呻き声しか聞いてないから判断しかねるな。
(どうしたものかな・・・。)
と、思わず今までのように口を使わずに言葉を発する。
それに対しゴブリンは・・・
(ドウ・・・シ・・タノ?)
と、え?
ゴブリンも口を開かずにこちらに意を伝えてきた。
(なんと!こちらの声が伝わるのかい?)
こちらの発言に端整で愛らしい顔をしかめ
(ウルサ・・イ。コエ、オオ・・キ。)
と、言われてしまった。驚いたせいで強く伝わったのだろう。
申し訳なく思い。
(ぁぁすまない。まさかキミと言葉を交わせるとはおもわなくてね。)
(ン・・・。)
と、小さく返事をかえした。ま、少し休んどいてもらうか。
(少し休んでおくかい?傷を治したからといっても気力とかは回復してないかもしれないからね。その間に俺はこの部屋を見て回っておくからさ。)
(ダメ・・・コノママ・・・イイ。)
・・・。参ったな。しかたない。
(こんなことを聞くのはあれだけどキミは、なんで他のゴブリンたちに攻撃されてたのかな?)
こちらの言葉に首を傾け
(ゴブ・・?ナニソレ?キヅイタラ・・・ミチ・・・イタ・・・アタシ。ココツイタ
ミドリ・・・ヘンナノ、アタマタタイタ。タオレタ・・・。ソシテ、ホカノミドリモアタシタタイタ
ソレヲ、ヘンナミドリ・・ガ・・ミテタ。)
こりゃーなんといいますか。もしかして、ゴブリンじゃないのか?
しかし、変異種として発生し、高い知性、そして、気付いたらこのダンジョンにいて通路を進んだらこの広い部屋に着いたと。
そこを、多分新手の存在として危惧したゴブリンたちが攻撃しながら様子を伺っていたということか。
ん~タイミングがよかったというべきなのか。
そして、この子は、こちらに危害を加える気配も無いしな。
それどころかこの体勢を続けるように言ってきた位だもんな・・・。
(まいったな、俺は人を探しているんだ。ここに残っているわけには・・・)
(ナラ、ツイテク、イッショ、サガス。アタシサミシイ、イヤ。)
細い目を少し開きながら、そして、瞳をキラキラさせながら・・・おい、キラキラしてるぞ。
なんだろう、この子犬のような・・・ぐっぬぬ。こりゃ、TVなCMを馬鹿にできねーな。
(しかたない。ここにいてもまた攻撃でもされたらたまらんからな。
よし、そろそろいいかな?お話もできたことだし、この部屋を見て回りたいんだ。)
(ン。)
小さく返事をしてもぞもぞしながら起き上がる。
(では、見て回ろうか。)
(ン・・・ワカッタ。)
起き上がったゴブリンは俺より少しばかり背が高かった。
べ、別に背の高さなんて気にしてないんだからな!チラッ・・・
1階がコウモリがいたところになります。
B1がゴブリンとなります。