5話 「戦闘」 ゴブリン (1)
ああ、ドシュ!ってドサッ!たよ。
(おみごとですな、イルマ殿。)
俺なんか「1ダメージ」ってモロに聞こえてきたよ。
ああ、ショボさに驚愕していたね。
ポ○モ○の最初のライバル戦でも引っ掻くは毎度おなじみの選択肢だった。
だがしかし、現実はそううまくいかないものだ。
せめて2~3ダメージなら・・・ううう。
「ィ、イルマで大丈夫ですよ。」
(魔物を一撃とは・・・)
「・・・。お母様のおかげかな?
流石に一発で倒せるとは、当たり所がよかったのですかね。」
な。イルマのお母さんは何者なのだ?
娘に石投げさせてたのか?それとも肩を鍛えさせていたのか。
確かにクリティカルなら・・・ドシュるのかもな
(そ、そうかね。
ちなみにだけどその、イルマのお母さんはどんな人なのかな?)
「とても明るい方でした。そして、私がいつも絵本を読んでとせがんでも嫌な顔せず、それどころか嬉々として読んでくださるような優しい・・・優しい方でした。お父様とご結婚なされる前は、冒険者だったそうです。
ハンターは魔物を狩り、手に入れた素材や魔石等を捌いて生計を立てています。
それに比べ冒険者は、未開拓の地を主に描いた地図や遺跡などからの出土品をそれなりの価格で提供したりするのです。
どちらも汚れ仕事だとよく言われます。
ですので重宝されるが余りいい顔はされない。
ただの死体漁りに、墓荒らし、他者からは言いたい放題です。」
そう言いながらイルマは両拳を強く握り締めた。
「たしかに、荒くれものが多く引退者や余り成果を残していない方はとくに煙たがられる存在です。
でも、暖かい人たちもたくさんいるのにっ!あの目は、あの目は何なのですかっ!あんな言い方なんてしなくてもっ!」
過去、いやもしかしたら最近なのかも知れないが、そうとうな偏見持ちに何か言われたのだろう。
心無い発言に彼女は言われた側以上に怒っているのだろう。
ああ、多分この熱い部分は大事だ、大切だ、そして泣き虫な彼女にこれほどの熱さを受け継がせることのできた母親は偉大な人だったのだろう。
「くやしい!くやしいのです!おじ様方はただの苦笑いですまされていましたが、私は!私はあぁっ!」
(ストップ、ストップだ。頼む落ち着いてくれないか?)
「はあ、ふう、ふう、はあ、・・・・ふぅ。申し訳ありません。」
(いや、いいんだ。その気持ちは尊いものだ、だが、ただ怒りに振り回されるようではどうかと思うよ。)
「・・・はい。」
(結局、どこまで行っても同じ感情を共有できる数は限られてくるからね。
発言者の中には荒くれモノによって被害を受けた人だっているだろう。
間接的に被害につながった場合等も・・・。
そして、育ってきた環境や見てきた景色によってまったく違ってくるものだ。)
「難しいです。」
(そうかな?イルマは確かに「今は」いいオジサンな人に恵まれた可能性もあるというわけさ・・・
だからといって、今後も同じとは限らないだろう?
もっと酷いうわさを聞くこともあるだろう。実際に酷いことをする人に会うかもしれない。
そうして行くうちにイルマ自身の考えや行動・言動が変わっていくかもしれない。
イルマだけでなくその知り合いや、周りの人たちも変わるんだよ。)
「不変なものは無いということですね。
確かに、その方にはその方なりの意思があったのかもしれません。
感情的になると周りが見えにくい私には拾いきれない相手の意思があったのかもしれませんね。」
(そうだね。でも、他人のためにそこまで怒れるのはいいことだとは思うよ。
取りあえずは周りが見えなくならないよう冷静な状態を維持できるように心がけていけばいいと思うよ。
目指せ!クールビューティー!)
「えっと、目指せ、くぅるーびゅうていー!」
・・・なんだろうかな。時折把握しきれない言葉があるな
「リューイさんは、いろいろとお詳しいのですね。まるで私より年上なお兄様のような・・・」
(ああ、元は人間だからね。なんで、トカゲになったのかよく分からないけど。)
「え、ニンゲン?人族ということですか?!」
(ソウダヨー。)
はあ、人族ね。とりあえず先ほどの戦闘の言い訳も・・・
(だからね、調子もよく分からないし。力量もサッパリなんだよ。だから戦闘も、ね?)
「は、はあ・・・。って、ぇえええええ~~~!!」
何だろう、今度は何の驚きだろう?
「結局私は何を呼び出したのかサッパリです。」
(そう言われてもね~俺は、「その世界でのカタチに書き換わる」っとか言われてたし
守護者として呼ばれるだろうからって言われた後、呼んだその子を守って欲しいと。)
「守護者、ち、ちなみにその、どなたがそのようなことを?」
(ん?ああ、幼馴染だよ。)
「・・・・・・・。いえ、その幼馴染様がどのような方なのか分かりませんが・・・。」
(この世界の善神とか言ってたな。)
「へ、妖精さんとか精霊様ではないのですか?」
(確か「ここ数十年で生まれ・確認・認識され始めた新しい神よ!」っとなんか偉そうに言ってたな。)
その発言によりイルマは目をめいいっぱい開け、ついでに口もゆるく開いている。
(まあ、そんなことはいいや。っということでもとは人なんだよ。そして、この世界ではこのカタチが俺にとっての姿なわけで、存在は守護者という事だね。そして、知識が心もとないわけだよ。)
「ひょ、ひょうでひか・・・。
・・・なんだかもう何に驚いていいのか分からなくなってきました。」
(そうだな、慣れは肝心だな。)
「そういうことじゃ、もう。神の使いを呼び出すことになるとは・・・もういろんな意味で疲れてきました。」
いや、事実疲れているのだろう。話を聞く限り、父親と別れた後は休まずこの洞窟まで向かい、休憩を挟みながらだが洞窟内もそれなりに移動したことだろう。
呼び出した後もこうして行動を続けているのだ、体力的にも先ほどおなかがすいたといっていたしな。
気力も磨り減りこのままでは。
(なあ、イルマ。休んだほうがいいんじゃないか?)
「ですが、ダンジョンの中ですし・・・。」
(俺は確かに攻撃は心もとないかもしれないが、体力ならさ、イルマが驚くほどあるから。
もしもの時は盾になれる。これでも守護者だ、やわじゃない。)
「でも」
(とりあえず休もう。確かにお父さんのことが心配かもしれないが、その前にイルマ自身が倒れてしまったら会えるのも会えなくなってしまうよ。)
「はい。」
ちなみに、さっきのコウモリがどうなったかだって?
簡単だよ。ドシュ!って右片方の翼と胸の部分までがね・・・うん、バイバイしちゃった。
そしてドサッたところである種の生肉状態に・・・ね。
ごめん、ごめん見ないようにしてるんだ。
黒っぽいもやもや~が傷口から抜けていくところは確認した。魔素ですね。
そして、この場で休むわけには行かなかったので光る苔の生えた空間へともどった
それから少しの間だが休息をとることにした。
先ほどのコウモリ以降何も生き物も魔物も現れていない。
「・・・すう。・・・むにゃ・・・。」
・・・。寝てる時「むにゃ」って言う人はじめてみたかも。
まあ、他人の寝姿見る機会自体が少なかったわけだが・・・。
あの幼馴染に関しちゃ「うへへ~」とか「はやく、はやく」だとか
「男だろ?こういう時は分かってるよな?」などなどなんと言いますか
寝言が多かった。薄目開けてるような気もしたが。
あの色ボケの寝言はほおって置いて今は目の前の天使のほうが大事だ。
うむ。天使だ。
(俺は今のところ腹がすいたり眠気が襲ってきたりが無いなぁ・・・。
疲れねぇ。てか、俺は生き物でいいのか・・・。)
そう小言をぼやいていると ポ~ン っと機械的な音が響いた
(んっ!なんだ!)
「ふぇ、え、あ、おはようございましゅ。
・・・どうかなされましたか?」
(いや今、ポ~ンって音が聞こえた気がしたんだよ。気のせいかな?)
「そうなのですか?あ、仮眠を取ったおかげで気が楽になった気がします。疲れも少しは引いてくれたみたいですし、その、ありがとうございます。」
(おおそうか、それはよかった。イルマは少し気をつめすぎていたようだからね。)
「お恥ずかしながら。私が休んでる間何かございましたか?」
ああ、天使を見た。天使を見てたんだよ。っとは流石に言えない
(問題は無かった。その、ポ~ンって音以外は。)
「その音に関してはそれ以降は聞こえてこなかったのですか?」
(イルマが起きる前に一回だけだったからね、それ以降は聞こえてこないな。)
「ん~。さすがに弱いとはいえダンジョンですからね、なにかしらの音が聞こえてきたのでしょう。」
(さて、とりあえずは分かれ道まで向かおうか。)
「はい。」
そして、先ほどとは違い問題なく分かれ道まで着く
「た、たしか光っていたのは左側だったから今なら真っ直ぐ見て右斜めの方が光を確認してきた通路になるはずです。」
(では、通路から見て左は違うんだね。右斜めにむかおう。)
右斜めのほうを選び進んでいくが、行き止まりだった。
「あ、あれ?おかしいですね・・・。戻ってもうひとつのほうを。」
(そうだな、俺は実際に見てきたわけじゃない。力になれなくてごめんな。)
「い、いえ。十分お力をいただいております。私一人では、こうして歩けてはいなかったと思いますし。」
(そういってもらえるとありがたいな。)
会話をしながら来た道を引き返し
(お、先ほどの分かれ道だね)
「では、こちらから見て右斜めですね。」
もう片方の通路を進む、進む、そして下に向けて続く階段が現れた
「か、階段?!ど、どうして・・・。これじゃまるで」
ああ、彼女がなんと言わんとしてるのかが
生み出されたダンジョンが生み出した側のダンジョンと併合し、新たな出入り口となること
そうだったな、違和感がある時点で最悪なパターンが複数待ち構えていると心しておくべきだったな。
(降りるしかないのか、ほかは行き止まりだしな。)
「そうなりますね。え、」
(ん?どうし・・・た・・・)
ああ、蜘蛛だ。蜘蛛だよ蜘蛛。
ただ、美しいと思ってしまった。
体は八本の足にいたるまで黒曜石のような光沢を持ち、並んだ複数の目は血のように赤いルビー。
薄暗いこの通路においてもその存在感は異常であった。
階段の途中のほうからこちらを覗くその姿。
タダ、デカインダヨ。気持ち悪く思いそうだが美しさが勝ったね。
そして二人して呆けていると、蜘蛛は階段を駆け上がり
「あっ」
(うおっ)
四本の足を使ってイルマを抱きかかえた。
足の仕組みが違うのかもう半分の四本は向き自体がちがう。
(しまった!)
イルマを抱え上げる時に肩から振り落ちてしまう。
「こ、この蜘蛛、 亡骸背負い と言われている謎の多い魔物です!
何でこんなところにっ?」
(い、イルマ!)
「きゃっ、きゃ~!リュ、リューイさーんっ!」
(イルマあぁぁああ~!)
イルマを大事そうに背負った蜘蛛は階段を勢いよく降りていく。
そして瞬く間に見えなくなってしまった。
(イルマ、イルマっ!がっ、ぐっ、クォっ、が・・・・くっ)
その後を追いかけるが、四本の足でまともに走るのが初めてだった俺は階段と言うこともあって体勢を崩し勢い良く転げ落ちる。
(いっ、あの蜘蛛いったいどこへ・・・。)
周りを見渡すと上の階層より広い通路が待っていた。
そしてその通路の一つから複数の視線を感じた
「ぎっぎぎぃ」 「きー」 「ぎゃぎゃ」
複数の声が聞こえ、その姿を現した。
(ゴブリン。)
RPGをはじめとするさまざまなゲームや小説等でおなじみである。
緑っぽい皮膚。髪の毛の一本生えてない禿頭、尖った耳に、黄色く濁った目、身長は100cmあるかどうか。個体差は少しばかりあるようだが。
武器を握っているようで一匹は石が紐で括り付けてある棒、石斧かなそれともハンマーかな?
それと残りの二匹は、まあ、あれだ木のこん棒。
(やばいっ)
そういうものの、逃げるまもなく囲まれてしまう。
そしていっせいにその手にした武器を振り下ろした。
がっ みしっ と言う音がし
「ぎょえっ」「ぎぎっ!」「きー」
振り下ろした武器が勢い良くへし折れ飛んだらしい
石斧が頭部にめり込んだゴブリンが変な声を上げて倒れた。
(・・・へ?これは)