4話 「戦闘」 コウモリ
「ん~何か忘れているような気がするんですけど・・・。
歩いていれば思い出しますかね。」
との事だったが、まああの明るい空間から出てすぐに何となく察した。
簡単なことである。
「え、あれ・・・。何で分かれ道があるのかな?」
とのこと、いや、元からそうだったとかならよかったのだが
先ほどいた空間まで「一本道」でほかに通路は無かったはずだったと。
(なら、一旦戻って確認してみるかい?)
「そ、そうですね、もしかしたら。」
との事で苔が照らす空間に戻る。
通路から壁に沿ってぐるりと空間内を確認しながら歩く。
うん、無いね。他の通路。
「・・・。まさか、いえ、でも・・・。」
少女は困惑しながらも少しずつ状況を分析しているのか
トカゲ(俺)を肩に乗せながら右手をあごに添えそう呟く。
「・・・ダンジョン。でも、入った時はそんな感じはしなかった。
今思うと不自然なところなんて、なんて・・・、あ」
おお、ダンジョン!お約束デスネ!
そして彼女は何かに・・・
「そうでした、あの時は本を。」
本?それは先ほど俺をこちらに呼んだという本のことかな?
(それは、俺を呼び出した本の事かい?)
「はい。ですがその本についてお父様が『その本があれば弱い魔物は近寄って来ない。特にダンジョンの中ではそれなりに強力な魔物であっても避けてくれるはずだ』と・・・。」
(と言いますと?)
「本が無いのです。」
(そうだね。その本がどのようなものだったかはわからないけど確かに今は見当たらないね?)
「そうなのです。無いのです。だから・・・」
(だから?)
「今は、ダンジョンなのです。」
(ハイ?)
「ですから、弱いダンジョンだったと言うことです。」
(弱いダンジョン?)
「はい。ダンジョンは生きている。っと昔から言われております。
本で読んだだけですので、そうなのだと言われても憶測や想像程度のものでした。
それに、この近くには確かにダンジョンはあるのです。
でも、十年ほど前に『拳闘将』と呼ばれた今やとある町の英雄にまでなってる方なのですが、その英雄様が自身の命を賭して鎮静化させたのです。」
この手の話にはよくありそうなものだな。ただ、都合よく祭り上げられたりとか、ただ生け贄にされたりや美化されただけじゃ無ければいいが。
(なるほど、沈静化ではなく鎮静化か・・・。その英雄さんがどのようなことをしたのかも詳しく知りたいが、その前にダンジョンが生きているというのは?)
「そのことなのですが・・・。あまり詳しくは無いのです。ごめんなさい。」
(いや、いいんだあまり知らないのなら仕方が無い。だが、弱いダンジョンとは?)
「弱いダンジョンとは、それなりの年月が経っているダンジョンが子を産むかのように作り出すらしいのです。」
(なんと。)
「生み出されたダンジョンは枯渇しやすく弱いのですが、厄介なのは生み出されたダンジョンが生み出した側のダンジョンと併合し、新たな出入り口となることがあるのです。特に膨大に魔素を生み出しているダンジョンにその傾向が見られるようです。」
なるほど、わからん。その魔素とやらが何なのかもっとわからないが・・・
(ちなみに魔素とは・・・。)
「あ、そうでしたね。あまり詳しくは存じ上げなかったのでしたね。魔素とは、魔物を生み出す『志向性』を帯びたマナですね。それが、寄り固まると魔物を生み出したり、魔物にしたり、異界化したりします。」
魔物、なるほどそれっぽい生き物はまだ見たことが無い。てか、石畳に土に苔、通路しか見てないな。
(魔素だけでも魔物になるのか?魔物にすると言うのはやはり動植物がか・・・、異界化がダンジョンのことだね?)
「はい、塊となってカタチを成します。魔物にするほうは生き物だけとは限らないところですね。物や道具も変化したと言う文献を読んだことがあります。
そして異界化、魔素によりダンジョン化した場所は、元の広さや形のままとは限りません。
今いる洞窟のように。
ああ、石畳が見えてる時点でダンジョンと気づけていればもう少し考えて行動できたのに・・・。」
(入ってきた当初は?)
「すでにダンジョンだったようですね。
ですが、弱く異界化を維持するのが厳しかったのでしょうね。
そんなところにお父様が書いた本で影響を受け・・・」
(中途半端な状態になったと。
だから石畳等も疎らで通路も複数維持できず一本道で、元の洞窟に近しい状態だったということだな。
だが、影響を与えていたイルマのお父さんの本が無くなり、また異界化した状態に戻り始めたということだね?)
「はい。分かっていれば曲がり角等に印等を残してもう少し慎重に行動できたのに・・・。早まる気持ちを抑え切れなかった私が悪いのです。ごめんなさい。」
(いや、謝らなくていいからね!俺を呼び出したら本が消えるとかはわかんなかっただろうし、お父さんと別れて心に余裕が無かったんだろう?それで責めるのは酷だよ。)
「ううう・・・。」
(なかない。なかない。今度は慎重に、だが、それでも迅速に行こう。)
「・・・はい。」
(よし、とりあえずさっきの分かれ道まで進もう。)
イルマは無言で頷くと鼻を啜り、目元を長袖の部分でごしごしと擦った。
通路を進んでいると、「あ、そういえば!」と呟き話し出す。
「先ほどの話ですが、鎮静化されたダンジョンは自身の維持のため縮小したり、ダンジョン内外生息したりしている魔物の数が著しく低下するのです。」
(ちなみに、鎮静化はどうやって?)
「ボスモンスターと呼ばれ、ダンジョンのコアをその身に宿した強力な魔物を倒し溜め込まれた魔素を放出させるのです。」
(放出された魔素は?)
「志向性を失います。つまり、マナに戻ります。ちなみに、ダンジョンのコアは凝縮された魔素が結晶化したものだそうです。マナも結晶化するので、倒した魔物から手に入れることも、採掘したりして自然から手に入れることもできたりします。」
(コア、心臓部みたいなものだな。つまり、魔物を簡単に倒すには結晶化した・・・えっと魔石を砕いたりすれば楽になるのかな?)
「ある程度の弱さでしたらそれで可能でしょうけど、それなりの強さになってくると自己修復するそうです。」
(おお、ファンタジー。)
「ふぁんたぁじぃ?」
(いや、なんでもない。そ、それでだが・・・)
「あ、脱線してしまいましたね。ですから、この近辺のダンジョンでは新しくダンジョンを作り出せるほどの余裕を持つダンジョンは無いはずなのです。そして、新しく生まれるほどの魔素も漂ってないはずなのです!」
(な、なんだって!)
「ですから、違和感が拭えません。」
(そりゃ、厄介だな。)
「はい、ですのできゃっ!」
(うをおうっ!)
話してる最中に急にしゃがみ込む。そして、彼女の頭上を「バサバサ」と音を立てながら何かが通り過ぎた
「コウモリです!」
(な、なんだ。コウモリか、てっきり魔物でも・・・)
「魔物化してるようです!やはり、本が無い今となっては魔物もむかってくるようですね!」
そう言うと、彼女は魔物化したコウモリを睨みつけた。
(だ、大丈夫なのか!)
「鑑定してみましたが、魔物化を確認できたのと、HPは13です。確かに魔物化して普通のコウモリよりかHPがあるような気がします。」
(なんと、
イルマは俺が守る!
とうっ!)
再度こちらに向かってきたコウモリに飛び掛り引っ掻く!
「キッ!」と小さく悲鳴をあげコウモリはよろける。が・・・
「・・・・・・・。1ダメージって。」
なんだろう、カッコイイこといっといてこれでは流石にナケテクル
「ってい!」
イルマは、しゃがむと拳大の石を掴み掛け声と共に・・・
よろけるコウモリに掴んだ石を投げつけた!
ドシュ! 「ギッ!」 ドサッ!
うん。今、ドシュって・・・。ドシュってなんよ。
クリティカルですねはい。
それともオーバーキルかな。
まあ、投げた石はコウモリにヒットしてドサッった(地に落ちた)ね。
(・・・お、おみごと。)
戦闘・・・え?