27話 「こんな奇跡」
『移動する神殿だなんて、どこででも聖域展開が可能だわ。』
いや、それどころじゃない気がするんだよな。
今の聞こえなかったのか?魔王因子ってやつだよ。
聖域展開とやらは少し気になるが…今は、魔王についてだ。
『ん?聖域展開が知りたいって?簡単よ、展開した周囲をアタシの加護下にするのよ。
イザって時の切り札でもいいし、安全な場所を確保したいって時にも使用可能よ。
まあ、常に使えるわけじゃないから…使い時を考えなきゃね。』
なるほど。じゃ無くて魔『それに関しては問題ないわよ。竜一が魔王になるわけではないからね?』
へーじゃあ誰がなるんだ?ゲレスか?
『彼はもうなってるじゃない。
魔王はもう魔王なんだから魔王化しないわよ。
まあ、今は休養・治療の再生中だけど…彼もどれくらいかしたら復帰できると思うわ。その時は力になってくれるでしょう。
それとなく説明しとくわ。』
彼は助かるんだな。
『まあ、元より殺されてたみたいだけどね。
その欠片とやらが壊れて消滅しちゃったから、元どおりの死体になるばかりか、今までの反動によって消滅しだしたみたいね。
今後は存在を安定化させて竜一のダンジョンに所属する魔王の一人として君臨することになると思うわ。』
おお!魔王が居るダンジョンとか…ゲームやファンタジーの世界だな。
『別に、この世界ではそう驚くことではないわ。ちなみに、魔王が治めてる町がここから1日もかからない所にあるわよ。』
魔王が治めている町…魔界なのか?この地は…
『なわけないでしょ!
魔王はね、人型種族の内の一つ魔族って言われてる種族なんだけど…
その中でも可能性あるものが存在を進化させた姿のことを言うのよ。
ステータスの0が増えて確かにスゴイ強くはなるわ。』
魔界ではないのか。ん?確かイルマも魔族の血が半分流れているわけか。
『魔族が魔王。獣人族が聖獣。エルフはハイエルフ。人族は英雄。リザードマンは竜人。
後、イルマだっけ?その子は魔族より鬼人族の血の方が濃いようね。だから鬼神に存在進化できるかもね。
まあそんな感じで、亜人とかも数えるとなると存在進化する種族はこの世界に沢山いるわね。』
イルマも進化するのか。それも鬼神ときたか、強そうだな。
リザードマンではないが…トカゲな俺は竜人になれるのか、もしくは進化するのか?
それとも、ダンジョンということで進化は無しか?
『…。そ、そそそれっぽい姿にはなれるんじゃないかな?でも、どこまで行ってもトカゲ固定みたいね。今の所はでしょうけど。』
今の所はって言うのは希望が持てそうだ。
てことは、魔族の誰かをこの魔王因子で魔王に進化させれるわけだな!
『そうとも限らないんじゃないかな。可能性は色々あるわよ。なんと言ってもアタシの加護が作用するんですから。ふふふっ…邪神もイイモノ置いてってくれたわね♪』
今の俺にはカミナもよこしまな神に思えそうだぜ。特に笑い方が…
『んもうっ!あんな歪なのと一緒にしないでよ。笑い方が黒くなったのはしょうがないわよ!ほんとに使い道が豊富でイイモノなんだからっ!』
魔王因子とやらがそこまでいいものなのか?
『まあ、聞いときなさい。今から作り変えるから…』
ポ~ン
<『魔王因子』は『存在進化の可能性を秘めしモノ』に変化しました。>
お~名前長いな。秘めしモノね…言い方と、魔族オンリーってのを撤廃したわけだな。
『彼、ゲレスだったかしら。元人族なのに無理やり魔王にされてたでしょ?
邪神は無理やりくっ付けて、それこそ実験やお遊びだったのでしょうけど…
それを、種族ごとにちゃんと機能するように作り変えたのよ。』
特効薬を万能薬にしたみたいなもんか?
『その考えで強ち間違えじゃないのが驚きだわ。
まあ、使ったら体調崩すようなドーピング薬と言った方がいい残念な代物だったわけでもあるけど。
それを、良くなる可能性がある物にしたってわけね。あくまで可能性の域だけどね…
やっぱり、こんなことができるアタシって善神☆』キラッ
はいはい、善神善神。
にしても、そのキラッという効果音(☆)とかエフェクトは必要なのか?
俺には見えないんだが…
『ぐぬぬぬ…別に必要ではございません。いいじゃない、自己満足でも!
職権乱用ではないんだし~』
それでいいのか善神カミナよ。
『むー冷たいなあ竜一は。
ん~そろそろお時間ね、また何かあったら連絡するわ。
竜一のほうから声が聞きたいって言うならアタシの神殿に入れば返事ができそうな時は返事するわ。
これでも忙しい身なのよ。じゃ~ね~』
あ、気配がなくなったようだ。忙しいのかね、一応神様ってやつは。
さてと、今後について考えないとな。
取りあえず本を呼び出し会議室の窓を開く。
「…。」
おや?ソールが俯きながら無言だ。どうした?
凄く申し訳なさそうな顔をしながらガーオルが口をひらく
「いや、それがよ。騎士様を殺したのがゲレスの兄貴なんだわ。」
続いて、目元が真っ赤に腫れているベルリが呟く
「それを見た、ウナだっけか…あの子がアタイの腰からナイフを奪って…」
自殺したと?そんな…
机をはさんで向かいの席に腰掛けるヴォルキンが
「だから私たちとしてもなんとも言えないのでな。」
その右隣に座るゴルトが苦笑い気味に
「ああ、ヴォルキンや俺はアンデットの復讐者となったそこの騎士にやられたわけだしよ。」
ヴォルキンさんだけでなくゴルトのおっちゃんもなのか…
こりゃ根が深いな。元をただせば邪神の行いによるものの被害者達ではあるが…不幸の連鎖というものか。会議室内は明るいのに、そこに集まっているみんなの顔は暗い。
「おれなんかが口出しはできねーからよ。個人個人の意思が重要だ。」
俺も純太郎もこの件に関しては口がはさみにくいな。
その時、会議室のスライドドアが開いた。
そして、室内に足を踏み入れたのは…イルマ?
「私としては、失礼だとは思いますが…皆様、元は死者。
ですが、リューイさんのおかげで今こうして話す機会も設けていただき、話せなかったことや、聞けなかったこと、知らなかったことを話せて、会えなかった方とまた共に居られているじゃありませんか!
こんな…こんな奇跡は本来ありえないのですから!
ですから、今までではなく、これからの事について皆さんでお話していきませんか?
私からは以上です。」
イルマは一気に話し出すと、最後は頭を下げた。すると…
「わかってはいるさ、わかっている。私も、そして彼もまた家族のためだったのだろう、その形を他者から捻じ曲げられた結果だという事も。」
顔を持ち上げたソールはイルマに微笑みかける。
「だから、顔を上げてはくれないか?起こしてしまったことは変えようが無い。だから、みんなすまない。復讐者という魔物だったからといっても、殺してしまったのは私自身だ。本当にすまない。」
そう言うと、席を立ち…土下座した。
ああ、この世界にも土下座があるんだな。
銀髪美丈夫の土下座とは、絵になる…背中の文字以外。
じゃなくて、謝ったからといっても心の整理ができるとは限らないよな。
「それを言われたらアタイは…アタイはウナって子の転生したゴブリンを殺しちまったんだよ!今まで怖くていえなかったし…思い出しただけでも…う、ううう~」
今度はベルリが泣き崩れながらも頭を深々と下げカーペットに額を押し付けた。
ソールは顔を上げるが、ウナが休憩室で眠っているのを知っているからなのか、動揺もせず、声も出さない。
この物語にバッドエンドは多分無いと思うんだよ。
今だってこの部屋に居るのはイルマ以外、本来なら物言わぬ死者なんだし…。
「ウナさんという方ですか?彼女なら私が眠っていたベッドにいつの間にか潜り込んできて、ご自身の名前とリューイさんの名前が出るような幸せそうな寝言を…。
え、いえ羨ましいとかではないですからね!
後、知らない紫色の髪をした女性が更に潜り込んできたので、いろんな意味で狭くなって…出てきたところで皆様がこのような話をされていたので。」
紫色の髪って…まさかね。
いろんな意味で狭く…いや、まさかね。
そう考えるとイルマには辛いか…だってイルマのは明らかにウナより…
そして紫髪の姉さんだったら更に…
さて、この話は置いておこうか。
(そりゃあそうさ、俺がダンジョンになったのはウナのおかげでもあるんだ。まあ、その紫髪の女性も関係してるけど。)
俺が会議室に向けて話すと…
ガタン
と、天井板がずれて…
「っとう。ワタクシ参上!リュー様ワタクシの事をお忘れなく!」
「お、阿修羅ねーちゃんじゃねえか!」
ロッカが降ってきた。どうりで何か足りないような気がしたよ。
「忘れていらっしゃいましたね!あなたのロッカを!」
(いや、俺のじゃないでしょうに。物じゃないでしょうロッカさんは…そんな自身を無碍にするようなことはダメだよ。自分の事はもっと大事にしなきゃ。)
「いえ、その…そういう意味では…それでもその優しさはこの身に沁みます!
そのお言葉に自身の幸せを感じます!」
あ、クネクネしはじめた。
「「「…。」」」
みんな反応に困っているな。暗い雰囲気が一新された。これが狙いか?
「あ、あのぉ…亡骸背負い様ですよね?お声が同じな気が…」
イルマがおっかなびっくりしながらロッカに問う。そういえば、イルマは大蜘蛛の姿を見てそんなこと言ってたっけ。
「はい。イルマ様のおっしゃる通り元・試練の女神の眷属『亡骸背負い』と呼ばれていた者です。今は、このダンジョンに所属している身で、リュー様から『ロッカ』という名前を頂いて、この姿を与えてくださいました。」
くるりとその場で回り六本の腕を大きく開く。
「シュラ族の方ではなかったのですね。それにしても親密そうですね…。」
おい、なぜ俺をジトッとした目で見るんだイルマよ!
「…抱きついていましたもんね。」
あの時の、まさかあの部屋のモニターから見てたのかよ。
(と、とりあえずその話は置いておこうか、アレは壁にめり込んでたロッカさんを引っ張って助けただけだ、勢い余って抱きついたに過ぎない。)
「ふ、ふふっ…そう言うことにしておきます♪」
ぐ、ロッカさんよなんだその言い方は…
「こ、これが修羅場というやつだな…同郷の士よ、いいものを見せてもらったぜ!」
「な、なあベルの姉貴。一夫多妻はありか?」
「…。考えさせてくれ。」
なんかスゴイ言われようだな、修羅場ね…。まさかこんな展開になるとは。
「そこはリューイ君の甲斐性次第だ。だが、これだけは言わせてくれ。
ウナを不幸にしないでくれよ。」
なんか話が進んでいる。
まあ、こんな話ができる時点で奇跡だよな。
みんなもそう思うだろう?




