◆アノ日の出来事 と 今宵の出来事◇ (3)
◆元ダンジョンマスター・ミツバ
ボロボロだな~。
彼の拳がゆっくりとボクの心臓部に向かって振り下ろされる。
走馬灯ってやつか…痛いのはやだな~
どうしてこうなったんだっけ…
アレは突然の邂逅だった。
初めて合コンに誘われ、そして少しだけお酒を飲んだんだよな…
帰宅途中誰かに肩を貸してもらって…そこで意識が完全に落ちた。
1~2杯しか飲んでなかったきがするんだけどね、あんなに弱かったか未だに疑問である。
気付けば洞窟のような場所に居た。いくら歩き回っても出口が無かったんだよな…
それで疲れ果てて、泣きたくなって、涙目になった所で背後から声をかけられた。
その男は燕尾服を着ており、蝶ネクタイを両手で調節しながらボクの名前を呼んだ。
「やあ、きみはミツバ君だね?」
金髪碧眼でオールバックな好青年?
「返事が無いようだが、まあいい。私は神だ、よろしく。」
神だと言いながらこちらに向かってサムズアップ。嗚呼、変人だ。
「奇人変人の類ではないよ、私はダンジョン関連の神をやっていてね、よろしく。
そして、ミツバ君はダンジョンマスターに選ばれました。おめでとう!」
ダンジョンですか。それにダンジョンマスター?
ボクは全然嬉しくないんですけど…。
お家帰りたい。
「残念ながらそれはデキナイ。ミツバ君は元の世界で死んでしまったんだ、だから戻すことはできない。それに、…推薦されたんだからね。」
死んだ…どうして…。推薦?
「ああ、君と一緒に死んだ子がね推薦したんだ、私ではなくミツバ君を生かしてくださいと。」
一緒に死んだ子だって…だれだ?
…生かしてください。だと?何か不穏な言い方だな。
こいつは本当に神なのか…笑顔と態度と言葉が違和感を出し合っている。
気持ちが悪い…怖くなってきた…身体が震える。
「感動して言葉も出ないか…ふ~む。…いい拾い物だよ。」
拾い物…小言で行ったつもりなのか?微かに聞こえたが…
「さて、とりあえず。運営してもらおうか、素材は今の所潤っているからね。」
そう言ってDPについて説明された…。はっきり言って今でもあやふやだ。
わざとはぐらかしていたようにも思える。
実際に与えられた権限が少ないことを隠していたんだな…
そして彼はこう言った。
「どの道ね、ミツバ君を生かすためにダンジョンコアに組み込んであるんだ、君の魂は。だからね、運命共同体なんだよ?それを忘れないでくれたまえ!この世界のために、人間たちからこのダンジョンを守護し、倒した魂をもって大事な魔素を大地に循環させてくれよ!」
ボクはまずモンスター召喚を行った。
現れたのは真っ黒なスライム。だが、その姿を見たとき懐かしいと思ってしまった。
そりゃーそうだよな…だって一緒に死んだらしいあの子の転生した姿だったんだから。
そのことに気がついたのはずいぶん後だったけどね。
でもその時、彼女を見て「ララ」と名づけた。
DPを消費して、ダンジョン内を見るための画面を製作して、素材が潤っていると言う意味を理解した。
ドラゴン?大きなトカゲのバケモノと言うべきか…そして、その周辺に転がる無数の人だった者達の肉…血の赤や脂肪の黄色、ピンクの肉塊。
ドラゴンのほうも、右の前脚が途中からグチャグチャになっていた。
とりあえず、その空間の色々な物は魔素に変換してダンジョンを潤すことにした。
それで片付いたと思ったのだが、ドラゴンが消えた後に卵を見つけた。
それをこの空間へと転移させた。食べてみようかと思ったが…ダンジョンマスターになったせいかお腹がすかなかった。便意も尿意もだ…人ではないのだと痛烈に感じたね。日課だったオ…っとこれは流石に説明しなくてもいいや。決してダメになったとかじゃないからね!
何となくララに暖めてもらうことにした。何日?何ヶ月?何年?ボクは感覚が麻痺していた所為で良く覚えていないが、まあ…結果的にあのドラゴンの子供は無事孵った。
ララに名前をつけないのかと言われた。さり気なく「私達夫婦の子だよ…。」と言われた時はスゴイ嫌な汗が流れたのを覚えている。したこと無いのに子供とか勘弁して欲しかった…
私はいつでもOKなのに…と呟いていたのは完全にスルーした。
名をステファニーと付け、専用の部屋を用意した。こんなこといっちゃ怒りそうだが…最初は番犬みたいな扱いでダンジョンコアがある場所を守護する目的でコアがある部屋にした。
ステファニーは勝手にダンジョン内を歩き回ってはオークやゴブリンを狩って食べて過ごしていた。
流石に大きくなり始めたので専用の空間をダンジョン内に設けた。
それ以降は定期的にモンスターが自らその空間に足を運ぶように召喚した。
ますます大きくなる。水は地下水の湧き水でどうにか水場は確保していたので問題なかった。
ステファニーの様子を観察する日々がどれほど続いただろう。
終わりは突然だった。急にダンジョンの入り口の数が増えたのだ、そして侵入者が急激に増加した。
浅い階層に用意してもいない魔石なんかも転がっていた。
意味が分からなかった。こんな説明はされていないと。
スケルトンを大量投下し、コスト面ではそれほどかからないモンスターもそろえた。
魔素がやけに溜まるなあと思ったら、とある画面に鎧を着た騎士?が侵入者を次々に斬り殺していた。
あ、あんなやつ知らないぞ!
「リビングデッド・アヴェンジャー」と表示された強力なモンスター。
こちらの指示が全く届かず、そして、ダンジョン自体も何かおかしくなっていることに気付く。
遅かれ早かれこうなっていたのだろうかね…。
そして、ステファニーが殺された。
籠手を装備した黒髪の青年だった。スケルトンの軍団…それも100体くらいいただろうか、それさえ一人で殴り、叩き付け、蹴り砕いた。武器無しでこれほどとは、恐怖した。
そんな時ボクの恐怖が伝わったのかステファニーが自分の住居の壁を掘り、スケルトンたちが居た空間まで向かったのだ。
そこからの戦いは凄かった。人の身であの域まで到達できるのだろうか?異世界とはこれほどなのか…
ステファニーはボクが見た彼女の母親の亡骸ように右の前脚をひしゃげながら、それでも果敢に攻め立てる。ついに終わりが訪れた。彼の右腕を肩から食いちぎったのだ!だが、それが彼女の終わりへと繋がった。
『マナ・エクスプロージョン!!!!』
彼は、右腕を食いちぎった彼女に向け左手を掲げながらそう叫んだ。
彼の籠手には何か仕込んであったらしく、咥えた腕が魔力爆発を起こし、彼女の顎が、咽喉が、胸元までもが焼け爛れ…崩れ落ちる。
そして、彼女を倒した彼も力尽き、灰になる。その場には左腕にはめていた籠手が残った。
その時、通路のほうから…
『ジュンター!ああ、何てことだ。ダンジョンボスと相討ちだなんて…』
そう言いながら、中年くらいの男性だろうか…彼の灰の側に転がる籠手を大事そうに抱えながら号泣しだした。
だが、ボクもこれには驚いた…ダンジョンが揺れだしたのだ。まるで地震だと思った。
その中年男性も急いで退却してしまった。
地震によるものなのか、ダンジョンの階層は減り、入り口も霞のように消えてしまった。
ただボクはモニターのある部屋で呆然としていた。
それからの記憶がぼやけている…。
何年経っただろうか…ステファニーは骨だけ残っており…ダンジョンを徘徊していた。
何者かの意思に従って動いているような違和感さえあった。
だが、それと同じく家と家族を守ろうとしていると言う気持ちも伝わってきた。
モンスターは謎の変異種が階層ごとに現れ、同じ種どうしで殺し合いすら始めてしまった。
ユニークだったのはオークキングがダンジョンの石柱をへし折り、石畳をはがし、彫刻をし始めたのだ。
驚いたね…何を作っているのかその頃はそれで暇をつぶせた。
玉座を完成させた時はスタンディングオベーションしたよ。
その階のもう一体の変異種に関しては生理的に無理だった。黒いパンツなんてどこから用意したのかと思ったが、種族固有装備らしい。ララがそういっていた。詳しいね…。
ああ、人恋しくなってきたな…。今更だけど、会話できたりする人とかいないかな。ララを除く。
…ちょ、今舌打ちしたでしょ!スライムなのに舌打ちしたでしょ!
更に何年経っただろうか…モニターに黒い影が…
う、うひいいい~黒い大きな蜘蛛!そいつが女の子を抱えている。
新手のモンスターか!そう思いララを向かわせた。
なんだかやる気があるね…ストレス溜めてたのかな…?
一撃でした。そして、少女を無事保護!久しぶりに会話ができるぞ~そう思っていると…。
ん?ダンジョンに違和感…ゴブリンがいる階層に干渉できなくなった。
まあいいや、今は久しぶりの会話を楽しみにしよう。
天使だ!そこには天使が居た!傾げる動作もすばらしい!
これは、別の神様が遣わしてくれたに違いない!
え、あの男はダンジョンの神じゃ…ない?
違和感を思い出す。気味の悪さも一緒に…
止まっていた時間が動き出すような感覚…ボク自身の終わりへのカウントダウンな気がした。
どんどん干渉できない階層が増えていく。
すまないララ、ボクはここで終わるようだ。
そして、画面の向こうのステファニーが消滅した。ああ、ダンジョンから消えたのだ。骨身になっても確かに存在していたのに…
彼との戦いは前座2人は楽勝だったが…
ダメージが通っていないようだ。
あのリビングデッドすらパンチで鎧を凹ませれたのにな…
めちゃくちゃだよ!このシックスパック!
硬すぎだよ!ガ○ダ○みたいな足して!
ぅぅ…脛が痛いよ。
「熱くて痛いかもしれんが、終わりにしようか?歯ぁくいしばれよ!」
そして炎を纏った拳が…
ボクの中心へと沈んだ、身体の中から「パキン」とコアが砕ける音がした…
ララの気配が遠のく…
ボクの意識も遠のいていく…
オヤスミ…ララ。
オヤスミ…ステファニー。
…。
……。
ふぁあ~眠いな。長い夢を見ていたようだ。
アレは全て夢だったのか?
天井を見ながらふと思う…
次にベランダ側に視線をやり…
カーテンが閉めてあるから外の景色が分からない。
何時だろう…
でもまだ眠たい。ああ、いつもの見慣れたアパートのボクの部屋?
ん?本当にボクの部屋なのか…何か違和感を感じる。
ギギギギ…と音がなるような感じに首を真横に向ける。
え…彼女は、ララ?
いや、同じ課の「早馬うらら」さん?
そして、同じ布団にもう一人寝息を立てている女の子が…
なぜだろう…ゆるふわカールな髪型の知り合いはいな…ステファニー?なのか…
そして…うぅぅ…胸が苦しい。
これは夢なのか?それともたちの悪い悪夢?
実はありふれた現実?
誰か教え…て。
だって…ボク、胸があるんだもん…夢だよね?
目を瞑ればこれが夢だと…
そう思い念じる…
その時、ガチャリと玄関が…え!?
「お~い!ダンジョンマスターはいるか?」
『リューくん、みんな寝てるみたいよ…。』
「それは申し訳ないな。でも、どうしたものかね…。」
会話が聞こえたので上半身を起こし、声のしたほうを見る。
…。宙に浮く紫色の髪の女性と、Tシャツにジーパンで黒髪短髪の若者が…
ん?短髪君の声があのオーガなトカゲな気がしてきたぞ…
「え…。な、なあキュベレ姉さん。ダンジョンマスターは男じゃなかったか?」
『ちょ…わたしに聞かないでよ!今じゃただの精霊さんなんだからね!』
あ、なんだかボク涙目になってきた…
ボクも知りたいよ…このタンクトップを押し上げる双丘がボクのものなのか…




