22話 「ステファニー」
「はっははは~!師匠の姿が重なって見えるぜ!どー言う原理だあ?」
そう言いながらこちらに向けて跳躍する。
それに合わせて俺も青オーガがいた場所へと向かう。後方ですごい音がしたが気にせずそのままソールの側に近づくと倒れている彼に声をかける…
「ソールさん無事か?生きて…いや、もう死んでるわけではあるのか…」
「ああ、そのようだ。首が一回転してるのにこうやって返事ができる時点で異常だよ。
これじゃ足手まといだな、すまない。」
俺は屈むと「相性が悪いだけだ。」と言いながらソールを抱えあげる。
そして入ってきた通路のほうへと進み、ロッカさんがめり込んでる所の側に降ろす。
「その姿…『堅牢』いや『拳翁』だったか、その姿に似ているな。」
俺はその言葉に苦笑いしてしまったようだ。年老いてなお二つ名を持つか…
拳翁とはなんとも仰々しい。
さぞ有名な御仁だったようだな爺さん。
≪簡単なことよ、名前だけが一人歩きしたのであろう…それにしても、あの時私を刺したリビングデッドが今じゃ君の仲間とはね…死んでも何が待っているのかわからないものだな。≫
なんと!爺さんはソールに刺されて死んだのか…アヴェンジャーだった頃は相当な者だったんだな、それに比べ今は丸くなったと言うことか。
「あの~ワタクシはいつまでこうしていれば…」
『別にいいじゃないかしら、そこで観客してなさいな!拳闘将と拳翁の勝負なの、演武なのよ。十分特等席じゃない!わたしはこの戦いを目に焼き付ける義務があるの、だから蜘蛛ちゃんもちゃんと見てなさい。』
怒られたようだな、まあ…レリーフ状態なのも実際自分で抜け出れるんだろうが、こちらに余裕を持たせるためにわざと軽めに声かけをしてくれたようだ。
気負いすぎるとダメだな…ありがとうロッカさん、少し肩の荷がおりたよ。
「実は抜け出れないのですが…ぐぬぬ、わかりました。めり込んだまま観戦してますよ。
せっかくポンポン用意してチアリーディングをしようかと…」
そしたら気が散りそうだな、ありがとう。めり込んだままでいてくれて…
戦いに集中できそうだよ。
「ははっは!流石に邪魔になるよな!無粋なマネはしないでくれよ、阿修羅ねーちゃん!」
そう言いながら、破壊した観客席から闘技場の中央へと戻る青オーガ
俺もそう思う、爺さんもそうだろう?
≪いや、そもそもチアリーディングがなんなのか分からないのだがね。≫
…そうですか。とりあえず、始めようか。
お互いに距離を開けたまま構えをとる。流れるような動作だが…
ん~空手とまた違った感じだな…独特だ。
闘術と言ってしまえばそのままだが、それだけで十分だと思うよ。
足に力を入れ、一気に距離を詰める
こちらの一撃を腕でいなし、開いた側からもう一方の腕を振るう
その一連の動きだけでも空気が震えるような感覚。
青オーガの連続パンチをかわすかわす…かわして、そこに織り交ぜられた蹴りに手を沿えながら回転、素早く足首を掴むと勢いを生かして壁際に投げる。
そして、こちらも壁に向けて走る…空いている腹に向けてスピードを乗せた蹴りを打ち込む。
ズウウウウン と闘技場全体に響き渡る…
「ぐうっ」とくぐもった声を上げる青オーガだが、その両腕はクロスして蹴りの衝撃が腹に行かないようにガードしていたようだ。
「イイ蹴りだな…。コイツハ効いたぜ…だが
カハッ…はははは!まだだあぁ~おれはとまらねぇー!!!」
一瞬冷静な発言であったが、次にはまた狂気染みた闘争本能が顕になる。
このことを言っていたんだな、戦うように意識が持っていかれると…
今思えば、バンダナゴブリンも巌オークのおっちゃん、ベルリもそしてソールも戦うように意識を持っていかれていたんだな…それを自力で抑えたヴォルキンさんはやはりすごいな…
≪結局は押さえ込むだけで精一杯だったのは事実だがな…
それに比べ、ソール君は妹さんの事があるにせよ、あの時は完全に呪縛から振りほどかれていたぞ。≫
そ、そうだな…普通に喋りかけられたもんな。
本来なら背後から切り伏せられてもおかしくなかったと思うよ。
こちらは飛び退き、距離をとると構えなおす
青オーガは壁から離れると同じく構え、殴りかかる
蹴りを混ぜながらの連撃それを捌いていると…
「なあ、アンタも転生者か?」
ああ、そのようだ。まあ、トカゲからスタートってのはなんとも残念だよ。
もっとファンタジーな感じを期待して…って十分ファンタジーだよな?
「ははっ!ちげーねえ、あの時一瞬消えたかと思ったがそういやトカゲが見えたな…。」
そうなるな。基本、トカゲで固定らしい。
せめて人型な魔物とかの方がまだましだったか?
「そうでもないと思うがなっ!おれ的には、ゴブリンやオークはごめんだ!
そう考えると、オーガはまだましだったかっ?」
そうかな…ヴォルキンさんはちなみにマッチョオークだったぞ!
それで、オーガでキメたいって言ったから今このような感じに纏っているんだよ。
「はっははは!!おもしれーな。生前に近いと言うより若返りでもしたような見た目だしな、さぞ満足しているこったろうなあ。」
そうだろうよ!こうして弟子のアンタと本気で戦えているんだからな。
「アンタじゃねえよ!おれは純太郎だ!
こっちの連中はどうも言えるやつといえないヤツがいるらしい。
だから、おれの知ってるやつらは殆んどジュンターってよんでたよ…。」
ジュンタロウね、了解した。
俺の名前は、竜一だ。こちらに来てからはリューイって呼ばれてるよ。
「そうか、リュウイチ。会ったばかりでこんな頼みもなんだが、そろそろ終わりにしてくれねーか?身体が限界以上に力を発揮したみたいでな…どうやらヒビが入り始めた。
流石に、自滅でおしまいはいただけねーからな。
ワガママになっちまうが…とどめは奥義とかで頼むわ。」
話したり笑っているが、先ほどから拳も蹴りも止む気配がない。
だが、言うように所々ヒビらしきモノが見える
自己消滅もありえるほどに力を発揮するとは、漢だな。
ならば仕舞いとしよう。その時頭の中に何かしらのイメージが…
魔装双拳:鎧砕き?なんだそりゃ、必殺技かなんかか
≪若気の至りだ、技に名前つけたりしたくなるだろう?≫
「その技は、師匠の奥義。魔物に放つところは見たことあったが…
おれが受ける側になるとはな…いや、今は魔物か!」
そんな時に地面が揺れる、その隙が決定打を撃ち込むチャンスとなった
純太郎が足場の揺れに気を取られ、連撃が止む
その空いた胴に魔力を纏わせ突き出した両の拳を添える…
ただそれだけのように思えたが、破壊はその後に続いた。
拳を受けた部分からヒビが勢い良く身体全体に広がるその光景を自分の目で見た後、二三歩後ろにふらつくと仰向けに大の字で倒れた。
「あ~頼んどいてなんだが、負けるのはなんだかやだな~。」
負けず嫌いだったか…そんな残念そうな顔されてもな、また機会が訪れるさ。
「なんだ?今度は俺を纏うのか、まあそのときゃ今みたいな戦闘馬鹿じゃねーから役に立ってみせるぜ。」
期待しておくよ。
こちらがそう言うと、柔らかい笑みを携えながら霧散した。
≪これで、会議室とやらで弟子と話ができるようになったわけだね?私も久々に疲れを感じるよ、ヤッパリ年かね…≫
いや、もう死んじゃってるからそこはノーコメントでお願いします。
あ、でも纏うのにそれなりに俺がMPを消費するからかな…その反動が来て疲れてるのかもしれない。
ヴォルキンさんは「そうなのかね」と言ったきり気配が消える。
どうやら解除されたらしい。
俺は普通のオーガに近い姿になったようだ…肌の色が変わってるもんな。
「ナイスファイト!ということで、ヘルプミー!」
…。めり込んでいるロッカさんを救出する。
引っ張った勢いを利用してこちらにそのまま抱きついてくる。
ほぼ無いようだが、それでもこちらの胸に柔らかいものが…
ちょっ、吐息が首筋を…
『おい、そこのピンク蜘蛛!さっさと離れなさいよ。』
キュベレ姉さんご立腹。ピンク蜘蛛って…
「わ~か~り~ま~し~た~。」
間延びしながらゆっくりとこちらの背に回した腕を一本ずつ放していく。
腕六本あるからね、時間がかかるんだよ。
「それにしても、決着が着く前の揺れはなんだったのでしょうかね?」
ゴゴゴゴゴゴ
「おや、またですね。なんだか下から近づいてきているような感じがします。」
そのようだ、足元がおぼつかなくなるほどに強く揺れる。まさかな、大型の魔物か?
『このダンジョン、何か妙だわ。ダンジョンマスターが管理しているには少し違和感があるの。もしかしたら、大きな間違いをしているのかしら…。』
GOOOOOOUUU~
その声のような音が響き渡ると共に、闘技場の反対側の通路が瓦礫に埋もれてしまう。
しまったと思うまもなく中央辺りの地面が地割れのように裂ける。
大きな骨の腕が裂け目から伸びた。そして、大きな頭蓋が…
こりゃ、でけーな。
≪おいっ!リュウイチ!アレは見覚えがある。おれと相討ちになったグランドドラゴンだ!≫
おお!グランドドラゴンだと!?ファンタ『それはいいから。そうなのね?あのドラゴンをジュンくんが一人で…』
≪いまさらだぜ、女神様。でもよ、あのドラゴンは活性化とは無関係だったんだわ。ただひたすら、自分の大事な家を守ろうとしただけなんだよ…今では分かる。魔物の氾濫も最小限で大災害まで行かなかっただろう。≫
『ぇ…。そんな、それじゃあアナタは…』
≪残念ながらまんまと食われたようだ、このダンジョンに…。そして師匠や他のわん子ねーちゃんやらから聞いたよ、出口無きダンジョン。これは、歪んでいる。それもわざとだ!≫
『もしかして、活性化のように見せかけて上質な魂を外側からダンジョンに取り込んだというの?』
≪存在の昇華を無理やり行わせているんだ、意識を操作してまでな。≫
生け贄か、これじゃソールさんやベルリたちも同じように取り込まれたわけだな。
他の神が、それも邪神とやらが仕組んだというのか。
≪あのドラゴンも被害者だ。下手したらそのダンジョンマスターとやらもな。
だからさ、あの子も開放してやってくれや。あんな姿になってまで守ると言う遺志を捻じ曲げられて戦うことを強要されているんだ。楽にしてやりたい…≫
だが、ヴォルキンさんを纏っていたからMPが心もとない。今から残りのオーガたちを吸収するにもこの場が持ちそうに無い。最悪なパターンとしては途中でただのトカゲに戻ることだ…それだけは避けたい。
『…そう、わたしの信仰が下がるのも道理ね。これじゃわたしは道化だわ。
ならせめて、せめてこの地だけでも解決できるために…わたしが加護を与えた子達に…
あ!そうだわ、そうよ!リューくん食べちゃいなさい!』
……はい?と言いますとあの時通路イッパイに溢れた魔素の塊みたいな口でベルリを食ったみたいにということか?それでもサイズが…
『今ならね、ジュンくんがいるの。その意味は簡単、私の加護の力を利用してほしいの。することは簡単、食べたいものをイメージしながら大きく口を開く、そして食べちゃうの!
それ以外は考えなくていいわ。ただ衝動に任せればいいの。』
もう上半身が見え始めた。あ、右の後ろ足までてきたな…
それじゃあやりますか…。
纏い、そして拡張、口をイメージ…そしてただ食らうのみ!
≪食いてー物、食いてーモノ、そりゃあトーフにきまってらああああぁ!!≫
魂の叫びを聞いたような気がする…
俺はとりあえず白米食いたいね。
食えるか分からんが、塩に海苔、梅干もそろっていればベストだ!
ソウルフード!おにぎり!ああ、味噌汁もほしいかも…。
◆阿修羅ねーちゃん
それはワタクシの前で起きました。オーガの姿だったリュー様の姿が霧状になり、この円形闘技場全てを被い尽くさんばかりに広がっていきます。
その霧を構成しているのは「食」ただその一言だったと思います。
少しづつ濃くなっていき…牙が並びました。そう感じただけかもしれませんが、確かにそこには口があると知らしめているようでした。
グランドドラゴンのスケルトンでしょうか、その光景に空洞の目をもって眺め…
恐怖でしょうか、震えているかのようにガタガタと体全体を鳴らします。
そして、食事は行われました。
まずは右の前脚が消失しました、バキリ、ミシリと霧の中から聞こえてきます。
でも、前脚は見当たりません。
ドラゴンが声にならない声を上げようと頭を上に持ち上げた時、ゴキリと音を立てながら首が変な方向を向きました。
そう、ただ一方的に食われるだけを許された餌食です。
反撃などと言うことばはありませんでした。
そこにはただ絶対的な捕食者が残っただけでした。
ポ~ン
ん?
<リューイのダンジョンに『ステファニーの部屋』が追加されました。>
すてふぁにー?ですか…
ワタクシの部屋もまだなのに…




