17話 「大事な部分はなぜか全く見えないファンタジー。」
『もしも~し』
「ん?ああ、申し訳ない。ウナとまた会えると聞いて少し舞い上がっていたようだ。」
まあ、このダンジョンを10年以上彷徨っていたわけだもんな。
こんな機会は訪れずに、強化されたモンスターとして終える可能性のほうが高かっただろう。
自分がモンスターだと気付かなかったと言うのも凄いな。
まあ、死んだ時の姿のままだからか…。
復讐心とやらが彼の思考や行動を縛っていたのも理由の一つだろう。
『ではね~本題よ。ソーくんを今から少し修正して、お腹スプラッタと鎧を治すからね?』
「ああ、らしいな。良く気付かなかったと私自身感心してしまいそうだ。」
『…。ポジティブね。まあ、ウナちゃんの事があるからでしょうけど。』
(そしたら、それにはどれくらい時間が?)
『ん~リューくん次第。下の階はちなみにソーくんが魔物倒して回ったの?』
「だと思う。ただ、ふぁんたじぃーな存在は取り逃がした。流石に、人間サイズの大きな蜘蛛が天井を伝っていたのには呆けてしまってね。」
『そ、そう。その蜘蛛ちゃんは仲間よ。殺されなくて良かったわ…。もしもそのようなことになってたら流石に目も当てられなかったわ。』
(ロッカさん。ファンタジーな存在で良かった。)
『そ、そうね。下の階に危険が少ないなら、リューくんは今ヘルハウンドリーダの姿してるでしょう?』
(ああ、トカゲ犬だな。いやスケイルドッグか?)
『名称は別にどうだっていいわよ。二足より四足の方が早そうだからね、次の階は、マッピングをさっさと済ませちゃいましょう。走り回ればその分リューくんの支配域になるし、自身のダンジョンに魔素も蓄積されるからね、ソーくんの回復に回す分もすぐに確保できると思うわ。だから、次の次はソーくんを呼び出して共闘できると思うの。』
(では早速行きますか。)
「く~ん(しょんぼり)」
(なあ、ベルリはやっぱりどうにもならないか?さすがに、あの姿は居たたまれない。)
会議室の隅っこで体育座りしてうなだれている。
だが、これだけは言わせてもらおう。
大事な部分はなぜか全く見えないファンタジー。
いや、あの場所にはギャラクシーが…
生命の神秘と言うヤツだな…
『・・・。
でも、解決策が不明なのよね。リューくんのダンジョン内という前代未聞なわけだし。そこまで気になるならワンちゃんだったわけだし、頭なでてあげれば?』
(撫でるって?俺は本に映る会議室を覗いているだけだしな、本に触れたからと言って干渉できるわけではないだろう?)
『ん~なんと言えばいいかな。アバター?ユニット?まあ、ダンジョン内にリューくんの意識を宿せる人形、ドールを作るのよ。レッツチャレンジ!』
(その知識はどこから?)
『確か、ダンジョンマスターの能力でそんなのがあったな~と。だから、リューくんも試してみたらできるんじゃないかな~って。そのほうが後々は…ふふふっ』
(その笑いは少し怖いな。取りあえず試してみるか。でも、本体のほうはどうなるんだ?)
『そこは、蜘蛛ちゃんの分体技術の応用よ、リューくんが自身のダンジョンに篭っている時は外の身体は分体みたいなものだからね、指示を出しておけば最低限の行動をとってくれるわ。それこそ、単純作業なんかの時に任せて自分は休憩室や会議室なんかで休憩ってのもアリよね。本体、分体の切り替えの調子も確認してみたいものね。』
(おお、それはぜひ試してみたいね。)
『それじゃ、まず会議室に飛び込むイメージしてみて。
間違っても本に跳びかかったりとかしないでよね。』
(そこまで馬鹿じゃないよ。ダイビングみたいなものかな…。やったことはないが、水泳なんかの飛び込みなんかをイメージして…。)
意識が遠退くような感覚。深く深く沈みこむような…
「はっ、こ、ここわ…。」
ああ、会議室だ。先ほど見ていた空間だ。ソールさんはただただ驚いている。
ベルリの方は、顔を嬉々とした後、ゆっくり頬を染めて…上から少しずつ視線を落としていく。
だが、俺の下腹部?股間か?まあそこらへんで視線を止めた後、あからさまにガッカリした表情になる。
「ど、どうしたんだ?俺、何かおかしいか?」
「いや、おかしいと言うかなんと言うか…。」
ソールさんは言いよどんでいたが一つ頷くとこちらの顔を見ながら…
「死ぬ前は人族だったんだな、と。黒髪か…父上と同じ髪色だ。」
ああ、俺はソールさんの前では鱗の生えた犬だったもんな。
そうか、黒髪は別に珍しくなさそうだな。
こういうファンタジーな世界って黒髪がめずらしいとかそう言う設定が多かったりするもんだが。
「そうなのか。で、ベルリはどうしたんだ?」
「ああ、それは…リューイ君の姿が…まあ、なんだ…全裸だからだろう。」
全裸、ただの変態じゃねーか!!
てか、ガッカリしたと言うことはそう言うことなのか…
『ん~残念ね。拝めると思ったのに…。』
ナンダその発言は…そして今更ながら全身を確認する。
ああ、いつも通りの細マッチョ…そして、
大事な部分はなぜか全く見えないファンタジー。
おい、こりゃどうなっているんだ。
ってことは顔赤くしてたベルリがガッカリした顔になった理由は大事な部分が見えなかったからなのかよ…ピンク犬め。
ポ~ン
<メッセージが1件あります。>
お、これは…カミナのメッセージか。
『竜一、こういう時は見ていいものと悪いものがあるんだよ。』
この全く見えないファンタジーはカミナの仕業なのか。
「ん?今の女性の声は誰なんだい?」
おや、他の人にも聞こえたようだ。
今のメッセージに対し、キュベレ姉さんが…
『ちっ。余計な真似をするわねカミナちゃん。』
だから神様が舌打ちってどうかと思うんだよ。
余計な真似って、やっぱ見たかったのか…
「ソールさん。今の声は新神カミナですね。」
ソールさんは無言で口を開閉して…
「神様がいるのは事実だとして、こんな簡単に連絡や会話ができることには驚きだ。」
『わたしとしては、腐った死体にならずに彷徨い続けたソーくんもなかなかの驚きなんだけどね。』
腐った死体とか、まあゾンビか…。となるとゾンビではないんだなソールさん。
『そうね、イレギュラーな存在よ。普通ならゾンビ?で、ユニークなのだったら
仲間増やしたり、麻痺毒吐いたり、猛毒や腐敗液なんかを吐き出すくらいよ。毒爪や麻痺爪みたいな異常状態攻撃もあるわね。』
イメージ通りと言ったところなのかな。ただ、ソールさん凄い嫌そうな顔だな。口元が引きつってる。
魔物転生とはちょっと違うわけだもんな、自分の死体に定着しなおすわけだから。
『まあ、ゾンビ=腐った死体で、そこから年月が経つとグールとして死肉を食べて肉がついたままを維持するかスケルトンになったりして骨骨なボディーで彷徨うのがアンデットよね…。
弱い意志とか、意思まあ遺志が残ってたりするとゴースト系よ。』
なるほど。
てか、大事なことをずっと先延ばしにしているような気がする。
ああ、そうか、そうだよな。スースーするよ。全裸だから。
「キュベレ姉さん詳しい説明ありがとう。それで、俺は全裸のままなのかな?」
『い、いまさらなのね。リューくん、このダンジョンではず~と全裸でしょ?』
いいや、断じて違う。鱗とかウロコとか、毛皮に包まれていた。だから決して全裸などでは…
「うう、わうっ。(それを言ったら、アタイもずっと全裸ダヨ。)」
今は、貫頭衣着てるじゃないか。てか、ソールさんなんか白いTシャツに紺のジーパンって時代や世界観がサッパリだよ。…裸足だし。
「む。そういえばこの服装はなんなのだろう?この読めない文字も気になる。」
大丈夫。世の中には知らなくていい言葉がある。知った時の反応も見たいが今は…自分の服だ!
『部屋着でもイメージしたら?』
あら、あっさり。では、俺もイメージ…おお、服だ!服を着ているぞ。かなり久しぶりに服を着れた気分。
いや、だからと言って今までが全裸だったわけじゃないんだ、鱗を着ていたんだっ!
そして、今の服装は…ソールさんとあんまり変わらない。
ただTシャツの文字が…
「鱗は服として考えるべし!」と達筆な文字で、力強く書かれている。やはり心の声が反映されるのか。
『これで問題ない?』
ああ、十分だ。ピンク犬が残念そうだがスルーしておこう。
『話は変わるけど、ソーくんの武器を強化できそうなのよね、リューくん精霊石とか持ってたりするでしょう?それを使えばね、使用者の魔力を使って属性剣ができると思うのよ。ダンジョンの力で、ね。』
精霊石?セイレイ石…イメージしながら取りあえず拾った石?宝石?を机の上に呼び出す。
ベルリとソールの顔が固まる。ギギギギっと聞こえそうな感じに首をこちらに向け…
「「これだけあったら一生遊んで暮らせるぞ(わうわうわんっ)!」」
「まあ、呼び出して気付いたが綺麗な石だな。それが、ウナが拾ったのも合わせて三十個くらいだったかな。」
『凄いわね。って、このダンジョンに落ちてたんでしょ。ここのダンジョンマスターは何をしてたのかしら…馬鹿よね。』
俺がウナが拾ったと言った瞬間ソールの表情が綻んだ後すぐに引き締まり、怖い顔にまで至った。
表情豊かだな。
「強化をお願いする。ウナの魂を縛るこのダンジョンを滅ぼす。」
こ、こええ~。ドスが効いてた。
『おっけ~。これだけあっても使うのは1個だけだからね。ん~赤でいいかな。』
そう言う声が聞こえた後、精霊石の山から赤く光っていた石が一つ消える。
その石には見覚えがあり…
「あ、今の。ウナが渡してくれたやつだ。」
その言葉だけで決定的だった。
ソールが涙を流しながら両膝を会議室のカーペットに着け、蛍光灯のつく天井を見上げて…
「神よ!感謝いたします!!!」
叫んだ。今はじめて神に感謝の意を見せた。
その時…
(あの~この階層のマッピングと宝箱の回収終わりました。)
「え、誰の声?」
俺は初めて聞く声に問うた…