15話 「似ている。」
『もう、クネクネで良いんじゃない?
ほら、人と蜘蛛のハイブリッドの代名詞アラクネのクネクネ!』
「なぜに、クネクネ?」
『そりゃ・・・リューくん』
それは、あれかな、褒めるとくねくね動くからかい?
『そう、そうなのよ。蜘蛛の姿の時でもしょっちゅうクネクネしてたわ~。
シュールな光景でした。』
「うぐっ、HPを削られているような錯覚。
しょ、しょうがないじゃないですか!
それ以外に表現する術がなかったんですから。」
・・・六つの拳を握ってブンブン腕をふってる・・・。
顔の大半がゴーグルで隠れているので表情が窺えないのが残念。
少しだけ露出ている肌は、雪のような白さ、まるで人ではないナニかだと思わせてくれる。
ああ、美しい・・・。
「ふぇ、ふぇええ~~~」 くねっ くねっ
『ほら、ヤッパリ。クネクネし始めた・・・。』
器用だな上段の左手で顔を扇ぎ、右の手は頬に当て
中段の両腕は突き出しパタパタと振っている
下段の両手は人差し指どうしをつんつんしてる
全体的にスレンダーなボディーは、腰を左右にくねらせている。
おお、ファンタジー。
『結局その言葉で済ませるのね・・・。』
むむ・・・雪のよう・・・六の腕・・・
そうだ、六花、 ロッカ さんで!
「わーい。なんか綺麗な名前ですね。」
『この子。元は真っ黒よ、それで良いの?』
「ちょ、体色が黒であって性格とかじゃないですからね!」
まあ、良いんじゃないかな本人も喜んでくれたようだし。
では、イルマを頼む。
「はっ。」
おお、凄い早さだ・・・あれ、戻ってきた。
「少し気がかりが、次の階についてなのですが、
妙なことに魔物らしき姿が一つも見当たらなかったんです。
分体が襲われたこともあるので姿が見かからないといってもご注意を。」
あ、今度こそ行ってしまった。
『さて、そろそろ何かを纏ってみたら?
そうね、ユニークを試してみたら?
ただのトカゲ男じゃない変化も見込めるかも。』
ふむ、とりあえずヘルハウンドリーダーを試してみよう。
結果。
『わ~もふもふ~なのにごつごつ~?』
神様には、そう評価していただいたが・・・
今の俺、四つん這いと言いますか・・・
なんだか久しぶりな四速歩行に・・・。
(ああ、犬になってしまった・・。それも、やつらより毛並みが良いぞ?)
自分の尻尾を見る。ああ、もふもふのふさふさだ・・。
今の姿は、ヘルハウンド寄りで、四肢と背に鱗が何枚ずつか付いている。
(トカゲ犬?それとも、リザードドッグ?)
『まあ、ユニークよね・・・。』
でも、犬の骨格をしたトカゲの化け物になるよりかましだな・・・。
(そういえば、神様。俺自体がダンジョン化したことは置いといて
「休憩室」と「会議室」ってのが追加されたって聞こえたんだが・・・。)
そう、ロッカさんのアナウンスが頭の中で流れたのを今更ながら思い出した。
『あ~あれね、確認してみる?簡単よ。リューくんをこちらに呼び出した本がね、ある種の通路の役割をしてくれてるみたいだから。簡単に言うと特殊な出入り口かな。』
ほほう、特殊な出入り口ね。
てか、その本凄いね~。
『そりゃ、そうよ。イルマちゃんだっけ?そのこのお父さんはかなりの学者さんでね、わたしを祀ってる遺跡なんかに来たこともあったわよ。アウトドア派ね。』
すごいな。
『そう。それも、十代前半のころからよ。だから、20年以上かしらね。ダンジョンに関することやら恩恵、スキルなんかも試行錯誤してたみたいよ。そこで辿り着いたのが、ダンジョン内での生成、召喚なの。』
なるほど、魔物が生み出される場所、ダンジョンにおいて守護者としてこちらについてくれる存在を呼び出す。従えるとかそう言うような感じの書を書いたわけだ。
『そんなとこかな。神が関しているということで彼自身は守護者は精霊や魔物、特殊な存在であれば呼び出せると思い。召喚術式を書いたの。でもね、完全支配とかは無理なの。だから、ある意味で綱渡りね。』
下手したら呼び出した存在に襲われると言うことか。
『それを極力削減したのよ。本来の術式からね。
だから彼はこの本の事を「特異種召喚の魔道書・守護者ノ章」
と呼んでいたわ。特異種ってのがこちらに危害を加えない、
ユニークなモンスターを意味してるのでしょうね。
守護者というのが、呼んだ者を極力守るように・・・。
って書き足したつもりだったのでしょう。
彼の魔力で書かれた本だから本自体が力を持っているのは確かなんだけどね。』
イルマも言ってたな。本の力によって魔物が近づかなくなるって。
『まあ、呼び出した存在が本の魔力より上になった場合の対策が疎かだったのが今回ね。』
俺、呼び出されたときは強く無かった気が・・・。
それどころかコウモリの魔物に対して1ダメージ。
『そりゃ不安定だったからでしょ?でも、カミナちゃんの加護が組み込まれてたんだから上位存在には変わりないわ。』
確かに・・。その後はロッカさんからの力添えでどうにか・・・。
『わたしのおかげよ、わたしの。』
そういえば、神様の名前は?
『それがね~無いのよ。試練の女神みたいな感じに呼ばれてただけでね・・・。ねえ、わたしの元眷属にも名前付けたことだし、わたしにも・・・ねっ?』
神様に名前って・・・
嫉妬の神と言えば ヘーラー(ヘラ) か弁才天なんかかな・・・。
『ちょ、嫉妬って・・・。わたしは、死と生、そして試練の神よ!』
・・・。
死と生といえば、オシリスか・・・。その妻イシス・・・。
む・・・。おお、いるにはいるぞっ!
キュベレーだ。たしかそんな感じの話が・・・それに大地母神、
ダンジョンに関すると考えればこの名前がいいかな。
キュベレ姉さんだ!
『なぜに姉さん?まさか年寄り・・・古い神って考え?』
いや、誤解なさらぬよう。
先ほどから話してて、お姉さん的ポジションだな~と。
面倒見の良い優しいお姉さんと言うことでおねがいします。
『んふふ~。ア・リ・ガ・ト♪』
こちらとしても、呼び名ができてよかったですよ。ずっと神さんやら神様って言ってたら誰のことだか曖昧になりそうでしたからね。
『そう?まあいいわ、では脱線した話を戻すわね。』
お願いします。
『では、本を呼び出してみて。べつに、ステータスオンっとか叫ばなくて良いからね。』
ああ、イメージだけで大丈夫なのは把握してます。
イメージすると、宙に光を灯す本が現れる。
『さて、でははじめに 会議室 のほうからで良いかな?
じゃ、アナタにとっての会議室をイメージしながら本を開けてみて。』
会議室、会議室・・・高校の会議室とかで良いかな・・・。
よし、イメージしながら・・・
本を開いた。
そして、凄い光景を目にした。
うん。アレハ貫頭衣ってヤツじゃないかな・・・。
腰辺りを紐で縛ってある簡単な格好。
首には・・・アレハどう見ても首輪デスネ。
そして顔は・・・あれ、似ている人?を最近見かけた気が・・・。
赤い髪に褐色肌。おや?そんな人見かけたこと無いって?俺もだよ。
でも、一番個性的なのはね・・・。
首から紐でね板がぶら下げてあるんだけど、どう見ても
「反省中」
って書かれてるんだよ。それも漢字で。
そして、正座で長机の上にいるんだよ。
大人な女性が・・・
(なあ、これはどこからつっこんだ方がいい?)
俺がそう言うと
顔を真っ赤にさせながら腰の紐に手を伸ばした。
(おい、何をするつもりだ?)
「わうっ、わうわうわっわんっ≪なにって、突っ込むつもりなんでしょっ!≫」
(・・・。なあ、神様・・・。アイツは何だ、わうわう言ってるぞ。)
『あははは・・・。いや、リューくん食べちゃったでしょ?覚えてない?あの声。』
いや、似てるな~からのあの声で大体わかっちゃったけどさ・・・。
ああ、食べちゃいましたよ。そりゃ~バキバキと
(なぜヤツがいる。てか、反省中って・・・。)
『そりゃ~食べちゃったからでしょ?
反省中なのは、まあリューくんとウナちゃんを・・・ねっ?』
(ねっ・・・て言われましても。
おい、取りあえず机から降りろ!躾がなってないな。)
「わっ、わううん!≪し、下でするのねっ!≫」
(こいつの頭はピンクなのか?)
プルプルしながら正座していた足を解く。
そしてゆっくりと長机から降りた。
プルプルしてる・・・どことは明確には言わない。
ああ、太ももが危険でデンジャーだよ。
男子にとっては特に・・・
「わ、わふー!≪し、躾っ!≫」
わふわふ言いながら太ももをこすりつけあっている。
(・・・。チェンジで。)
『焦らしプレイ?』
(何だよそれ!健全です~。
ただね、もう少し頭を冷やす時間をあげたほうがいいと思うんだよ。)
なんかショックを受けた顔をするピンク犬を放置し、
本のページを閉じた。
『ええ、そうね。ダンジョンから出たらいろいろ考えなきゃね。』
(そう、それだよ。なんでダンジョンから出たら~ってすぐ付け足すのかな?)
『それは、このダンジョンにダンジョンマスターがいることが関係してくるわ。
多少は干渉力を持っているのよ。
下手したらリューくんの能力を逆に利用されちゃうわけ。
だからね、できるできないもあるのよ。
こちらとしてはありがたいのが
リューくん階層ごとに全部の通路を見て回っているでしょう?』
(ああ、そうだね。見落としがあったら大変だ。)
『いい心がけね。それでね、少しながらもリューくんの生成する魔素というか、あふれ出してる魔素がこのダンジョンを侵食してるの。支配権を上書きしてるのね。だから、見回った場所は少しは安全なのよ。』
(ゲームとかでマップ100%にしないと気が済まないこととかあったからな・・・。プラスに働いてよかった。)
『そう、よかったわね。では、話戻すわね。だから、このダンジョンを完全支配、もしくは消滅させるのがベストなの。』
(もしもの保険か。消滅させて大丈夫なのか?てか、消滅させれるの?)
『それは、ダンジョンマスターを倒してみないことにはわからないところよ。
完全支配じゃ逃げられちゃう可能性があるからなおさら。
次の被害を出さないためにもね。』
(なるほど~。)
『ちなみに、ウナちゃんもこのダンジョンから出ない限り眠ったままよ。』
(なんで?)
『保険よ。いろいろと頑張ってもらったからご褒美も兼ねてるの。
今から覗く休憩室で意味がわかると思うわ。』
保険ね・・・。そんじゃ、休憩室、休憩室・・・
ん~保健室みたいな感じかな・・・
そう思いながら開く。
そこには、とても柔らかそうなソファー、大小さまざまなクッション。
会議室よりも元の世界よりな感じだな。
ただ、異質というか、自然というか・・・。
そのソファーに身体を預ける
天使がいた。
ああ、なぜかメイド服。
幸せそうな寝顔だが・・・あの子がウナなのか。
『本来の姿というより。・・・死んだ時の姿でしょうね。』
髪の色は変わらないが、肌の色が違うな・・。
ソファーで眠る天使を想いふけていると・・・
「ウ・・・ナ・・・?」
ん?
「ウ、ナ・・・なのか・・・。」
え・・・
「生きて、いる、の、か・・・。」
足音さえ聞こえなかった。
俺の後ろから本を見ている人物。
ただ、その顔は誰かに似ている気がした。