◆アノ日の出来事 と 今宵の出来事◇ (1)
◆『肉切り』のゴルト
あの日のことは夜が来るたび思い出す。
俺はあの日、2日行程で行う「成人の儀」の参加者の一人だった。
村のしきたりで17になる年に、教官役の大人と共に森で狩を行うのだ。
昼と夜に狩を行いそのどちらにおいても成果を挙げないといけない。
昼間の狩は、かなりのサイズのイノシシを仕留めることができた。
教官役で付いて来てくれていたヴォルキンも「この森にこんな大物がいるとは…」と驚いていたな。
その時に不審に思うべきだったのか・・・。
今思えば、その日からヴォルキンとは長い付き合いだな。
あの頃は寡黙で気難しい歳の離れた兄として慕っていた。
冒険者の嫁さんをもらってな、長男が生まれたばかりでさ・・・。
「ゴルト、お前には悪いが成人の儀の付き添いの最中にゆっくり名前を考えとくよ。」
だからお前一人でどうにか頑張れよと言われたっけな・・・。
そして夜になり、干した果物をかじりながら罠を確認していた、その時ふと空を見上げると
「おい!ありゃ村のほうじゃねーか!」
空がオレンジ色になり、煙が見える。嫌な予感がする。
「む。まさか夜盗でも・・・。」
仮眠を取っていたヴォルキンがそう呟いた。
「だとしたらやばいんじゃねーか、成人の儀で何人か出払ってるじゃねーかよ!」
「そうだな、急ぐぞ!」と言う声に俺は頷くと駆け出した。夜目に慣れていたおかげで問題なく進む。
そして、辿り着いた村は・・・一面火の海だった。
先に戻っていたのか他の成人の儀の連中も唖然と眺めていた。が、ブシュっと言う音と共に一人の教官の首が急に無くなった。意味がわからなかった。それが獣に食いちぎられたってのが特に・・・
周りはパニックになり武器を構えるが、一人また一人と身体の一部を欠損していく。
ただ早かった。今まで見てきた生き物と比べることができないほどに。だが、見たことある外見に近かったのは確かなのだが今でも記憶がぼやける。
隣に立つヴォルキンが「魔物化か…そんな、なぜこのような場所で…」
魔物、生物としてこれほど恐ろしいのか。外の世界にはもっと恐ろしいヤツがいるといつもエナさんが言ってたっけ。そうだ・・・
「ヴォルキンさん、エナさんの元へ!これがどういう状況なのかしってるかもしれない」
「あ、ああ。」と言って駆け出す。
その後ろを追従する。彼の家で待っていたのは物言わぬ亡骸。それも・・・大小の2つ。
村人は俺ら2人を除いて誰も・・・
あのときの彼の狂いようはいまでも・・・
彼は、その日から武器を握ることができなくなった。
手が震え、体が震えだすのだ。だから、ハンターになってからは己が身一つで魔物と戦っていたな。
彼女の愛用のメイスを愛息子を包んでいた布で包み、常に傍らに置いて。
俺自身の手持ちは、親父(村長)の自慢の一品スクラマサクスのみ。
あの日全ては燃え。残ったのは地下室に埋めてあった箱に収まるこの一振りだけだった。
多くを失った。そこからは、町に出てハンターになり、日々魔物を狩り続けるだけだった。
夜はなかなか寝付けない。あの頃は酒や一夜の女に稼いだ金は散財したっけ・・・。
互いに歳をとり、彼にはいつの間にか弟子なんかもいたな。
俺もギルドではしょっちゅう教官役として借り出されたっけな。
彼は先に引退していたが、俺も引退するから、最後に付き合ってくれないかと誘ったんだったな。
俺は、引退後は貯めた金で放浪の旅に出るとか、うまいもの食うとか、俺みたいに年くってるやつでも付いてきてくれる嫁さん探す。とか・・・。彼は最後までエナさん一筋だったな・・・。
そして、人としての最後の日を迎えた・・・。ダンジョンの一室で妙に精霊石や魔石があって目を輝かせながら回収している最中だった。
気付いた時には遅かった。
見張りをしていたヴォルキンが「ぐうう・・・」と唸りだしたからそちらを見ると・・・
腹をバスターソードによって貫かれていた。
相手の気配を感じなかった。
だがそこに確かにいた。そいつはアンデットだった。
騎士の鎧に包まれてはいるが、明らかに人ではなかった。
かなりの戦闘技術を持つ者だったのだろう。
彼の次は俺だった。逃げる間はなかった。
俺が斬られる瞬間思ったのは「なぜ?」だった。これほどの強者がアンデットになって
この「試練のダンジョン」と呼ばれている場所に現れたのか・・・。
今宵も玉座で目を覚ます。
あの後、死んだと思った俺は運良く生きていると思っていたが、まったくもって腹が減らない奇妙な状況に陥った。そして、死んだと思っていたヴォルキンの姿を見つけたとき、ある意味時間が止まった。
彼の顔がまるで・・・そう、オークだったから・・・。
そして彼の口から言われた、お前もオークの顔をしているぞと・・・。
彼は、「こんな姿でも仕上がるだろう。豚は筋肉質だからな。」などと言ってトレーニングを始めた。
俺は、探索して回った、が、思ったより行動できる範囲は狭く、自分たちのような存在とは別に普通のオークも居たので、見つけるたび狩った。そして、何も無い時は目覚めた部屋に戻り目を瞑る。ただそれだけの日々だった。
自害しようと考えた時もあった・・・だができなかった。
ダンジョンの一部を長い年月をかけてくりぬき、玉座を作った。
なぜそんな事をしたかって?
俺の存在が「オークキング」という名前に変わっていたからだよ。
自分で飾り立てたくなったのさ・・・。
惨めな王は、今宵も玉座に腰掛ける。
殺してくれるヤツが訪れることを。
目を瞑るたびあの日を思い出すことがもう無いように、
終わらせてくれる存在を・・・
そして、アイツは来た。松明の明かりに照らされるその姿を見て
「せめて強いやつでいてくれよ」と、
そう思いながら玉座からゆっくりと腰を上げた
◆『ジャック・ジャン』J・J
ボクは、それなりの貴族ジャン家の次男として生を受けた。
いつも兄の影だった。
兄は何もかもが優れており、次期当主としての教育も受け始めていた。
ボクは、劣等種だと何時も親から呼ばれていた。屋敷の使用人たちは優しかったが、それは、偽善であり、自身の愉悦を満たすための行いだった。
ああ、そんなときにボクは忍び込んだ調理場で運命の出会いをする。
ナイフだ!ああ、すばらしいと思ったね。
食事に使うような金属の棒きれじゃない。美しいフォルム、輝かしいボディー
その日から、ナイフを見に町を出歩くようになった。
護衛は、出かけるたびしぶしぶ付いてきた。はっきり言って邪魔だったよ。無粋だった。
鍛冶屋で気に入ったナイフがあれば護衛に聞こえないよう取引をした。
コレクションは、少しずつだが増えていった。
そして、更なる運命の日を迎えた。
嗚呼、あの日は曇りで今にも雨が降り出しそうだった。
護衛が邪魔になり、鬱陶しくなり、刺したのだ。自慢のコレクションの中でも特にお気に入りので!
スラムの近くで刺したからね、近くに居た餓鬼や大人に硬貨を掴ませたら嬉々として処分してくれたよ。
だが、両親にばれちゃってね。このままでは、ジャン家に殺人鬼が生まれたという汚名をかぶることになる
。そう言って、洞窟へと連れて行かれてね・・・。
筋書きはね
ジャン家の次男ジャックは護衛を連れて狩に行った。だが、魔物に襲われ見つかったのは護衛。
ジャック少年は果敢にもモンスターと対じし、護衛を逃がしたとさ。
そして、死んで食われたそうだ。
だが、その護衛も他の魔物に襲われ怪我を負い、このでき事を話すと息を引き取ったとさ。
ははっ笑えるだろ?
連れて行かれた洞窟でね。父さんが、自慢の家宝だなどといってね。カットラスを鞘から抜いたんだ。
そして、剣をじっくり眺めた後、小声で「また君を飾りたてる日が来たよ。」と
その時わかったよ。「ああ、ボクはお父さんの息子だな。」と
そして、実の父に首を刎ねられた。
そして、目を覚ます。どれほど寝ていたかわからないけど
首はねられた気がしたんだけどな~
などと思いながら洞窟の中を歩いているとナイフを見つけたなかなかのボディー、興奮したよ。そして、映りこむ自分の肌の色には少し驚いたけど。
まあ、ナイフに興奮する性癖のおかげで女の子には全くなんだけどね・・。興味が沸かないし興奮もしなかったんだよね。
それからは、ナイフを持ちながらうろうろしてたら、魔物を見かけたんだ。ゴブリンだよゴブリン。魔物だからね、そりゃ斬っても刺しても誰も何も言わないさ!楽しませてもらった。ただ、髪に返り血がね・・・。
問題になっていたが、ある日上質そうな布を見つける。それを折りたたんで頭に結び、髪が隠れるようにした。
それからもゴブリン(魔物)を狩っていたんだけどね。歯ごたえって言うのかな?
戦い、そんなものがしたくなってきた。
ただ一方的に狩る側で居続けることに飽きちゃったのかな?
そして、今宵も面白くなさげにうろうろしてたらさ、ボク以外の髪の毛アリのヤツがいたんだよ。
ぼーとしててさ、へんなやつだと思ったよ。
後ろからこっそり付いていったらね、俺が痛めつけていたゴブリンたちが髪アリのヤツを見たとたんに、こん棒で殴りだしたんだよ。ああ、憂さ晴らしかな・・・同じく髪の毛の生えたヤツにひどい目にあったからか。それとも、自分たちより劣りそうな存在だったからか。
どうやらメスらしい、ボクは興奮しないんだもん。
でもゴブリンたちの攻撃はエスカレートしてるね・・・。
「面白味が無いな~」と腕を組んで観ていた。
そしたら声が聞こえた。
「なんだよこりゃ」と喋った、ヤツを見る。
おお、リザードマンか?背はボクより少し低そうだな
だが、戦い好きのリザードマンだ。
ゴブリン相手では満たされなかったこの気持ち晴らしてくれるのでは?と、目を細める。
こちらの顔を見たリザードマンは、不快そうにしながらも腰を落としナイフを構えた。
その光景にボクは笑みが浮かぶのを感じた。
ねえ、楽しませてくれよ?
ボクを満たしてくれよ?