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ダンジョンリザード・ライジング  作者: 藍色ノ鰐
一章 『ダンジョンから始まる異世界』
1/44

1話 「第一声」

       ―ひたっ・・ひたっひたっ― 


・・・薄暗い石畳の通路に足音が響く・・・


 くたびれた革靴(お古ではあるがそれなりに丈夫)。所々が裂け薄汚れた長袖のワンピース(元は白く、安くはあるがフリルの付いた愛らしいモノだった)。


 両の手で大切に抱えられているのは題名すら書かれていない少し厚めの本、だが鍵穴の付いた留め金によって中の文章を読むことはできそうにない。

首から提げた革紐の先には銀色の小さな鍵が揺れており、大きさからして留め金用のモノらしい。


 肩まで伸びた髪は本来ストレートなのだが、今はボサボサで所々ハネている。


「はぁはぁ・・・・ふぅ・・・」


 しばらくして足音が止み、息遣いが代わりに聞こえ始める。息を吐くのは十代半ばと言ったところ(小柄で童顔な所為か年齢より幼く見えるのを本人は気にしている)の少女。


「・・・お父様・・・。ううっ・・・ひっ・・・ぐすっ・・・うう。」


 本に自身のおでこを押し付けつぶやいた後、父親の事を思い出し嗚咽がもれる。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




『その本を持って逃げなさい。その本があれば弱い魔物は近寄って来ない。特にダンジョンの中ではそれなりに強力な魔物であっても避けてくれるはずだ・・・。』


地に足を伸ばして木に背をあずけている男が、となりで寄り添う小柄な少女に話しかけた。


「お父様はどうするの!!手足を怪我しているのにこんなところにいたら・・・。」


話しかけられた少女は驚愕し、父親であるその男(痩せ型で30代後半といったところ)を気遣う。


『【    】、キミが無事ならそれでいい。2人ではどのみち逃げ切れない。』


「そんな!!いやよっ!お母様がいなくなってもう私にはお父様しかいないのに。」


男の言葉に少女はその端整な顔を悲しみに歪めながら糾弾する。


『参ったな・・。父さんは大丈夫だよ。確かに母さんにはもう会えないけど、いつになるかはわからないが・・・たとえキミがどこか遠くに行ってしまってもキミのところに帰って来るからね。

・・・約束する。』


「ホント!ホントに?でもそれまで一人ぼっちになってしまうわ。」


『・・・大丈夫キミにはその本があるから一人きりにはならないよ。』


今にも泣き出しそうな娘に約束し・・・少女の返事を聞いた後、真剣な顔でそう告げる。


「・・・・・・。本はしゃべったりしないわよ。寂しくてお本に話しかけたことはあるけど・・・。」


その告げられた言葉に真顔で答えた。


『・・・そうか、話しかけたことはあるのか・・・フフフッ。』


「んっ!もうっ!私は真面目に言ってるのです。あの時は急にお母様がいなくなったんですもの。お父様は仕事が忙しいといってお母様がいなくなられてからの何日かはあまりお話ししてくださらなかったのですから。小さなころにお母様がよく読んでくださった絵本でしたし・・・。」


男はその返事に微笑むが、少女は頬を赤く染めながら話しかけた理由を語る。


『・・・・・ごめんよ。また寂しい思いをさせてしまうね。』


「うん。」


眉を八の字にして男は謝り、それに対し少女は力なく返事をかえす。


『おっといけないね話が逸れてしまったね。なぜその本が君のことを独りにしないのかを教えてあげないとね。』


「はい。お聞かせください。」


『・・・・その本の中には精霊様を呼ぶための魔法が書かれているんだ。そして本を開いて呼んでくれた人の力になってくれたり、そばにいて守ってくれたりするんだよ。』


「妖精さんじゃなくて精霊様がお力をお貸しくださるのですか!?なら今すぐお呼びすれば・・・」


男の話に少女は目を見開きながら問うが・・・


『そう、妖精さんなんかじゃなくて精霊様だ・・・。確かにキミが言うように今すぐにでも呼ぶことができればいいんだけどね。・・・精霊様は場所を選ぶんだよ。』


「場所ですか・・・。」


『ああ、場所だ。ちなみに呼べる可能性がある場所に向けて今まで進んでいたからね。でも、僕はここまでのようだ。』


望ましい答えはかえってこず、一緒に行くのは厳しいと。


「・・・本当に一人で大丈夫でしょうか。」


『・・・。ああ・・・キミ一人ならば辿りつける。この本を持っていればその場所へと・・・自ずと。

大丈夫、キミを守り、力になり、助け・・・・そして導いてくれるはずだ。

なんたって精霊様だからね。

だから僕とまた会えるよ、すぐに会えるかはわからないけど・・・きっとまた会えるから。』


不安そうにしている少女にそうやさしく語りかけた。


『では、生(行)きなさい。休憩をとったキミなら今から向かえば日が暮れる前に目的の場所の入り口にたどり着けるだろう。もうしばらくの辛抱だよ。』


「はい。お父様、どれほどの間お会いできないかわかりませんがきっとまた・・・一緒に暮らせる日々を願っております。」


そして少女は駆け出した。

精霊さえ呼び出せればまたすぐに逢えると信じて。


『・・・。行ってしまったかぁ、確かにやつらに追いつかれ捕まってしまっても下手なことをしない限り殺されることはないだろう。しかし、キミは女の子だからね・・・あまり良い想像が沸かないや。どの道僕を従わせるための人質になるのは代わらないだろうけど。

ただ心残りは、運良く精霊が応えてくれるかどうか、もしかすると魔物や怪物が呼び出されるかもしれないな。・・・まあそれでもキミのために応えてくれた者はどのような異形のモノであっても助力は惜しまないだろうね・・・。僕が長年に亘りさまざまな古文書を研究・分析・解析して書き上げ組み上げた、この世に一冊しか存在しない〈特異種召喚の魔道書・守護者ノ章〉に応えてくれるような存在なら・・・ね。』




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 大丈夫、もう少ししたらきっと独りぼっちじゃなくなる。そう自分自身に言い聞かせながらまた歩み始めると程なくして通路の曲がり角が少し明るくなり始める。直感的にその場所に近づいているのだと少女は思い先ほどまでとは打って変わって軽い足取りで通路を駆ける。そして・・・


「わぁー!キレイ!」


 明るくなり始めた通路を駆けていると開けた場所に出る。っといってもそこまで広くなく小部屋程度ではあるが天井は高く、足元や壁に光る苔が生えておりほんのりと照らすその空間は少女の今までの疲れを忘れさせてくれるほどに幻想的であった。


 開けた空間の中央へと歩を進めると、首から提げた鍵がゆっくりと宙へ浮き上がる。「ああ」と嘆息し、この場所がそうなのだと確信するとともに浮いている鍵を右手で握ると首から紐をはずす。そして左の腕に抱いている本についている留め金の鍵穴に鍵を差し込む。

差し込んだ鍵を時計回りにゆっくりまわすと『カチャリ』と小さな音が鳴るとともに本が少女の手元から離れていきながら宙へと上り始める。少女の目の高さ辺りまで上るとともに留め金が『・・・カラン』と音を立てて足元の石畳に落ちた。目線の先の本が勝手に開くとついにその中身が顕となる。


「え、はぁ・・・は、白紙!?何も書かれていないの!どうして・・・。確かお父様が精霊様を呼ぶための魔法が書かれていると仰っていたのに。これじゃあ・・・私はどうしたら良いのでしょう。」


 開かれたページには何もかかれておらず、その次のページもそのまた次もゆっくりと開かれるたび白紙が顕となる。開かれ行く度に少女の顔が曇りゆく・・・そして・・・


「ああ、私を逃がすためだけにお父様は嘘を仰ったのでしょうか。それとも本を開く場所を間違えたのでしょうか・・・。ああ、あぁ・・・なんで、どうして・・・ねぇ、お本様・・・私が何か間違えたのでしょうか・・・私が悪いのでしょうか・・・。」


 少女は大きな悲しみに心が折れそうになり立っていられず、その場でゆっくりと両膝をついてしまう。視線は本に合わせたままだが目元が潤みはじめ視界がゆがみ、ついに目尻から涙のしずくが頬を伝う。そして泣き叫びそうになる・・・


が、その時中ほどまでページが進んでいた本の動きが止まる。そして、開けた空間の所々から小さいながらも誰かが話す声が聞こえ始める。言葉の意味やなんと言っているのかは聞き取れないが声がすることに少女は目を見開く。


「え、あっ、うっ?」


 突然のことで少女は頭が回らず意味を成さない声が口からもれる。目元を袖で拭い、周りを上下左右くまなく見渡すが入ってきた通路に空間を照らす苔、広がる石畳や隙間から見える土に小さな石ころ、足元の留め金、宙に浮く本以外は何も無い。見渡し終わった少女は本へと注目を戻し・・・


「もしかして精霊様、それとも妖精さんがお話ししているのかしら・・・。」


 小さな声は少しずつ近づいているのか耳にとどく音量が少し上がり始める。だが、聞こえてきた声に少女は眉をひそめてしまう。

 それはまるで幼子のような、男の子や女の子、それ以外にも大人の男女のように聞こえ、ついにはしわがれた老人のような声まで。声の質もさまざまで高かったり低くかったり野太かったり軽やかだったり美声のような声もその中に混ざっている。ただ、どの声も同じ単語を口にしているようだ。そして・・・


『『『汝は、』』』  『『『汝は、』』』  『『望む?』』  『『何を』』 『『望む?』』


『『『『『『汝は、汝は望む?何を望む?』』』』』』


 そう問う声が所々から聞こえはじめた。少女に問いかけているかどうかは判断しかねるが所々からたしかに聞こえてくる。少女はその問いに口を開くが


<ねぇ、貴女は・・・貴女は、何がほしい?・・・何が必要?>


 言葉を発する前に今までで一番近く耳元に声が囁かれる。その声はとてもとても穏やかで、何度も何度も聞きなれた、聞いてきた・・・しかし、もうけっして聞くことの叶わない声・・・。


「お、お母様!?お母様なの?・・・ねえ、お母様?」


泣き出しそうな少女の問いに・・・


<それは貴女がほしいモノ?貴女に必要なモノ?>


そう返される。その言葉に少女は・・・


「え、う、お母様じゃないの?じゃああなたは誰なの?」


<・・・・・・・。貴女は何がほしい?何が必要?>


 少女の問いに答えず、しばらくの沈黙の後、同じ問いを繰り返した。だが先ほどとは違い、耳元で囁くのではなく少女の真正面から姿は見えないもののはっきりした声色で問いかけた。

まるで、聞き分けの悪い我が子に話しかけるように・・・。その声に少女は


「わたしは、  『『『汝は、汝は<うるさい。アンタ達はだまってなさい。>』』』


「・・・。」  『『『・・・。』』』


うむ。叱られた。

静かになったのをみて<うん、うん>とうなずくような声が聞こえた後


<よろしい。それじゃあ改めて・・・貴女には何が必要なのかな?>


「お、お父様の所まで一緒にいてくれる精霊様が・・・。」


<んー、だめだめそうじゃなくてね・・・てか、精霊様は厳しいかなー。>


「え、で、でもお父様は『この本には精霊様が...』と・・・」


<・・・。ンッもうダレンったらこの子になんて出鱈目なこと言ってるのかしら・・・。

もしかして、彼自身そう誤解、解釈していたということなのかな。>


少女の話に優しき声は思わず小声でぼやく。


<まぁ兎に角、この本じゃどうあっても精霊は呼べないんだけどねぇ。>


「そう、ですか、そうなんですか・・・。では私はどうしたら、どうしたらよいのでしょうか。」


<そんなの簡単よ、貴女が望むモノを言えばいいのよ。>


「私が望むもの・・・。」


<思い出してみて、きっとあるはずよ。そうでなきゃもとよりあの本が開くことは無いのだから。>


 少女は言われて宙に浮く本を見る。この場所までどのような気持ちでいたのかを、何をそこまで望んでいたのか、父親の所に向かう以外になぜ望む必要があったのかを・・・。そしておもむろに父の言葉が

『一人きりにはならないよ。』『そして本を開いて呼んでくれた人の力になってくれたり、そばにいて守ってくれたりするんだよ。』そう、だ、自分が何を欲しているのか


「独り(一人)になりたくない!そばに一緒にいてくれて、お話できる存在が・・・ほしい!!」


<ほら、あったでしょう。・・・さて、貴女の望みは今〈守護者ノ章〉へと聴きいれられた。

ではこの本とはお別れね。これから多くの困難や試練が待ち受けていようとも、守護者と共に打ち克ちなさい。・・・母さんからは以上!

ごめんなさいね・・・。もっといろんなことお話したりしたかったのだけれども、時間が限られていたからね・・・。>


「ううううぅーーー。」


 やっぱりお母様だった!そう理解したと同時に涙が止め処と無くあふれる。涙する少女に時間が無いと言った彼女の母親は今までよりいっそう優しく声をかける。


<ほらほら、もうちっさい子供じゃないんだから。ね、またお別れするのは辛いと思ってあなたの答えが出るまで親だって言えなかったのは確かに悪いと思ってるわ。

でも別れは必然、こうやって話をすることができたのは、死んだ私の魂のかけらをお父さんが本に組み込んでくれたおかげだからね。私が死んでから何日かお父さん忙しそうにしてたでしょ?貴女が本を開くときにお話できるようにって・・・>


「おどうざま゛ぁぁ~おがあざま・・・。」


<ふふっまったくもう・・・。泣き虫なんだから。・・・こんなときになでることもできないなんて。これはさすがの私でも辛いわね。でも一番の心残りはね・・・

あなたの子供が見れないことよ!撫でれないことよ!抱っこしてハグして、よちよ~ちして、オシメ換えてあげたりとかいろいろしたかったんだから!>


「・・・む。」


<そりゃ、貴女はかわいいわよ(私の娘なので確定事項)。私も可愛かったし綺麗だったし。旦那の顔もよかったからね(惚気)。でも、貴女が結婚して男連れてきて、そして生まれてくるであろう孫の顔を見たかったのよ。>


「さすがにまだ早いわ。先月15歳になったばっかりなんだから!」


<そう。15になったのね・・・。でも、身長低くない?顔は全然オッケーだとして。>


サクッっと胸に突き刺さる言葉。150cm(センメル)にすらとどいていないのである。


「こ、ここ、これからよ・・・、・・・そうシンジテル。

それにお母様が高いほうだったからって娘の私が高いとは(ごにょごにょ・・・)。」

※生前お母様は170cmと周りから抜きんでていた。


<・・・。貴女も悩むお年頃なのね。>


「そりゃそうよ、お母様がいなくなってからいろいろ大変だったん<そろそろね。>」

「ん?何がそろそろなのですか。」


<いや、あなたねぇ・・・願いが聴きいれられて今は守護者が呼ばれてる最中なのよ。>


「へ?・・・あ、そう!そうでしたっ!て、あああっ、本がすごいことになってる!?」


視線の先にある本はいつの間にか閉じられ表紙に古代文字らしき文章、並びに魔法陣が浮かび上がり淡く輝いている。少しずつ眩しくなり始め・・・


<貴女、父さんに似てお天気さんね・・・。そろそろ『この私』ともお別れね。余裕ができたら『私の』お墓参りにでも来てね~>


優しき声の気配が無くなり・・・


『バイバイ~』 『催促でな~』 『お元気で』 『風引くなよ!』 『できるできる』 『ETC!ETC!』 

『今日からキミは!』 『ね~む~い~ぞ~』 『腹が減ったな』 『なるようになる』 『あでぃお~』


その他もろもろの声が別れを告げる。そして静まり返る。


「あ、そういえばほかの方の声もいらしてたんでしたね・・・。」


===汝、光り輝く『ソレ』に手をかざしたまえ。===


今までと異なり重く厳かな声が響く。

少女は輝く本に手をかざす。

本は形を失い両の手のひらに収まる程度の光球となると少女の元へとゆっくりと近づく。


===今顕現する。新神に見初められし眷族よ。守護者よ。これより小さき者の力となれ。===


彼女の両手の平に舞い降りた光が輝きを失っていき・・・

失われた光の後には、体長15cmほどの全身を灰色と薄茶色で染め、金色の瞳をした≪トカゲ≫が・・・


「ひいっ!」


急に生まれた感触に驚き、ソレ(トカゲ)を投げ上げてしまい。

天高く勢い良く上がった後、ソレは石畳と接触し苦痛の声を上げた。


『クォっ!』





この世界における第一声である・・・。











誤字脱字等。言い方の間違えや表現の仕方に何があるかもしれませんが。書く方は初めてなのでご容赦を・・・。

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