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月兎  作者: 橘唯楓
2/2

インワンダーワールド

2018年9月11日午前7時


「・・・・・・」

 10階建てのワンルームマンションの6階の翔馬の部屋に1日の始まりを知らせる眩しい日差しが差し込んでいた。

 翔馬は結局一睡も出来ずにいた。それは、昨日の謎の化物と人がいない謎の空間が自分をまた襲ってくるのではないかと怯えていた。

 何度か眠りにつきそうで意識がなくなりかけたり、瞬きで目を瞑ったりした時にはすぐに外を確認しては、何も起こってないと安心してはまた目を瞑りそうになったりと、そんなことを繰り返していた。

 結果的に何も起こらず、ただだだ日の出を待っていた。そして、目覚まし時計の音が部屋に鳴り響き、自分は何事もなくまた日の出を迎えることができた、生きてる、ということを実感しながら寝不足でぼんやりする頭を必死に動かしながらいつも通りの朝を過ごそうとする。

「今日は金曜日だから可燃ゴミだな……」

 わかりきってることを、口に出しながら物事を進めていく。何もない、いつもの朝だ。それを口にしないと実感出来ず、安心出来ずにいた。

 朝食は食欲がなかったが、無理矢理食べ終え、食器を洗い、支度をし、可燃ゴミを持って、ドアに鍵をかけ階段を降りていく。

「はぁ……」

 重々しくため息をつきながら、ゴミ捨て場へゴミを置いた。待ちに待った文化祭なのだ。楽しまなければ。そう思いながら疲れでボロボロの体で歩いて行った。



午前9時00分 海鴎高校


 家から歩いて10分もないところにある高校、この日学校では文化祭が始まり、そして今開会式が終わり、教室へ生徒達が戻っていく。それから、教室に戻り担任の注意事項などを聞いた後、生徒達は自分達の出し物の作業へ移り、校内は一気に騒がしくなる。

「よし、皆張り切っていくぞ!」

 翔馬は廊下にも響かせる勢いで叫び、教室からは一斉にオー!と声が上がり、各自の持ち場へと向かっていく。今ので一気に疲れがどっと溜り、少し吐き気を感じていた。

「ちょっと、大丈夫? 翔馬は舞台の管理あるんだから」

 気がつくと、その場で座り込んでおり、遥が覗きこんでいた。普段ストレートヘアーの遥だが、今日は文化祭だからか気合を入れてポニーテールにしている。

「あぁ…ちょっと寝てなくてな……」

 翔馬は立ち上がり、ふらっとしながらも教室から出ようとする。

「しっかりしてよ? そっちに関しては全部任せてるんだから」

「へいへい……」

 右手でプラプラと適当に振り、廊下に出ていく。寝不足のせいで吐き気がひどいが頭は朝よりはスッキリしている。




 昼頃になり、舞台の劇も2回目が終わり、昼休憩に入っていた。

「おい、翔馬、劇終わったぞ」

「あ、え?」

 体育館にある放送室で翔馬は体操用のマットの上で眠っていた。劇は完璧に出来ており、何も異常がなかったことから安心している間に気がつくと寝ていたようだった。

「お前なぁ、あとで野球部とかに感謝しとけよ、わざわざマットとか敷いてくれたんだからな」

「はぁ……」

 どうやら、野球部達がわざわざ壁にもたれて寝てた翔馬を持ち上げ寝かせてくれたようだった。なんで起こしてくれなかったのかと聞いたら、叩いても起きなかったから無理矢理寝床を作ってやったとのこと。

「劇はどうだったんだ?」

 翔馬は、自分がそんなことされても爆睡してたことに恥ずかしく思いながらも、咳払いしながら立ち上がった。

「別に何も異常ないし、皆キビキビやってくれたし、お客さんも大量で大盛り上がりだ。というか、多すぎて何人か座れなかったけどな」

 そりゃよかったと思いながら、ステージを見る。今回、自分たちがやった劇は『アリスインワンダーランド』である。2年生でやりたい人だけが集まってやっているが、何人かの1,3年生も手伝ってくれている。

「アリスか……」

 昨日の出来事を思い出す、自分は変な道に入ってから変な化物に会い、酷い目にあって、謎の女の子と会った。

(そういえば、あの子も兎みたいな格好してたな…コスプレみたいだったが)

 自分がアリスかよと、鼻で笑いながらも謎の因果的なものを感じていた。この劇を企画したのは自分で、これを選んだのも自分だからだ。

「とりあえず、お昼休憩でご飯食べて来るわ」

「わかった、じゃあ俺も飯食ってから宣伝とかしてくるわ」

 放送室の係りの生徒が部屋内を点検してる間に翔馬は先に部屋を出て、ステージの片付けを見送りながら教室に戻ろうとする。

 それから、昼食を終えて、1時からの公演までに客を呼ぶことにした。

「この後、1時からアリスインワンダーランドの第3回目の公演をします! 是非来てください!」

 首にクラスのコスプレ会のカードをぶら下げ、手には劇の看板を持っている。

「2-Bでは、コスプレの貸し出しをしています! 女装、男装もできますので是非よってみてください!」

 廊下は人で溢れており、通るのに少し苦労していた。また、色んな人が出し物の宣伝をしており、とにかく賑わっていた。

 また、この日は近くの中学校は学校見学などで平日でも中学生が来ており、周りの教室からも積極的に声をかけていた。

「あ、この後劇あるんで是非見に来てください、1時から体育館でやります! あと、3階の奥の2-Bではコスプレやってますんで、是非来てみてくださいね!」

 翔馬も負けてはいられないと、中学生に声をかけていく。

 それを見かけた、茶髪の三つ編みおさげの女の子はじっとこちらを見つめていた。翔馬はそれに気づくと顔を向け、宣伝をした。

「あ、これ是非来てください! ステージとかちょっと凝ってるんですよ?」

 少女は顔を変えず、真顔で翔馬を見つめていた。翔馬は少し恥しくなり、顔をちょっと遠のけた。

「きょ、興味があるなら是非、2階から上がって体育館へ……」

 少女は翔馬を無視してそのまま真っ直ぐ歩いていった。

「う……うーん、最近はよく小さい? 子に無視されるなぁ……」

 少し傷ついたぞ。と思いながら宣伝を続けながら体育館へ戻っていった。

(そういえば、あの子……昨日の子に似てたような……?)

 考えすぎな気もしたが、雰囲気といい妙に似ていたような気もした。

(ていうか、あの子のメガネ、絶対に度がなかったよな…って、どうでもいいこと気付いたな……)



午後4時


 文化祭1日目が終わり、生徒達は祭り気分が抜けないまま校門を出ていく。

 翔馬はいつも通りスーパーで買い物してから帰ろうとしたところだった。

「そういえば」

 いつもの近道に使う細道を通ろうとした時だった、辺りは夕日に照らされて鮮やかなオレンジ色に染められていた。

「大丈夫だよな……?」

 昨日の出来事を思い出し、足が震えだし、行くことを躊躇う。だが、それとは逆にもし昨日と同じことが起きたら、あの化物はなんなんのか、助けてくれた少女も何者なのか。恐怖と知りたいという好奇心から妙な気持ちになっていた。

「よし!」

 翔馬は目を瞑り、思いっきり走った。

 しかし、前みたいに何も起こらず、いつも通り人が歩いていた。

「……やっぱたまたまか……」

 良かったという安心感と何もなかったというガッカリ感がありつつも、翔馬はスーパーへ歩いて行った。

(まぁ、本当に起きても困るだけだしな)




午後7時岐阜県のとある山奥


「相変わらずなげぇなぁ、ここは」

「ここも早くトンネルでも作ってくれればいいんだがな」

 男性二人は買い物から車で自宅へ向かう途中だが、その道は細く、車二台通るのは厳しいくらいだった。更に、道は9月にも関わらずほぼ真っ暗であり、街頭は数分走って一個出てくるくらいしかない。

「いっつも思うが、幽霊でも出たら面白そうだよな」

「出たら出たらで困るけどな」

 男性達がふざけながらいつも通り帰宅している時だった。

「うおっ!」

「な、なんだ!?」

 急に何かが響くような音がし、目の前がフェードアウトし、激しい頭痛のようなものに襲われた。

 男性達が意識が戻ってきた時だった。

「お、おい!」

「な、なんだ!?」

 目の前には犬がいた、だが、普通のものではなく、目だけが異様に光っており、大きさも4本の足で立ってるにも関わらず、人一人分の大きさがある。それに異様なほど筋肉があり、明らかに普通のものではなかった。

「う、うわああああ!!」

 運転席の男性はバックして逃げようとするが、犬はその場から飛び、車の上に飛び乗り、その衝撃で車のエンジンが止まり、車もパンクしていた。

「うわああ!!」

 男性達は急いで車から飛び出し、走って逃げようとする。

「助けてくれぇ!!」



「……!」

 海鴎高校の文化祭からの帰り道、とある少女はある異変に気づいた。

 少女はすぐさま走り出した、その時、海鴎高校の男子生徒であろう人とぶつかったが、ごめんなさい、とお辞儀をしそのまま走っていった。男子生徒は何か叫んでいるが、気にしている暇はなかった。



 翔馬はスーパーの帰り道に正面から勢いよく女子中学生らしき子とぶつかってしまっていた。

「うわ、わ、すみません!」

 バランスを崩しかけ、卵を潰しそうになり焦るもなんとか体勢を維持し、卵も死守した。

 少女はペコっと頭を下げてから走り去っていた。

「あ、ちょっと、君!」

 翔馬は自分の足元に落ちた生徒手帳に気付き、渡そうと叫んだが少女はかなりの早さで走っていく。

「生徒手帳落としてますよぉ! おーい!」

 少女は気づかないまま視界から消えてしまった。

「うーん……さっきの子文化祭にいた子かなぁ?」

 翔馬は拾った生徒手帳を見て。

「勝手に中身見て申し訳ありませんが!」

 生徒手帳の外側はただ紫のカバーだけで、どこの学校かわからないため、中身を確認する。

「浅山中学校……しだ 小兎弥ことみ……2年生か……てか、浅山ってここからちょっと距離あるところじゃん! わざわざここまで来なくても……まぁ、自由なのか?」

 海鴎高校からは自転車で20分もかかる場所にある。そんなとこから、わざわざ徒歩で来るとは。そんなことを思いながらも、明日学校の方へ届けようとポケットへしまった。



 とある少女は愛知からわずか5分で岐阜の山奥へと駆け抜ける。しかしその山は、妙に獣臭く、変に重い感覚がした。

 右手には赤い大剣のようなチェンソー、背中には黒いコートにピンクの兎のマーク、持っていたメガネとかは鞄の中へしまい、音よりも速い速度で走っていた。

「……!」

 やけに違和感を感じる場所に辿りつくと、少女は右手で何かを押し出すように抑え、こじ開けた。

 それをこじ開けると、一気に獣と血の臭いとガソリンの臭いが漂ってきて、目の前に複数箇所を噛み砕かれたと思われる男性の遺体と、車の近くで両腕を握り潰され喉元を噛み砕かれ、痙攣しながら血を流す男性がいた。

「……」

 犬のような化物は少女に気付くと、噛み付いていた男性を放り投げ、狩りの体勢になってから少女へ威嚇するように唸ると、一気に飛びかかる。狙いは首元だった。

 しかし、少女はあっさりと避け、がら空きになった脇へチェンソーを刺し、そのまま前腕を切り上げ、バランスを崩したところにチェンソーを一気に刺し込み、持ち手のところにあるトリガーを引き、チェンソーを回転させ内蔵を一気に砕き、そのまま上へ切り上げる。

「グウウウウゥゥゥゥ!!」

 犬の化物は苦しむように呻きながら臓器や血を撒き散らしながら倒れ込む。

 そのまま少女は、トドメをさそうとした時だった。

「グオォ!!!」

 切り裂いた傷口から一気に血が吹き出し、その中から頭が2つになった別の犬の化物が出てきたのだった。まるで、脱皮したように。

「っ!?」

 少女は血のせいで目の前が見えなり拭おうとした時、前から体当たりをくらい、その場で倒れ込んでしまった。

 犬の化物はそれを逃さず追撃しようと、その場で回転し、再び飛びかかる。

 しかし、少女は顔についた血を拭い、倒れたまま手放した時に上がったチェンソーの柄の部分を蹴り、化物へ一直線に飛ばす。

 空中で身動きが取れず、化物は体をまっぷたつにされるが、その切り裂かれた体と体が離れまいと再生し、更にまた頭が増えたのだった。

「……っ」

 少女はその場でローリングし、クラウチングの構えをとり、目に見えぬ速度で走り出し、先程蹴り飛ばしたチェンソーを空中で回収し、飛んだ先の木を軸に強引に回転しながら化物へ飛んでいく。

 化物はそれが来ると高く飛び上がり、森の奥へ奥へとムササビのように飛んで森の奥へと消えていった。

「……」

 少女は表情は何一つ変わってはいないが、仕留めきれなかったことを悔いていた。そして、助けれなかった男性達の遺体に合掌し、その場から去った。




9月12日愛知県海鴎高校


「みんな、お疲れ様!」

 海鴎高校の文化祭は二日目、そして2018年度が終わりとなり、閉会式が終わったあと教室で小さな打ち上げをしていた。

「皆のおかげね、本当にお疲れ様」

 遥は最後からは舞台の手伝いをしつつ、少しだけ役をやり疲れていたが、自然と笑顔になっていた。

「うん、本当に最高の文化祭になったと思う!」

 翔馬も満面の笑みでクラスの全員を褒め称えた。

「まさか、こんだけ盛り上がるとは思わなかったな」

 担任も心底驚いたというように笑いながらいう。

 教室ではポテトチップスなどの匂いが充満しながらも、最後まで賑やかだった。




 それから解散し、翔馬はいつも通りスーパーへより、浅山中学校へ昨日の生徒手帳を届けようと、いつもの細道を通った時だった。

「これってまさか!」

 覚えのある感覚、まるで人がいなくなっていくような感じ、翔馬は急いで大通りへ出た。

「ビンゴかよ……」

 人は誰もおらず、さっきまで聞こえていた車の音もなかったかのように走っていない。ただ、夕日に彩られた街だけが静かにあった。

「本当にまたこんなことになるなんて……ガチでは望んでねぇよ……」

 翔馬は疲れからのため息と、理不尽さの怒りと、この前の事を思い出し恐怖していた。

「……っ!」

 翔馬がそうなった時、犬が唸るような声が聞こえ、そちらを振り向くと、まるでケルベロスと言えるような化物が翔馬を睨んでいた。それに、何か怒っているように見えた。

「今度は犬……か……」

 翔馬はすぐさま鞄の中から昼食の時とは別の弁当箱を取り出し、その中から卵を出した。

 翔馬自作の煙玉である、もしもの時に備えて作った簡易的な煙玉、炭やコショウなどを詰め込み、セロハンテープでとめ、新聞紙を詰め込んで割れないように保管していた。

「く、くらえ!」

 翔馬が投げた煙玉は綺麗に犬の化物の手前に落ち、黒煙と強烈なコショウなどの匂いを出していた。その間に翔馬は走り、逃げようとする。

 化物は、コショウの匂いで器官に入ったのか、少し苦しみながらクシャミのようなものをすると、地面に灰色のような謎の液体を吐き出すと翔馬の方へ走っていった。

「うわ、ちょ、はや!」

 翔馬は3個しかないうちの二つ目の煙玉を地面に投げた。それと同時に曲がり角に曲がった時、犬の化物は目を瞑りながら電柱へ激突するも、電柱はその場でなぎ倒される。そして、すぐさま翔馬へ襲いかかる。

「くそ、もうこれで終わり……!」

 最後の煙玉を使い、再び曲がる。それと同時にまたしても化物は壁へ激突し、バランスを崩す。

「うわ、あぶな!」

 あと少し遅かったら確実にぺしゃんこだった。翔馬は鞄で一発右の頭を殴ると再び走って、大通りへ戻る。そして、来た細道を通り抜けるが。

「え、嘘!? 戻らない!!?」

 この前、少女が案内してくれたように細道を通るも何も変わらず、化物が先ほどより速い速度で追ってくる。

(ってことは、この化物を倒さないとやっぱ出れないってことなのか!!?)

 翔馬は為すすべもなく、死を覚悟した時だった。

「うわっ!」

 突如、空から何かが降ってきて化物の真ん中の頭を貫いていた。そのまま、翔馬の前へと飛んだ。

「き、君は!」

 この前の少女だった、藤色の三つ編みおさげの髪に、黒いフードとコートに兎のマーク、そして赤い大剣のようなチェンソー。

 間違いなく、あの時と同じ少女だった。

「……」

 少女は少し驚いたような顔をした、ような気がしたが、翔馬を見つめると、すぐに向き直り化物のほうへ走っていく。

 翔馬は黙って見守っていた。

「す、すげぇ!」

 少女は軽やかな身のこなしでありとあらゆる攻撃を避け、確実に斬っていく。

 しかし、化物は斬られる度に分離するように増殖していき、気がつくとケルベロスのような化物は10体の犬になっていた。だが、唯一1体だけ脳天を突かれた犬だけは血を流しながら倒れたままだった。

 翔馬はそれに気付くと

「あ、頭! 頭じゃ!!?」

 少女はそれを聞くと確実に脳天を貫くように刺していく。そして、確実に1体ずつ減らしていき、最後の1体となった。

「ッ!」

 少女が最後の一撃を加えようとした時、爪で少女の腹をかすめ、攻撃が逸れ、肩にあたりそこから首が生えてくる。少女はその場で右脇腹を抑えており、出血してるようだった。

「だ、だいじょ……」

 大丈夫か!と言おうとした時、化物は少女の頭を噛み砕こうと飛びかかった。

 その時だった、少女の持っているチェンソーが真ん中で割れ、そのまま回転し、ハサミのようになり、それをそのまま一気に化物の顔の正面から突き刺し、チェンソーを起動させ、鈍い音と赤い噴水のように血を吹き出させながら、ギロチンの如く二つの頭をまっぷたつにした。まっぷたつにされた頭からは脳みそらしきものが痙攣しながらも、真っ赤な液体を流しながら飛び出していた。

「……っ、なんて武器だ……」

 ただの大剣のようなチェンソーではなく、機械仕掛けのある武器だった。

 少女はその場で立ち上がり、抑えていた手を離すと、先ほどの傷が治癒していた。そして、その場から立ち去ろうとした時だった。

「ま、待って!」

 少女は振り返ると次の言葉を待つ。

「え、えっと……垂 小兎弥さん……だよね?」

 垂 小兎弥らしき人物は驚いたように息を飲み、コクっと首をゆっくり振った。

「そうか、君だったんだ……文化祭来てくれてたんだね……あ、あとこれ……生徒手帳……昨日落としてたから……」

 翔馬は鞄から生徒手帳を出して渡すと、小兎弥はお辞儀をし、再び去ろうとする。

「あ、待って!」

 翔馬は勢いよく小兎弥の手を掴み引き止めた。

「その……この前も助けてくれてありがとう! だけど、君は一体何者なんだ?」

 小兎弥は翔馬の顔を見つめたまま黙ったままだった、顔色1つ変えず。

 他の人が誰一人もいない夕暮れに染まる街の中、只々沈黙だけが続いた。

 まるで時が止まったように。

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