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Run away!3

病室の彼女

作者: 貴幸

誕生日おめでとう。

小さい頃から学校みたいなそうゆうところには行けなかった。


友達がいなかった。


病院でできる友達はとてもみんな、優しかった。



けれどもそれは一時的なもので。



時が経てば退院して、家族の元へと離れていく。

私の中で景色が変わったのを見れたのは歳をとって、幼児用の病室から違う病室へと変わった時くらいだ。









病室の彼女。











物心つく前から何度も聞いていた。


「私、なんて病気なの?」


看護師や医者は毎回優しくカルテに書かれた言葉を丁寧に言ってくれた。


やがて時がつれ、新しい病人が来るたびに私は聞かれた。


「貴方はどんな病気なの?」


その度に私は丁寧に、身体に染み付いたその言葉を一字一句間違わずに言ってみせた。


大概が歳老いた大人や小さな子供がくるこの病室。

どうやら余っている場所でいいと言った人がくるらしい。

もちろん私は言ってない。

だが、親が勝手に言ったのだろう。


いつからだろう、親の顔を見ていないのは。


仕事で忙しいって言って一度として見舞いになどこないんだ。

死ぬなら死んでどうぞ、という感じなのだろう。


自分の病気について調べたこともあった。

私の病気は看護師が言った通りなおる方法はなく、二十になる頃には心臓発作で死ぬらしい。

奥まで調べてみると、とんでもないことを知った。

病人を解剖して、その病気について調べようとしている団体がいるらしい。


「…」


さすがに言葉を失った。


私もこの道を辿るのではないだろうかという恐怖。


そして、そうなることによって私以外がそれで救われる可能性があるかもしれないという現実も襲ってきた。


「はは…」


人生はあと何年私を生かしてくれるのだろうか。



そんな余り物の病室に珍しい年代の人がきた。


そう、私と同じ年代なのだ。


大体は良い場所を欲しがったりするのだが本当に珍しい。


友達に、なりたい。











病人がきた。

複雑骨折したらしい。


「あ…」


両耳にピアスをして、いかにも不良という目つきをしていた。

でも、私にはそんなこと関係なかった。

初めての同い年なんだ。

緊張で喋りかけることができない。

そんな気持ちになりながら外を見ているふりをしていると隣の窓によりかかりはじめた。

い、今じゃない?

喋りかけるならこの、この!タイミングじゃない!?


「お……おに…」


「お兄さん、空が好きなの?」


言えた!!!!私言えたよ!!

なんだよお前、という顔でこっちを見てくる。


「…あぁ。」


「私も、私も好きなんだ!空!」


嬉しくて嬉しくて、笑顔がこぼれる。



これが私とハルトの出会いだった。



ハルトは不器用で、でも見た目以上に優しかった。

そんなハルトに私はどんどん引かれていった。






「ハルト!おはよう!」


いつもなら規則正しく起きるハルトだが、今日は珍しく寝ていたのでお越しにきた。

看護師が来る前に、私が起こしたい。


カーテンが閉めてある中でハルトにキスをしたのは内緒。


「んあ…」


眉をヒクヒクさせながら起きる。

目をこする姿は可愛い。


「リハビリだよ〜」


「もうちょい…」


そう言うとハルトは私の背中に手を回してきた。


「…え?」


寝ぼけてる?寝ぼけてるの?

今まで感じたことない人の体温にどっと頭が混乱する。

母にも父にもここまで抱きしめられた事などあるだろうか。


「暖かい…」


その体温をしっかりと身体に刻みこんだ。


「ほら、はやく起きないと。」


身体からハルトを引き剥がす。

まったく、可愛いやつだ。


「ハルト!おはよう!」


そんな君が大好き。






でも、ハルトが好きになるたびに重い現実が私に迫ってくる。



ハルトはいつか、退院してしまう。



こんなに、こんなにも好きでも、絶対に感情を見せないようにした。

みんなと同じように接して。

でも、そんなの無理だった。

ずっと一緒にいたいけど、叶わない。

ハルトの記憶からいつか私は消えてしまうものなのだ。

そう言って自分の気持ちをおさえた。


そして、ハルトとの別れの日がきた。



ハルトは優しく、私の事を心配してくれて度々見舞いにきてくれた。







「あ、ハルト!」


「プリント届けにきた。」


「私に会いたかったんじゃなくて?」


冗談に言ってみる。


「…悪かったかよ。」


予想以上に素直だ。


「ううん、嬉しい。」


前よりもここにいることがさみしくなくなった。


ハルトが帰って、私は空を見た。

つい先日、両親がきた。


嬉しさはなかった。

ただ、何を言いにきたのだろうという気分になった。


「お前のかかっている病気を調べたい人がいるらしい。」


鳥肌が一気にたった。

涙もでない。


「…わかりました。」


ハルトと出会ったって、この人生の行き先が変わることなど何もなかったのだ。





ハルトに別れの挨拶、言ってないや。


怒られるかな?


墓参りはきてくれるかな?


ハルトには幸せになってほしいなあ。


空を見ながらただただ涙を流していた。










これから十二時間後、私はハルトの目の前で死ぬことになる。








とても短いけど、ハルトと出会えた幸せな人生だった。










君の人生が私の人生の分楽しくなりますように。








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