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ワールドリセット・リテイクライフ  作者: 不落八十八
一章ーークルルゥ村開拓記ーー
2/61

二話「食糧難」

「……ぐぅッ、旅を甘く見てたぜ……」


 草原から近くの森林へ足を向けたのは二日前、既にノナメからは当初の余裕はこれっぽっちも無かった。

 適当に歩けば農村くらいはあるだろと歩き始めたのだが、二日も歩いて人すら見当たらない。

 気配を察知だなんてスペックは無いノナメは延々と歩き続けるしかなく、数十キロは歩いた気分で近くの木の根に座り込む。

 幸いにも近くに湧き水があり、竹筒の中身は足せた。しかし、干し肉だけでは栄養が足りないと感じたノナメは早く人に出会いたかった。

 食べられる野草を教えて欲しい。たったそれだけのために。


「あー……、駄目だ。疲れた。なーんで誰も会わないかね。せめて猪とか豚とか野生に居てくれりゃ良いのによぉ」


 愚痴を吐きながらノナメは布鞄から干し肉を取り出し、口に放り込む。残り少ない干し肉に戦慄しつつ、背中を木に任せる。

 音を立てぬように何の肉かも分からぬ干し肉を噛み締めるノナメは辺りを見回して、食える動物でも居ないかと希望を探す。

 火なら木さえあれば容易に起こせるくらいには慣れた。外套の下は革鎧である、眠りにつくまでは残る火が必要だった。コツを覚えるまで幾度も練習した甲斐があり、準備さえ出来ればきちんと起こせる。

 

「サバイバル生活はしんどいなー……。木の実とかありゃ良いのに……これじゃあなぁ」


 上を見やれば天を突くかの如く異様に伸びる森林の木々があり、木の実なんて取れそうも無い種類で、下を見やれば葉や枝だけで木の実らしいものは無い。

 ふと視界に何かが動いたような違和感があり、そちらに視線をやれば一メートル程の猪が居た。

 いや、アレを果たして猪と呼んでも良いのかノナメには分からない。

 なんせ、二足歩行しているのだから。

 見た目はノナメの知る猪であるが、二足歩行で木々にタックルする姿を見れば疑問に思う筈だ。

 だが、背に腹は変えられない。

 あの猪を狩り、近くの葉を集めて燻製に出来れば二、三日どころか二週間は持つ筈だ。

 ノナメは左手に杖を持ち替え、右手に鉈を持つ。

 ずっしりとした重さが命を頂く重さのように感じたが、生きたい一心で意を決する。

 乾坤一擲の大事、逃がしてはならない。

 ゆっくりと立ち上がり、尾行しながらノナメは猪の行動パターンを観察する。猪は近くの木にタックルをしては、別の木にタックルしているようで他の行動をしていない。


(マーキングにしては荒々しいなぁおい)


 狙うタイミングは木にタックルを仕掛けた時。

 木と鉈で猪を捉え、まな板で包丁を叩きつけるイメージで首を落とす。又は致命傷を首へと残し、弱る猪を仕留める。

 猪はマーキングタックルに夢中のようで木々に身を隠して近付くノナメに気が付いていない。

 ベタな展開をせぬように、仕掛ける地面を見て枯れ枝が無いか確かめ、タイミングを測る。

 杖を地面に置き、鉈の柄を両手で握り締める。

 

(命を頂きます。南無三ッ!!)


 タックル動作に出た瞬間に背後に飛び出し、猪が頭を木に当てた時を狙い、鉈を首へ叩きつける。

 骨を砕く感触が鉈から伝わり、猪は絶命の声を上げる暇無く即死し崩れ落ちる。刺さったままの鉈に引っ張られ、ノナメはよろけるが踏ん張り耐える。


「ハッ、ハッ、はぁぁ……。良かった成功した」


 初めてその手で動物の命を奪った事に罪悪感と達成感を感じる。

 ノナメは死に絶えた猪から鉈を抜き、血抜きをするため頭を下にして木の根に乗せる。

 おびただしい血の量に吐き気を催すが、命を奪った猪に失礼だと堪え忍ぶ。

 やがて、血の勢いが止まった猪を木の根から下ろして地面に寝転がした。


「……猪の解体なんざした事無いが、皮を剥ぐようにすりゃ良いのかな?」


 熊の毛皮を見た事があるノナメは仰向けにした猪の首を落とし、そこから胸から腹に沿って刃を入れる。

 血抜きで大分血が抜けているが残った部分から地面に流れ鉈の刃を濡らす。


「内臓系は腐りやすいからなぁ、保存は無理だな。調味料無いから臭みは取れそうに無いし、ごめんなさいして埋めよう」


 割いた腹から内臓系を全て取り出し、空けた穴にそれらを埋める。落とした頭で穴を塞ぐようにし、土を掛けてから葉を乗せた。

 数秒黙祷を捧げて、虫が寄らぬ内に解体を続けた。

 数分後にはできるだけ丁寧に剥いだ毛皮の中にブロック状の肉塊が完成し、血濡れの手に触れぬよう額の汗を拭う。

 

「何とかできたな。流石に量多いし、湧き水を使うかね」


 毛皮の四肢で縛るように封をしてから、杖を足で立たせて首に挟んで回収し、湧き水の出る場所まで戻る。

 そこは小さな崖になっており、半円形の崖先から地面に流れるように湧き水が出ている。

 一先ず杖を離し、手を洗う。毛皮の封を解き、肉塊を洗った大きな葉に乗せ、毛皮を洗う。

 地面に出来た真っ赤な水溜りに苦笑しながら、肉塊を洗い終えたノナメは湧き水の場所から少し離れた場所に陣取る。


「さぁて、燻製はどうやりゃ良いんだ? 煙で燻すつーのは分かるが……」


 ノナメは数分程葉や枝を集めながら考えた結果、掘り炬燵のように四角に地面を掘り、そこに木を差し込み吊らす形で肉塊を燻す事にした。

 日の当たる場所に今日は陣取り、肉塊を一度干してから燻す事にした。

 数時間かけて漸く準備が終わり、完成するのを待つだけだ。


「ふぅー……、やればできるもんだな。グロかったのは我慢だが、これで暫くは憂いが……って野菜が無いなー……」


 一難去ってまた一難という諺を思い出すノナメは丁度良い高さの木の根を枕にして寝転ぶ。燻す火は長く燃える材質らしい森の枝により暫くは手を加えずに入られるだろう。


「あー……、塩が欲しいなぁ……」


 どうせなら美味しく食べてやりたい。それに、美味い食事は活力に直結するのでやる気も出る。

 日が暮れる時間まで火を見たりぼんやりして過ごしたノナメは布に湧き水を含ませ体を拭く。

 風呂に入りたいがドラム缶も温泉も無い森では不可能だ。なら、清潔に保ちたい一心で体を拭くぐらいはしようと考えたのだ。

 幸いにも湧き水の近くで陣取ったので、一日振りの束の間の休息である。


「はー、冷たいがスッキリするな」


 革鎧の内側も念入りに掃除し、清潔に近付いた身なりに満足する。

 体を拭いている間に乾いた革鎧を装着し、布を綺麗に洗って絞る。汚れを落とせたと判断し、陣取る寝床へと戻る。

 外套を洗うのは乾かないという理由から後日にし、朝までは持つだろう枝の量をお手製燻製装置に焼べる。


「森の動物が居るって事は漸く人に会えそうだな」


 一日程湧き水の周りに陣取り、燻製肉を完成させてからの行動になるが、食糧難を回避したからか心の余裕が出来たノナメの表情は穏やかだった。

 布鞄から干し肉を取り出し、早めの夕飯を食べ終えたノナメは欠伸をして木の根を枕にし、外套を被って目を閉じた。

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