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ワールドリセット・リテイクライフ  作者: 不落八十八
一章ーークルルゥ村開拓記ーー
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一話「曖昧Me」

 この世界に価値はあるのだろうか。

 誰もが一度は気にしてみて、結局おざなりなオチを付ける話題だ。

 誰もが世界は変わらないと、今ある生活は不変的であると信じて止まない。

 けれど、こうとも思うのだ。

 こんな世界じゃない生活。

 ifにしか過ぎない世界に憧れを抱いて、口にし、広めて、本にし、絵にし、ネットの波に混ぜたのだ。

 仕事して、食べて、寝る。

 そんな生活が当たり前な青年の“当たり前”が崩れ去った。

 警告も兆候といった前触れもなく、無くなった。

 休日、クッキーを齧りながら携帯のアプリでリセットマラソンという作業をしていた筈だったのに、持っていた携帯は歪な木製の杖に変わり、つまらない芸人のバラエティ番組を垂れ流していた景色は草原に変わり、視界にチラつくはためく布切れはカットシャツではなく外套に変わっていた。


「……いやいや、無いわー」


 漫画やアニメやらゲーム等は嗜む程度には齧っていたし、ファンタジーや銃器とかには浪漫を感じていた。

 しかし、それは非現実だから楽しめるのであって、実際に実体化したモンスターと戦い、強敵と殺し合いたいわけじゃない。

 ーー世界はリセットされました。

 青年の頭にはそんな声が残っていて、その違和感の正体を掴むために、ネットで検索するが如く自身の記憶を確かめる。

 知らない声だが何故か頭に残って仕方が無い。

 結局、分からず仕舞いだった。

 

「リセットねぇ?」


 リセットというとデータを初期化する意味合いが強い。けれど、人生にリセットボタン、つまりはやり直しが効かないように、世界もリセットできない筈だ。

 初期化という意味合い以外には、やり直し、真っ新にするという単語が浮かび上がる。

 

「……世界はリテイクされましたってか?」


 無いわー、とは続けない。

 続けないのではなく、続けられない。

 なんせ、今の状況が既に可笑しいのだ。

 今見ているこれらがヴァーチャルな物であるならば、大型機に乗り込んだやらヘッドセットやらを付けた記憶がある筈だろう。

 しかし、その記憶は無い。自宅でリセットマラソン中だった筈だ。

 ゲームの世界に入ったようなヴァーチャルリアリティなシステムが開発されたなんてニュースも新作ハードも見覚えも無い。

 ならば何故、爽やかな風や森林の匂いを感じられるのだろう。

 

「……拉致? 独サラだし、狙い処には十分かもだが……」


 理由が分からないし、そもそもそんな記憶は無い。

 いきなり世界が一変したのだ。

 

「…………誰かテンプレ持って来い!?」


 ダラダラと流れる冷や汗が錯乱する青年の錯乱具合を物語り、脳裏に閃いた台詞を叫ぶ程に切迫詰まる状況だった。

 手に持つ杖を原っぱに放り投げ、その隣に青年は額に右手を当て左膝を曲げて座り込む。

 処理負荷気味の青年は数分唸り、辺りを見回しては溜息を吐き、最終的には思考を放棄し寝転がる。


「……転生でもなく、死にオンゲでもなく、召喚でもなく、後は……もういいや。諦めよ」


 残酷なまでに現実だ。

 その呟いた言葉で青年は頭を抱えた。

 誰に尋ねれば良いのかも、ここが何処なのかも、これからどうすれば良いのかも分からない。

 

「……世界はリセットされました、か。つーなると……、今はリセットされた直後なのか?」


 ふとしたきっかけや時間経過による精神のリバウンド、そのような状況ではないかと青年は考える。

 それならばこのファンタジーめいた格好や明らかに魔法使いが使うような杖を持っていても不思議ではない。

 加えて、遠くに見える森林が一瞬で生えて成長したとは考え辛い。

 ならば、精神的にも自分は“思い出した直後”であると考えた方が良い。

 杖の邪魔にならぬように右肩から左腰に掛けていたと思われる丈夫な布鞄を開き、中を確認する。

 そこには干し肉と竹筒の水が三日分、傷口にも当てて大丈夫そうな綺麗な布があるだけ。

 折角のファンタジーなのに出鼻を挫かれた気分だった。


「……まぁ、自給自足の旅人ってとこか。腰のベルトにある鉈はそういう事だろうし」


 無骨な雰囲気の鉈がベルトにぶら下がる皮のケースに納められている。今抜いてみても使い道は無いし、徒労に終わるだろう。

  青年は頭を掻きつつ、思案する。

 これからの方針的には、放浪の旅人となりこの世界の情報を得る事だろう。

 何事も情報が大事だ。

 今の青年には情報は何一つも無い、正にリセットされました状態である。

 独身生活イコール年齢である青年は幸いにも料理はできるし、裁縫も靴下の穴を塞ぐ程度にはできる。


「一先ず人に会わなきゃだな……」


 できれば気前の良い人物が好ましい。

 無い物強請りな希望的愚痴を吐いた青年は杖を持って立ち上がる。

 

「まぁ、新鮮で良いかもな。パソコンと携帯だけが友人とかアレだし、心機一転…………あれ?」


 自分の名前を叫び、頑張るぞ宣言するつもりだった青年はとんでもない事に気付いた。

 自分の名前が思い出せない。

 精神のリバウンドの副作用かもしれないと青年はやや冷静に事実を噛み締める。

 今更足りない事に嘆いても仕方が無いと悩むのを諦めて、精神的な重圧を減らしているのだ。

 

「……そうだなぁ。ありきたりな中二病ネームはアレだし、シンプルにNONANEから、ノナメにするか」


 ノナメがよく閲覧する掲示板サイトは匿名の名前「NONANE」というのが名前欄に常備されているので、よく目に付く名前だったのだ。

 ナナシでも良いが、シンプル過ぎ、というか直球過ぎて察せられ同情されるかもしれない。

 面倒事を事前に回避するのは近代日本人の美徳にして謙虚な表れだろうとノナメは勝手に結論付けた。


「まぁ、のらりくらりとおっかなびっくりな旅に出ますかね」


 魔法なんて使い方を知らないし、例え使えても何かあった際に責任が取れない。そんな理由からノナメは誰かに教わるまでは魔法については考えない事にした。

 路銀があるわけでも無い気ままな旅人。

 それがリセットされた世界でのノナメの肩書きだった。

 行く宛はないが、行ける場所は何処にでもある。

 冒険という浪漫溢れる行動に好奇心が追従する。

 楽しけりゃそれで良い程度の気持ちでノナメは歩き始めた。

 この世界でニホン大陸と呼ばれる東洋の果ての地を。

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