君たちを殺したのは誰?
S県のとある田舎町
’をとか’と言われる化け狸が昔から暮らしていた。
季節は初夏。
蝉達は大合唱は入道雲に吸い込まれて行く。
凹凸の田舎道を一台の軽トラックが道に車輪を取られつつ、ゆっくり前へ進んでいた。
僕はそのトラックの荷台に揺られながら、年子の従兄弟と乗り大きな網の上で作戦会議をしていた。
額にじっとりと浮かぶ汗は、子供の僕等にとっては嫌な物には感じなかった。
やがて軽トラックは大きな水路沿いの田んぼに止まる、叔母と叔父は大きな麦藁帽子と農作業の道具を持ち田んぼへ向う。
僕らは荷台から軽々と飛び降り、大きな網を引きずりながら用水路にその身を飛び込ませた。
この用水路は田んぼや畑に水を作るための人工的な水路で、時期となると地下水から毎秒大量の水が押し出され満ちていた。
人工といっても作りは古く、コンクリートには苔や水草が生い茂り水の生物も沢山暮らしていた。
幼子の僕らの腰程しかないその水路に僕と従兄弟は二手に分かれて、ある生き物を探す。
「’をとか’に化かされんな」
そう、叔母達の声に僕らは行儀の良い返事をするのだ。
僕らは水路で目を凝らし水面を見つめる。
ふと太陽に反射する美しい光が僕の目に飛び込む。
僕が大きな網をその光に投げようとした時だー
「あぁ!おいが見つけたのに!!」
網を投げると同時に、ばしゃばしゃと水辺を走る男の子。
いつの間にいたのだろう、青いTシャツと青い短パンの男の子。
年はちょうど同じ位だろうか?
「え?お前いついた?」
「さっきからいた!」
鼻息を粗くして、僕の前で偉そうに立つ。
従兄弟は少し遠くにいるので、僕達には気付いてないようだ。
「それより、さっきの’獲物’おいが見つけた!」
「あ、僕が捕まえたの!」
僕は盗られそうになった網を慌てて自分に引き寄せる。
中には小さな小魚が一匹。
それは僕が欲しいと獲物ではなかった。
男の子は文句を絶えず僕に抗議をしてくる。
僕はあまり聞かないふりをして、男の子に魚を渡す。
男の子は驚いたのか、慌てて魚を掴む。
魚は活きが良く、男の子の手から逃げ出そうと必死だ。
男の子は魚と僕を交互に見て、魚を逃げ出さない様に絞める。
「有り難うな!お前良い奴!彼奴の孫と思えないな!」
「ーえ?」
「お前は煙管を吸うなよ!!」
それだけ言うと男の子は用水路を出て、まるで風の様に消えて行った。
「おい!!鯉がそっち行ったぞ!!」
遠くから従兄弟の声がして、僕は慌てて網を広げて鯉を捕獲する。
これが僕の昔の思い出、それからあの子に会った事は一度も無い。
「煙管は吸うなか…」
煙草を初めて吸った時、フラッシュバックであの言葉が浮かぶ。
臆病者の僕は初めての煙草を肺まで入れられず、口で止める。
鼻孔から抜けるその香りに、思わずむせた。
「おい、無理すんなよ」
友人が僕の煙草を慌てて取り、自分の口で吹かし直す。
「確かに嫌いだな」
「はぁ?お前どうした?」
友人の問いかけに苦笑いしつつ、僕は空を仰いだ。
あの日と同じ夏の空、大人になって見るのは引かれた君たち。
「人間は業が深いね…」
それ以来僕は煙草を吸っていない。
どうでしたでしょうか?をとかとの話はかなりあるので少しづつ小出しにしたいです。
昔の人は特殊能力を持っていたようですね、僕の祖父は足の病気「魚の目、蛸」などを一瞬で治癒するという地味な能力で生計を立てていました(笑)