転移
「後退命令はまだなのか!?」「もう駄目だァ!!」
銃声や爆発音、ブースターが炎を吹く音が響き渡る。
美しい草原だった戦場には、草木が全くなくなり、巨大なクレーターだけが残っ
ている。
その中では、人の形をした鋼の巨人が飛び回り、銃撃戦を繰り広げていた。
「うぅ……」
戦闘が終わった数時間後、クレーターの中に一人の青年が横たわっていた。
外傷は全くないが、とてもだるそうに立ち上がると、2、3歩ふらついて転けてし
まった。
「痛ぇなぁ、何処だここ? って何だこりゃ!?」
青年は、周りが大量のロボットの残骸に囲まれていることに気付く。
「クッ、ぐああぁぁーッ!!」
突然、青年は途轍もない頭痛に襲われ、その場にうずくまった。
「まだ残党がいたのか! いまわしいヒューマンめ!」
うずくまっている青年の後ろから、突然怒号が飛んでくる。
しかし、頭痛で苦しんでいる青年には聞こえていないようだ。
「なんだこいつは……、マーザ大尉、こいつを搬送車に乗せてお。」
「はい、了解しました、ジェンター大佐」
マーザと呼ばれた緑迷彩色の軍服をきた金髪の女性は、部下を連れて青年を搬送
車に運ぼうとした。
「……ッ! 何だてめェ等、離せ!」
マーザの部下達に掴まれた青年は、抵抗するもあっさりと搬送車に連れていかれ
てしまった。
「それは本当なんだろうな?」
「本当なんです! 何も覚えてなくて、気づいたらあそこに!」
白塗りの壁の部屋に、机と二つの人影。
先ほどジェンターと呼ばれた大男と、捕らえられた青年だ。
「まぁいい、調べてやる、ついて来い」
「はぁ……」
マイトは、軍帽を外して一度茶髪の頭を掻くと、それを被り直して席を立ち、そ
れに青年もついていく。
青年が連れていかれた部屋には、椅子とよく分からない機械が置いてある。
部屋は明かりはついているが少し薄暗く、ネズミでも走っていそうな雰囲気である。
ジェンターは青年に椅子に腰掛けるように言い、腰掛けた青年を椅子に備え付けのベルトで固定した。
するとジェンターは、ガラスでしきられた隣の部屋に移動し、椅子に腰掛け、ヘッド
セットをつけ、机のうえのディスプレイを見始めた。
「よし、それじゃ始めるぞ」
「何をですか?」
「お前の素性が分からない以上、いきなり信じることなんか不可能だ、だからお前を嘘発見器にかけるんだ」
「わかりました……」
「じゃあ、我々に敵対するつもりはないんだな?」
「勿論です。」
椅子に取り付けられたスピーカーから聞こえるジェンターの声に一々怯えながら、青年は質問に返答していた。
「うむ……」
太い眉をしかめながら、ジェンターは唸る。
ジェンターが予想していた結果とは、まったく異なった結果が現れたからだ。
暫く画面を凝視した後、ジェンターはポケットから黒い機械を取り出し、それに向かって話し始めた。
しばらくして、通信機をポケットに入れたジェンターは、ガラスの扉を開けて青年に近づいていく。
「命拾いしたな」
「えっ?」
「ある意味では落としたのかもしれんが……」
ジェンターの意味深な発言と、皺の入った顔に、青年は思わず不安になる。
「な、なんでですか?」
「お前を……、俺達の軍隊に入れることになった」
少し間の後、思わず青年は声をあげた。
「えっ!? 軍隊ってどういうことなんですか!?」
「そうか……、お前は記憶がないんだったな、いいだろう、話してやる」
そういうと、ジェンターは、この星がいかな状況にあるかを、青年に語った。
「この星はな、元々は戦争なんかない、平和な世界だったんだ」
「元々は……?」
「そうだ、お前ら人間が、この星を、惑星トリニアを滅茶苦茶にしたんだ!」
青年は驚愕した。それと同時に、自分が連行されたおおよその理由が分かった。
人間と、この惑星の人々は、耳の形がぜんぜん違うのだ。
この惑星の人々の耳は、丸くなく、尖った耳をしていて、すぐに人間と見分けることができるからだ。
そして、人間である青年を、連行した。
「何億と言うエリファス達が殺された、友人も、父親も! たくさんの人々を! ……すまない、お前に罪は無かったな……」
事情を知った青年は、驚きとともに、人間に対して強い怒りを覚えた。エリファス達は何の罪もないだろう、と。
「いえ、いいんです」
「あぁ……、よし、じゃあ俺達の軍隊について話させてもらうがその前に……」
少し眉間に皺をよせ、ジェンターが言い放つ。
「君は、俺達と一緒に『人間』と戦ってくれるか?」
青年はハッとした。
自分は人間で、エリファスの敵なのだ。
人間がエリファスの味方をして、『人間』と戦うというのは、おかしい話だ。
ただ、そんなこと以上に、普通では感じないほどの怒りを青年は人間に感じていた。
「……勿論です」
「その言葉は本当に信じていいのか?」
「はい、よく分からないんですが、心の奥底から人間に怒りが沸いて来るんです」
青年は、その怒りがどことなく懐かしいような感覚を覚えていた。
「……分かった、ついて来てくれ」
そういうとジェンターは、薄暗い部屋の扉を開け、建物の中を進んで行った。
「すげぇ……」
通路の途中にある格納庫。
そこで、青年とジェンターは、巨大な鉄の巨人をならんで見ていた。
格納庫には、ジェンターが教えてくれた「インター」達が眠っている。
彼らは意思を持つロボットだ。魔法の力で意思を宿したと聞いた時は、青年はジョークだと思っていた。
「そういえば、インター達は単体で戦うんですか?そうだったら戦死者達もいないし……」
「いや、違う。魔法について詳しく説明していなかったな……、ついでに話しておこう」
そう、青年は魔法を知らない。魔法がいかなるもので、本当に存在しているのか、ということである。
「実際に目で見せるのが早いかもしれないんだが……、禁止事項でね。基地の中の一部は、魔法を出したら警報が鳴るようになっている、今回は口頭で説明させてもらおう」
「わかりました」
「魔法は、自然の力だ。体内に巡る気の力、魔力ともいうんだが、それを駆使して魔法は使える。そして、学び、練習すれば誰でも使える。多少の優劣はあるそうだが、使えない者はほとんど存在しないらしい、エリファスにはな……」
「えっ、じゃあ俺は……!」
「そうだ。君は今、いくら学んでも魔法は使えない。……ただ、多分心配しなくても大丈夫だ、先ほどインターたちについて話させてもらったが、彼らに命を吹き込む大魔法使い。彼らなら、魔法が使えない生物にも魔法の力を与えることができる」
「どうやってですか?」
「俺にもよく分からん……、ココだけの話なんだが、深い理論は俺も知らんのだ……。ただ、魔法が使えないエリファス達を、大魔法使いが使えるようにすると言うのを何度も聞いている」
「そこに行けば俺も……?」
「あぁ、多分な……」
そうは行ってみたものの、ジェンターは確信が持てなかった。
人間に魔法を与えた、などと言うことは今まで聞いたことがないのである。
なぜなら、エリファスが人間を引きこむなどと言うことは前代未聞なのだ。
総司令から、そう命令が出た時は悪い冗談だと思ったほどだ。
「……よし、そろそろ行こうか」
「分かりました」
格納庫で暫く足を止めていた二人は、目的地に向かって歩きはじめた。




