第7話『キャプテン失格と、女王の決断』
「もう、限界よ!」
声を張り上げたのは、現キャプテン・雨宮レイナだった。
放課後のミーティングルーム。女子サッカー部の空気は、重かった。レイナの視線はカリンに向けられている。
「あなたのその言い方、態度、命令口調……全部が、部の空気を壊してるのよ!」
「空気では勝てないわ。支配こそ秩序、秩序こそ勝利。そのためには、統率が必要」
カリンは涼しい顔で言い返す。その瞳に揺れはない。
「それが“暴力”だって言ってるのよ! 私たち、チームでしょう? あなたの独裁に付き合うつもりはないわ!」
「では──“勝利”で証明するわ」
カリンが立ち上がる。見下すような眼差しでレイナを見据えた。
「校内試合。あなたが選んだメンバーと、私のチーム。どちらが“この場を支配する”のにふさわしいか、はっきりさせましょう」
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翌日。グラウンドに二つのチームが並び立つ。
Aチーム、キャプテン・レイナ。経験者と安定志向の部員たち。
Bチーム、副キャプテン(仮)・カリン。ヒナ、ミオ、元気な1年生たち。
「こっちのメンツ、圧倒的に若手多いじゃん…!」
ミオが焦るも、カリンは冷静だった。
「いいえ。若さこそ、命令を染み込ませるには最適な土壌よ」
「怖いこと言うなぁ…!」
キックオフ。開始直後から、カリンの指示が飛ぶ。
「ヒナ、前線に展開。ミオはオーバーラップ! 左の子、裏を取って!」
その声は驚くほど明確で、冷静で、的確だった。
「…いつものカリンより、怖くない…」
「“支配”じゃなくて、導いてる…?」
Bチームは連携し、ラインを押し上げ、パスワークで崩す。対するAチームは連携にズレが生じ、守備で後手に回る。
そして前半終了間際。ヒナのスルーパスに走り込んだミオがシュート!
「入ったァァアーー!」
ベンチが沸く。レイナは唇を噛んだ。
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試合終了。スコアは2-0でBチームの勝利。
「……負けたわ」
レイナが汗を拭いながらつぶやく。
「私のほうが、“キャプテン失格”だったのかもね」
その言葉に、カリンは表情を崩す。
「支配とは、命令することじゃない。“勝利をもたらす空気”を作ること……私は、少しわかった気がする」
その日、顧問が下した決定は明快だった。
新キャプテン──如月ヒナ。
副キャプテン──黒江カリン。
「任せるわよ、女王様」
ヒナが笑いながら言うと、カリンも少しだけ微笑んだ。
「ええ。“秩序”は、あなたに預けるわ。私は、勝つための“指揮”をとる」
小さな革命は、今、始まったばかりだった。