第5話『逆調教!?ドMゴールキーパーの逆襲』
「本日は、近隣の名門・私立三ヶ丘学院との練習試合を行います!」
顧問の声が響くなか、女子サッカー部の面々はざわついていた。
三ヶ丘学院は関東ベスト8の実力校。うちみたいな出来立てチームが相手にされるのは奇跡だ。
「気を引き締めていこう。今日は実力の差を思い知るかもしれないけど、それも経験だ」
キャプテンの言葉に、カリンはニヤリと笑った。
「私にとっては、格下であろうと格上であろうと“支配する対象”にすぎないわ」
*
ピッチに立つカリンの目に、相手GKが映る。
身長180cmはあろうかという長身の美少女──だが、なぜかユニフォームの襟を少し引っ張って、首を赤らめていた。
「へへ……今日こそ、噂の“あの人”に蹴られる……ッ!」
「……は?」
*
試合開始。
前半10分、カリンがロングシュートを放つ!
「喰らいなさい、球体豚野郎の一撃ッ!!」
ズドン!
──が、ゴールポストすれすれで弾かれる!
「ふひっ……いい、いいッ! その罵り、もっとちょうだいぃぃぃ!!」
「……こいつ、悦んでるッ!?」
ゴール裏から、相手GKがとろけたような表情で叫んでいた。
「もっと強く!もっと乱暴にボールを蹴ってぇぇ!
お姉様の命令なら、私はいつでも喜んで受け止めますぅぅ!」
女子サッカー部全員が、固まった。
「ドMすぎてボールも引いてるわよ……」
「なにこの人……」
「てか三ヶ丘って、強豪だよね!?」
相手の監督が頭を抱えていた。
*
その後もシュートはことごとくセーブされる。
強烈なボールをぶつけても、
「ふふっ、まだまだぁッ!もっと罵ってぇぇ!!」
と全身で受け止めにくる始末。
「くっ……“支配”できない……このゴールだけは……ッ!」
歯を食いしばるカリン。
その姿を見て、ヒナが囁いた。
「カリン。あの人、君の言葉に“支配されてる”んじゃなくて“依存”してるんだよ」
「……!」
「支配とは、状況をコントロールすること。なら、あの人の性癖も含めて──制御しなきゃ」
カリンは目を閉じ、一つ深呼吸をした。
「……わかった。命令の出し方を変えるわ」
*
後半。
カリンは叫ばない。ただ、淡々とボールを回す。
「ミオ、ここ」
「ヒナ、落として」
静かで、正確な指示。まるで舞台の演出家のように──すべてを掌の上で動かしていく。
敵GK「……あれ?なんで?罵ってくれないの?」
戸惑うGK。混乱したままの隙をついて──
ヒナ→カリン→ミオ! 最後のパスが走る!
ミオのシュート!
「決めたァァァァァ!!」
ようやくネットが揺れた。
「……勝った……」
「いや、カリン。顔……なんかめっちゃ悔しそう」
「支配……はした。だが、なんというか……満たされない」
「わかる……」
部員たちはうなずいた。
今日の試合は、確かに勝った。戦術的にも、連携的にも、収穫が多い。
──だが、あのドMゴールキーパーの満足そうな顔を見て、なぜか“敗北感”だけが残った。
*
試合後。
相手GKがカリンに近づく。
「次の試合も、お願いします……今度はもっと、優しく叱って♡」
「……この女、真性だわ」
ボールより重いため息が、グラウンドに落ちた。