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第1話『球体豚野郎との邂逅』

転校初日。

整列したクラスメイトたちの視線を、黒江カリンは軽く受け流していた。制服はきちんと着こなしているが、その立ち居振る舞いには妙な品格と圧がある。背筋はまっすぐ、言葉は丁寧──だが、どこか上から目線。


「黒江カリンです。どうぞ、よろしくお願いします……下僕の皆様」


「ん? 今、下僕って言った?」

「いやいや、聞き間違いでしょ……たぶん」


ざわつく教室。

だが、カリン本人は気にしていない。むしろ堂々としていた。

育ての親であり、女王様として名を馳せる麗奈のもとで鍛えられた彼女にとって、自己紹介もひとつの“支配行動”だった。



午後、体育の授業。種目はサッカー。

だが、カリンは見学希望を出していた。


「理由は?」と教師に聞かれ、「……支配するにはまず観察からです」と意味不明な返答をしていたが、体育教師は何かを察して深追いしなかった。


生徒たちが校庭を走り、ボールを追いかける姿を、カリンは無表情に見つめていた。

ふいに、一つのボールがコロコロと転がってきた。


──それは、ただの偶然。

でも、彼女には“挑発”に見えた。


カリンはゆっくりと立ち上がり、足元の球体を見下ろした。


「……ふふ。転がることしかできないなんて、まさに──球体豚野郎ね」


周囲の空気が凍る前に、カリンはおもいっきり蹴った。


ドッッッ!!


乾いた衝撃音。

ボールは空気を切り裂き、ゴールポストに直撃──鉄柱ごとズレた。


「え……えええええええっ!?」

「なにあのキック!?」

「ゴール歪んだぞ!?」


一瞬、体育の授業が止まった。唖然とするクラスメイト。叫ぶ教師。

その光景の中で、ただ一人、冷静だったのは……女子サッカー部のコーチだった。


「……君、ちょっと話がある」



「サッカー部に、入ってみないか?」


放課後、体育準備室。

そう持ちかけられたカリンは、椅子に優雅に腰掛けたまま、紅茶を飲んでいた(なぜか持参していた)。


「その申し出は魅力的ですわ。ですが、私が入るには条件があります」


「条件?」


「この部を……私の手で支配しても、よろしいかしら?」


コーチはポカンと口を開け、沈黙した。

だが、彼女の眼差しには冗談の気配がまるでない。


「……よくわからないけど、とりあえず入部希望ってことでいいか?」


「はい、承認しますわ」



その夜、自宅──いや、SM倶楽部『女神の檻』のVIPルーム。

黒革のソファに座る麗奈が、カリンの報告を聞いていた。


「ふふふ……サッカー、ねえ。あなたが球遊びに本気になる日が来るなんて」


「支配の対象は、常に変化するもの。今は、あのボールとチームを、従わせてみたくなっただけです」


「……いい目になったじゃない」


麗奈はそう言って、カリンの頭を優しく撫でた。

女王様の愛情は、案外、温かい。


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