8 この世界の真実2
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「……“魔法の制限”と“大陸の分断”。これらを実行するために、3大国の王たちは選りすぐりの魔法使いたちを招集した。彼らは“賢者たち”と呼ばれ、当時の人類の叡智を象徴する存在だった。」
マギステル=オルドの声には、どこか懐かしさを含んだ響きがあった。
「彼らはまず、魔法に関するあらゆる書物や道具を回収することから始めた。軍を動員し、世界中の町や村に足を踏み入れ、魔法に関係するものを根こそぎ集めていった。
“魔法災害の原因となる禁呪が民間に流通している。これを放置すれば今よりも悲惨な状況を招く。”
……などと言ってな。
紛争で疲弊していた民にとって、”今よりも悲惨な状況”という文言は恐ろしいほど効果的だったようで、ほとんどの民は自ら進んで書物や道具を差し出したらしい。魔法の知の一掃は比較的簡単に終わったと聞いている。」
ヴィクトルは小さく息を呑んだ。
「次に彼らが行ったのは、人々の“魔法能力”そのものの封印だった。
全人類に向けて、2つの巨大な魔法が施された。1つは、“記憶改変魔法”。過去に魔法を使っていた記憶を、人々から完全に消し去る魔法だ。
そしてもう1つは、“遺伝式の魔力封印魔法”。血筋に作用し、子から孫へ、そしてその先へと魔力の封印が受け継がれるよう設計された極めて強力な魔法だった。」
「それを、全人類に……?」
「そうだ、3大国の王と賢者たちを除いた全ての人類にな。
人々は気づかぬうちに魔力を封じられ、魔法の記憶を失った。かつて自らの手にあった力を、誰も思い出せなくなったのだ。
その結果どうなったか……それは、また後で語るとしよう。」
オルドはゆっくりと呼吸を整えた。
「さて、次に賢者たちは貴族やその護衛たちのみ魔力の封印を一部解除する仕組みづくりに取り掛かった。
そこで生み出された存在こそが、この私だ。」
ヴィクトルは絶句していた。先ほどから驚きの連続である。
(全人類に魔法をかける? 人格を持つ存在を魔法で造る?)
まるで神話のようなめちゃくちゃな話だ。しかし、この空間の存在そのものが、すでに常識の外にある。
オルドはヴィクトルの驚いた様子に気づきながらも、さらに説明を続けた。
「私の役割は、魔力封印の管理だった。貴族や、その配下の騎士、護衛たちが訪れたときに、彼らの系譜を確認し、封印を部分的に緩める。それも、火、水、木のいずれかに限定するように調整してな。
これにより、各々の得意な属性が異なる3大国ができあがっていったのだ。
これにて三すくみ構造は出来上がるわけだが、賢者たちは最後に大陸ごと3大国を分断することで、より三すくみ構造を明確にしようとした。」
オルドの右手が虚空をなぞると、渦巻く幻影が3つの大陸に割れ、それぞれに国家が配置される様が現れた。
「賢者たちは、巨大な地殻変動を誘導し、海流と気候を操り、かつて1つだった大地を3つに分けた。もちろん、人々を地殻変動に巻き込まないよう、細心の注意を払ってな。
これは、紛争に明け暮れていた人々を一致団結させる効果もあったと聞いている。なにせ、気候が荒れ、地殻変動が起き、大地が動けば、紛争どころではないからな。
……これで現在の三すくみ構造が出来上がったというわけだ。」
ヴィクトルは、もはや驚くのをやめ、呼吸を整えて、冷静に確認した。
「やはり……三すくみ構造は、人工的に作られたものだったのですね。」
「そうだ。人は、過剰な力を得ると争いを選ぶ。ならば、力を持つ者の数を減らせばよい、そして力を持つ者同士は互いに牽制させればよい。
それが、彼らの結論だった。全ては、人類が些細な理由で殺し合うことなく、穏やかに暮らせるように、と願ってのことだった。
だが……」
ヴィクトルは、オルドの様子から話の続きをを察した。
「……奴隷、ですね…?」