20 奴隷の少女4
「私の名前はヴィクトル。ライヒベルク領の領主、レオンハルト・フォン・ライヒベルクの息子だ。隣にいるのは、うちの使用人のヨハン。私が最も信頼を置いている人の1人だ。」
ヨハンは深く頭を下げる。
少女は、大貴族が目の前にいることを知って、さらに緊張が増したようだった。
その様子に気づいたヴィクトルは、これ以上怖がらせないように、優しく言った。
「私が貴族であることは気にしなくていいよ。例えば、失礼なことを言えば罰を与えるとか、そういうことは私たちは絶対にしないから安心してほしい。
……だから、今から色々お話をするけど、正直な気持ちを教えてくれる?」
少女は小さく頷いた。
「まず、君の名前は何ていうの?」
少女は首を横に振って、ぽつりと答えた。
「……奴隷商会のフォルカス様が言ってました。奴隷は、買われたときにご主人様から、数字とか記号で名前をつけられるって。
……だから、元々名前があったとしても、それは捨てろって……」
ヴィクトルは、この世界の奴隷制度に改めて怒りを覚えたが、目の前の少女に恐怖を与えないよう、その感情を押し殺した。
「君は……生まれたときから奴隷だったのかい?」
ヴィクトルの問いかけに、少女は小さく首を振った。
「……違う。村に……盗賊が来て……。大人は、殺されて……子どもは、みんな攫われた……」
唇がかすかに震え、声が詰まった。
「……そうなんだね……辛いことを思い出させてしまってごめん……
でも、生まれたときは奴隷じゃなかったのなら、昔呼ばれてた名前があると思うんだ。
もし、よかったら……教えてほしいな。」
少女は迷うように視線を泳がせていたが、やがて、ほんの少しだけ口元を動かした。
「……フィオナ」
ヴィクトルは優しく微笑みながら確認する。
「フィオナ。素敵な名前だね。
……私たちも、これからフィオナって呼んでいいかな。」
ヴィクトルの笑顔に、少女ーーフィオナは目を見開いた。数字や記号ではなく、両親からもらった名前で呼ばれたことに、驚いたような表情をした。
長く張り詰めていた緊張が、わずかに緩んだように見える。
「フィオナ……がいい。」
「分かった。これからよろしく、フィオナ。」
その一言に、フィオナは小さく頷いた。
「……さて、フィオナ。昨日も言ったけど、私たちは君を奴隷として酷使しようなんて、全く考えていない。フィオナは、もう奴隷なんかじゃない。
これから何をするかは、君の自由だよ。」
言いながら、ヴィクトルはフィオナの表情をじっと見つめた。少し困惑しているような、そんな目だった。
ヴィクトルは続けた。
「……でも、“自由になったから好きに生きろ”って突然言われても、戸惑うよね。
だから、2つの選択肢を用意してみた。よかったら、聞いてくれるかな?」
フィオナは頷いた。
「1つ目は、町の孤児院にフィオナを連れて行くこと。私やヨハンがうまく経歴を考えてあげるから、元奴隷だってことは誰にも知られずに済む。ちゃんと食べて、寝て、勉強もできる。きっと他の子どもたちと共に穏やかに暮らせるよ。」
フィオナはそっとヴィクトルを見上げた。興味はあるようだったが、迷いも見える。
「2つ目は……私を手伝うこと。私は、この世界から奴隷制度をなくしたいと思ってる。それを、共に成し遂げる。
だけど……正直これはとても大変な道になると思う。敵も多いし、世間の常識を否定するような行いになる。」
ヴィクトルの目は真剣だった。その視線に、フィオナも自然と真剣な顔になる。
「それに……この選択肢を選んだら、フィオナにはこの森で生活してもらうことになってしまう。うちの屋敷に連れて行けば、父上と母上はきっとフィオナを孤児院に連れて行くだろうからね。」
そこまで言って、ヴィクトルはにっこりと笑って見せた。
「さあ、どっちがいい?
正直に言ってくれて構わないよ。」
間髪入れず、フィオナは声を上げた。
「ヴィクトル様を手伝う!」
お読みいただき、誠にありがとうございます。
遅くなりましたが、書き上げられましたので投稿します!
引き続き、お読みいただけると嬉しいです!




