17 奴隷の少女1
石畳の通りを行き交う人々の間を抜け、ヴィクトルとヨハンはゆっくりと歩いていた。
「あれが……奴隷……」
通りの角で、果物屋の荷車を押していた少年がいた。痩せ細った体、無表情な目。店主に怒鳴られても反応ひとつ見せず、ただ力なくうなずき、手を動かし続けていた。
「そうですね。あの子も、間違いなく。」
「そっか……」
建設現場でも奴隷たちが働いていた。日よけもない場所で、男も女も、痩せ細った体で黙々と石を運び、地面を掘っていた。
「ヨハン、これが普通……なんだよね?」
「……ええ、日常の光景ですね。」
ヴィクトルは唇をかみしめた。
さらに進むと、やがて一軒の建物の前にたどり着いた。
《フォルカス奴隷商会》
「入ろう。」
「……ええ。しかし……見学だけですよ?」
「わかってるよ……」
中に入ると、すぐに異様な空気に包まれた。におい。湿気。静けさ。人がいるのに、まるで声がない。
床板のきしみだけが響き渡っていた。
奴隷たちは鉄格子の中に収められていた。大人もいれば、少年少女もいた。だが、どの顔にも生気というものがなかった。
「どうぞご覧くださいませ、お客様。何かお探しの条件があれば」
商会の男が声をかけてきたが、ヴィクトルは答えず、黙って奥へ進んだ。
角の暗がりに、ある少女を見つけた。その少女は格子の奥で倒れ込みながら、ただじっとしていた。
6〜7歳だろうか。自分と同じくらいの年齢だ。痩せ細り、髪は乾いた草のように乱れていた。肌は青白く、傷だらけで、まぶたの下に濃い影が浮かんでいる。
彼女は、明らかに他の奴隷たちより弱っていた。
ヴィクトルはもう我慢ができなかった。商会の男に問いかける。
「……この子、売り物?」
「ええ、そうです。しかし、見ての通り状態がよくありません。それゆえ、他の奴隷よりお値打ちとなっております。」
「この子……買うよ。」
背後で、ヨハンが明らかに動揺する気配があった。
「な、何を……!
こんな貧弱な小娘、何の役にも立たない。そもそも今日は見るだけだと!」
ヨハンは咄嗟にヴィクトルを止めた。その声は抑えきれない焦りを帯びていた。
しかし、ヴィクトルは引かなかった。
「わかってる。でも、こんなに安いのなら、少し治療したあとで働かせれば、すぐに元は取れるだろ?」
言いながら胸の奥が痛んだ。商会の男の手前、そんな言い方しかできない自分が、情けなかった。
「だが、治療にも費用がかかるし、もし回復せず死んでしまったらーー」
ヨハンもまた、引かなかった。ただでさえ秘密裏に森を抜け出して他の領地に来ているのだ。奴隷を連れ帰るなどという決断ができるはずもなかった。
「その点はご安心ください!」
奴隷商人が乗ってきた。
「こちらとしても、死なれては処分費がかかるばかり。引き取っていただけるのなら、さらにお安くしましょう。
お客様のおっしゃる通り、商品としての価値は確かに下がっていますが、若いのできっとすぐに回復しますよ。」
ヴィクトルがさらに追い打ちをかける。
「ね、乗らない手はないよ。さらに安くしてくれるなら、万が一死んでしまっても、大した損にはならない。」
ヨハンは黙って肩を落とした。そして、静かにうなずいた。
「……わかった。買おう。」
契約はすぐに済んだ。ヨハンが手続きを進める間、ヴィクトルはずっと少女を見ていた。彼女は、ただ虚ろな目で、彼を見つめていた。
手続きが終わり、柵が開けられた。
ヴィクトルは一歩前に出て、少女に言った。
「お前、歩けるか? ……さっさと来い。」
震える声を押し殺し、できるだけ冷たく、突き放すように言葉を絞り出した。
彼女は何とか立ち上がり、ついてきた。
背後で、小さな足音がよろよろと続いてきた。崩れそうな呼吸、地をこするような足取り。
奴隷商人はヴィクトルとヨハンに購入の礼を告げたのち、確認した。
「して、足枷と首輪、どちらになさいますか?」
ヴィクトルは、言葉が喉の奥で止まった。これ以上は演技ができそうになかった。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
平日ですが、書き上げることができましたので投稿します!




