15 ヨハンとの約束
「ヨハン、見ていてくれ。」
その言葉と同時に、ヴィクトルは両手を前に掲げた。
地面がわずかに隆起する。
次の瞬間、ヴィクトルの目の前に、すっと1本の若木が芽吹き、みるみるうちに成長していった。あっという間に人の背丈を越え、しっかりと根を張った木となった。
背後で、ヨハンが思わず息を呑む気配があった。
「……木を生やすなんて、初級を超えておられる……まだ6歳にして……」
「もう少し、見ていてほしい。」
ヴィクトルは、その木に向かって左手をかざした。
ヴィクトルが再び魔力を集中させると、木が根ごと持ち上がり、ふわりと浮かび上がった。風魔法の力だ。
「う、浮いている……!」
ヨハンの動揺をよそに、ヴィクトルは右手の指を、宙に向かって何度か払う。
宙に浮いたままの木が、目に見えぬ刃で次々に切断されていく。幹も枝も、葉も、まるで見えない刃物によって次々に刻まれていく。
切り刻まれた木片が宙に舞い、バラバラと散らばる。
だがそれで終わりではなかった。
ヴィクトルが指先に力を込めると、漂う木片の一つひとつに魔力が注がれ、やがてそれらが赤々と輝きはじめた。瞬間、空気が熱を帯び、パッと火花が走る。炎が生まれ、舞う木片を次々に飲み込んでいく。
その火の粉が風に乗り、周囲の草木へと飛び火しそうになる。
だが、その前にヴィクトルは即座に次の魔法を放った。
今度は水だった。ヴィクトルの両手から放たれた水の流れが、まるで意思を持ったかのように、正確に炎へと向かって飛び、包み込んでいく。水と炎が激しくぶつかり合い、ジュウという音とともに蒸気が立ち上る。
すべての火は消された。
後には、ただ水で濡れた焦げ跡が残るのみだった。
あまりの光景に、ヨハンは言葉を失い、その場に立ち尽くしていた。
ヴィクトルは額の汗を拭きながら、振り返った。
「これが今の私の力なんだ。」
その声は、誇りや得意気といったものではなく、ただ事実を伝えるように、静かだった。
「……これは……ヴィクトル様……あなたは一体……」
「詳しいことを説明するのは、もう少し力をつけてからにしたい……
その時が来たら、父上と母上にも話すつもりだから……ヨハンもそのとき一緒に聞いていてほしいいんだ。」
ヴィクトルの目は真っ直ぐで、揺るぎがなかった。
「ただ、何も言わないのも何が何だか分からないと思うから、言える範囲で説明すると……マギステル=オルド氏と対話したときに、特別に他の属性の力も授けてもらったんだ……」
「オ、オルド氏がですか…… なるほど……
……では、経緯の詳しい部分はのちにお聞きできるものとして、これからはどうされるのでしょうか。ヴィクトル様はそのお力を磨かれて、何にお使いになられるおつもりなのでしょうか。」
ヴィクトルは草の上に腰を下ろすと、手のひらで土を優しく撫でた。
「……私はね、この力を正しく使って、奴隷制度をこの世界から無くしたいと思ってるんだ。」
ヨハンの目が大きく開かれる。
「だからさっき、父上も母上もヨハンも奴隷制度を反対しているのだと知って……心から嬉しかったよ。父上にも母上にもヨハンにも協力してもらって、みんなで進めていこうって思えた。」
「……そうだったのですね。」
ヨハンは真剣な眼差しでヴィクトルを見つめた。
「さすが、レオンハルト様とクラリッサ様のご子息です。
……して、ヴィクトル様はどのような策をもって、奴隷制度を撤廃させるおつもりなのですか?」
ヴィクトルは首を横に振った。
「……それも……まだ、言えないんだ。というより、話しても理解してもらうのが難しいと思う。
だから……もう少し待っててほしい。勝手なことを言って申し訳ないけど、ヨハンには、これから自由に魔法の練習をする私のことを、他の人に黙っててほしいんだ。」
「……秘密を守れということですね?」
「うん。きっといつか、すべてを話せる時が来るから。その時まで……お願い。」
ヨハンは、しばし黙したまま目を閉じ、深く息を吐いた。
そして、静かに目を開けると、穏やかな声で答えた。
「……分かりました。ヴィクトル様がどのような策で奴隷制度を撤廃されようとしているのか、想像もつきませんが……私は、ヴィクトル様を信じることとしますよ。」
ヴィクトルの口元に、安堵の笑みが浮かんだ。
「ありがとう、ヨハン。」
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