14 ヨハンとの対話2
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「奴隷……ですか? また随分と話が変わりましたね。」
ヨハンは少しだけ目を細めて微笑んだが、その奥にある瞳は静かにこちらを見据えていた。
「質問を返してしまうようで恐縮ですが、ヴィクトル様は、私がなぜライヒベルク家に仕えているかご存知ですか?」
「……知らない。」
ヨハンは小さくうなずき、少し声を落として続けた。
「私は、レオンハルト様、クラリッサ様の奴隷に対するお考えに深く賛同して、ライヒベルク家にお仕えしているのです。」
「父上と母上?」
思わず問い返してしまう。父も母も、確かに慈愛深い人柄ではあるが、奴隷制度について語られたことは一度もなかった。
「そうです。お二人は、“同じ人間同士に上も下もない”というお考えをお持ちなのです。“組織の円滑な運営のため、役割としての上下は必要であったとしても、身分としての上下など必要ない”と。
……そのような信念から、奴隷制度に強く反対されているのです。」
ヴィクトルは言葉を失った。心のどこかで、両親が他の貴族と違うとは思っていた。だが、そこまでの信念を持っていたとは知らなかった。
「でも、それって……」
「ええ。その通りです。この思想は、奴隷どころか、貴族も不要だという話になります。しかし、そのような考えが他の貴族たちに受け入れられるはずがありません。レオンハルト様もクラリッサ様も、さすがに身分制度全体の撤廃は……諦めざるを得なかったようです。
ただ、それでも奴隷制度だけは何としてもなくしたいと、今も奮闘されているのです。」
ヴィクトルは、両親のことを改めて心より尊敬した。
「それで、これまでに何か成果とか進展とか……あるの?」
「もちろんです。お気づきかもしれませんが、このライヒベルク領には、奴隷が1人もおりません。」
「えっ……?」
思わず声が漏れた。信じられない。
(だが確かに、これまで何度か町へ出たことはあるものの、奴隷を目にした覚えはない。てっきり自分が貴族の子どもだからと、周囲が意図的に見せないようにしていたのだと思っていたが、まさか、そもそも奴隷が存在していなかったとは……)
「今から約15年前、アーベント国王の許可を得て、ライヒベルク領では奴隷を禁じる法が敷かれました。以来、新たに奴隷を購入することも、所有することも一切禁じられています。」
ヴィクトルは息を呑んだ。そんな重大な事実を、自分はまったく知らなかった。
「教えてくれて……ありがとう。」
「ご存じなかったのですね。失礼いたしました。それでしたら、この話の続きをいたしましょうか?」
「……続き? ぜひ聞きたい!」
「はい。……奴隷を禁止した結果、ライヒベルク領はこの15年で急速に弱体化してしまったのです。
奴隷という極めて安価な労働力が使えないため、生産も交易も他の領地に比べて圧倒的に効率が悪く、常に経済的に不利な立場に置かれております。領民の生活も、以前に比べて質素になりました。」
ヨハンは一拍置いて、話を続けた。
「それでも、領民の中に不満を口にする者はいません。それはひとえに、レオンハルト様、クラリッサ様の人格と、誠実な姿勢があってこそです。
領民は皆、自分の生活が質素になっても、あのお二人のもとにいたいと思っているのです。」
ヴィクトルは、町で見た光景を思い出した。人々が父と母に向ける、あの温かく敬意に満ちた眼差し。誇りと信頼に満ちた空気。あれが、すべての答えだったのかもしれない。
ヨハンは、静かに言葉を継いだ。
「もちろん、私もその1人です。……すでに亡くなっていますが、私の両親は他の領地の奴隷でした。ですから、奴隷制度を否定するお二人に出会えたことは、まさに人生の転機だったのです。
私は、命ある限り、ライヒベルク家にお仕えするつもりです。」
ヴィクトルは目を見開いた。ヨハンの両親が奴隷だったーーそれは、想像すらしたことのない過去だった。
「……ヨハンときちんと話してみて、ヨハンのことが少し分かった気がするよ。ありがとう。
それから……こんな子どもでも、子ども扱いせず色々話してくれてありがとう。」
ヨハンは小さく笑った。
「確かにそうですね。ヴィクトル様が6歳であることを考えると、通常はこのような話をまだするべきではないですね。
ヴィクトル様があまりにも大人びておられるので、つい。」
ヴィクトルは深く息を吸い、そして決意を込めて立ち上がった。
「よし……私はヨハンを信じることにした!
…….今からの私の言動は、他言無用で頼む。父上と母上にも秘密にしたい。」
真剣な眼差しをヨハンに向けながら、ヴィクトルは両手を胸元に重ね、魔力の流れを整え始めた。
「……ヴィクトル様?」




