13 ヨハンとの対話1
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森へ通えるようになったが、ヴィクトルの足取りは重たかった。
屋敷の使用人であり、ヴィクトルの専属の世話係でもあるヨハンは、森に入るとまるで狩人のような鋭い視線で周囲を見回し、常にヴィクトルのそばを離れようとしなかった。危険がないか、足元は安全か、視界の先に何か異変はないかーーすべてを見張っている。
(これじゃあ、意味がない……)
自室での深夜の訓練のほうが、よほど自由だった。人目がないぶん、本気の魔法を扱える。
だが、それでも毎日森に通っていた。せっかく父から贈られた誕生日プレゼントだ。何の報告もせず行かないままでいればバツが悪い。
ヴィクトルは毎日決まった時間に森へ足を運び、初歩的な木魔法の練習だけをこなしていた。
とはいえ、そんな「形だけ」の日々も、長くは続かなかった。
(もう……限界だ!)
森に通い始めて、10日が過ぎたある午後。
森の中の少し開けた一角で、ヴィクトルは木の根元に腰を下ろしていた。陽射しは穏やかで、鳥のさえずりが遠くで響いている。そのすぐ傍には、立ったまま見張っているヨハンの姿。
ヴィクトルはふと、何気ない調子で口を開いた。
「ねえ、ヨハン。少し質問をしてもいい?」
「なんでしょう、ヴィクトル様。」
「ヨハンは、父上と私の命令が相反していたとき……どちらに従う?」
するとヨハンは、少しだけ笑って肩をすくめた。
「それは、なんとも意地悪な質問ですね、ヴィクトル様。
そうですね……その場合は、双方に命令が相反していることをお伝えして、双方で話し合っていただくことにしますかね。」
「それはずるい!」
「……しかし、使用人はみなそのように対応すると思いますよ?」
「じゃあ、もし……双方に相談することができない状況だったら?」
「といいますと?」
「例えば、あることについて、父上は“報告しろ”と命じていて、私は“秘密にしておいてほしい”ってお願いした場合とか。」
ヨハンは腕を組んだまま、やや遠くを見るような目つきになった。すぐには答えず、少し間を置いてから、ゆっくり口を開いた。
「なるほど、それは……悩みますね。私はヴィクトル様にお仕えしている身ですので、その意味ではヴィクトル様に従うべきでしょう。しかしそのヴィクトル様は、レオンハルト様の保護下にある。さらに、そもそも私がヴィクトル様にお仕えしているのは、レオンハルト様の命令によるもの。そういった意味では、私はレオンハルト様の命令に従うべきなのでしょうね。」
ヴィクトルは無言のまま、じっとその返答を聞いていた。
ヨハンは続けた。
「その場合は、ヴィクトル様に“なぜ秘密にしておいてほしいのか”をお尋ねすると思います。その理由を聞いたうえで、判断を下すでしょう。」
「なるほど……」
ヨハンはただ命令に従うだけの人間ではない。自分の中にちゃんと判断の軸を持ち、状況によっては柔軟に対応することができる人間だ。
ヴィクトルの中でヨハンへの信頼度が上がった。だからこそ、もう1つだけ、問いかけてみたくなった。
「では、話を変えるけど……ヨハンは、奴隷についてどう思う?」
ヨハンの眉が、ほんのわずかに動いた。
「……奴隷、ですか?」




