10 ヴィクトルの覚悟
お読みいただき、誠にありがとうございます。
作り溜めていたものが減ってきたことと、明日からの仕事が少し忙しくなるため、毎日更新が難しくなると思います。大変申し訳ございません。
執筆は続けていきますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。
ヴィクトルは、深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。思考のすべてを整理し、覚悟を固めるように。
「私は常々、制度を変えられるような偉い立場になったら世の中を良くしていきたいと考えておりました。そして今、良くしたいと思う世界が目の前にある。
幸いなことに魔法も授けていただけました。世界の真実を知ることもできました。
……であれば、私が、私こそが世界を造り直すために動き出すべきです。」
「ふむ、なるほどな……。覚悟は立派であるが、何か考えはあるのか?」
「はい、1つだけ、この状況を打開する方法を思いつきました。」
「……ほう、聞こうではないか。」
ヴィクトルは小さく頷くと、静かに口を開いた。
* * *
「……以上が、私の考えた方法です。」
「……なんと、大胆な……! それは再び世界を造り変えるということに等しいではないか……」
「はい。ですが、この作戦が上手くいけば世界は今より格段に良くなると思います。」
ヴィクトルの声には揺るぎがなかった。その言葉は、他でもない彼自身に向けた誓いのように響いた。
長い沈黙が流れる。やがてオルドもまた、覚悟を決めたように口を開いた。
「……分かった。お主を信じてみることにしよう。」
「ありがとうございます! 私の人生をかけて、必ずや遂行させてみせます。」
「では、私はその作戦の成功率を少しでも上げてやるとするかの。」
オルドはヴィクトルに向けて、手をかざした。
荘厳な光がヴィクトルを包み、体の奥底から何かが目覚めるような感覚が押し寄せる。思わず声を失い、膝をついた。だが痛みはなかった。恐怖もなかった。
(これは一体……)
「魔力の封印を完全に解き放った。これで鍛錬次第で木魔法以外にも多くの魔法を使えるようになるだろう。
そしてもう1つ、私からのプレゼントとして、"魔力の目覚め"を授けてやった。これでお主が魔力を目覚めさせたいと思った人物の魔力封印を解除できる。
……お主なら、上手く扱うことを信じておるぞ。」
ヴィクトルは目を見開いた。
「……ありがとうございます!」
「礼には及ばん。お主が語った理想、それは並の人間には到底成しえぬこと。ならば、並であってはならん。
……私は、お主に未来を託す。頼んだぞ、ヴィクトル・フォン・ライヒベルク。」
「はい。必ず、やり遂げてみせます。」
オルドは最後に一度だけ微笑んだ。その顔には、長い時を超えてようやく見つけた希望への安堵があった。
「では、そろそろ戻りなさい。
……また会えることを楽しみにしているぞ。」
その言葉を最後に、オルドの身体が闇の中へと消えていく。
(……また……?)
* * *
気がつくと、視界には天蓋付きの天井が映っていた。
自室ーーベッドの中だった。
わずかに身じろぐと、傍らから走り寄る気配。
「ヴィクトル!」
母クラリッサの叫びに続いて、父レオンハルトの足音が近づいてくる。
「意識が戻ったか……!」
父は表情を変えずに言ったが、その声音には微かな動揺があった。
「通常、“魔力の目覚め”を受けた者は、さほど時間もかからず戻ってくる。半日も意識が戻らなかった例など聞いたことがない。
……何かあったのか? オルドと、何か……?」
父の視線をヴィクトルはまっすぐに受け止めた。だが、答えは口にできない。
(ごめんなさい、父上。あなたを信じていないわけじゃない。でも、これは……)
ヴィクトルは小さく首を振った。
「いえ。オルド様とは……父上に教わった通りに対話を交わしただけです。」
父は、ふうと息を吐いた。
「……そうか。ならば、年齢が若すぎて魔力の負担が大きすぎたせいかもしれん。無理をさせたな、ヴィクトルよ。」
クラリッサがそっとヴィクトルの手を握った。ぬくもりが、胸に染みた。
(本当のことは、まだ言えない。でも、きっと……)
ヴィクトルは心の中で、そっと両親に頭を下げた。
「……父上。」
「うむ?」
「せっかく魔力を授かったのです。今日から、魔法の練習をさせてください。」
レオンハルトはしばし驚いたようだったが、すぐに表情を引き締めて頷いた。
「よかろう。しかし、お前の体調が心配なので、せめて明日からにしなさい。明日また書斎に来れば、木魔法の本を何冊か授けよう。」
「はい! ありがとうございます!」
夜、ベッドの上で拳を握る。
(この力で、必ず世界を変えてみせる。そのためには、まずは魔法の習得だ……!)
ーーその瞳には、1つの未来が映っていた。
奴隷なき世界。そして、誰もが自らの意志で歩ける世界。




