五
「女の子はみんな素敵なお姫様なんだよ」
「う~ん、えっと、否定はしたくないけど、シャルにはいわれたくないっていうか」
「どうして!? 確かに似合わないこといったけど!」
「自覚してるのかよ」
半眼で突っ込む。姫らしくないことは自分でもわかっているようだ。
実を言うと、ファティマ国のように七煌杯へ参加していない国は珍しくはなかった。宇宙的スポーツといわれていても、参加するには費用の問題や星を所有した際の管理と維持など、数多くの問題があったからだ。大小合わせて千ほどある国家のうち、参加しているのは百もなかった。
小国であれば、なおさら参加している国はほとんどない。そんな状況で「なんとかする!」と根拠のない断言をし、自分の父であるウェル公爵を三年かけて説得して七煌杯の参加を決めたのがシャルだった。
自由奔放、猪突猛進といえば、本人は認めないだろうが、まあシャルの性格を大まかには外れてはいない。固定観念を嫌い、規則を気にしないお転婆だが、不思議と人から好かれた。それは、裏表がなく飾らない性格のゆえだろう。その人徳がゆえに、周りの大人達はついつい引き込まれ参加を承諾してしまっていた(「子供だから、参加の準備だけで満足するだろう」と甘くみていたところもある)。
その後、この姫は短期間で参加の準備を整えてしまった。周りがあっと気付いた時はもう遅かった。甘く見ていた大人達は一度許してしまっている以上、今更止めるわけにもいかず、とうとう国として参加せざるを得なくなったのだ。
これだけ短期間に準備が出来たのには理由がある。もちろんシャル自身の力もあるだろうが、もう一人の力がなければ参加はできなかっただろう。
「ちょっとは姫らしくしたら? 社交界とかでは一応なんとか曲がりなりにもぎりぎりで『姫』っていわれてるんだし」
「おもいっきり引っかかる言い方だけど。いいじゃない、こんな姫がいたって。実際、ここにいるし」
「シャルってさ、姫って言うか……あれだ、親分って感じだよね」
「ヒジリには言われたくないんだけど。というか、せめて姐御にしてよ」
「姐御ならいいんだ」
「……二人ともプリンセスって柄じゃない」
話がどんどんそれていく二人に、ファティマ国の参加を決定付けたもう一人――ソルテは冷静に評をくだすと、PCのディスプレイへと視線を落とした。
ソルテ・フォルテシィア。10歳。流れる様な長いストレートの黒髪に、黒ダイヤモンドのような綺麗な瞳。白い肌はシャルと同じだが、ソルテは濃い蒼色、藍の服を着ていた。同年代よりも小柄で、椅子にちょこんと座っていると繊細な西洋のお人形のように見える。
「まあ確かに、ソルテのほうがまだお姫様っぽいよね。深窓のお嬢様って感じで」
「ふふ、いいでしょ、可愛いでしょ」
「可愛いは同意するけど、なんでシャルが自慢げなのよ」
「だって、ソルテはわたしのだから」
「……違う」
「そうだよ、シャルのじゃなくてわたしのだよ」
「……それも違う」
俯いたまま小さく一言で否定するソルテに、シャルとひじりは視線を合わせて笑った。俯いているため表情は見えないが、こういうときのソルテがどういう気持ちでいるかは知っている。
照れているのだ、ソルテは。その照れた自分の顔を見られたくないから俯いた。
「可愛いなぁ、ソルテは」
「――そんなことより」
含み笑いをしながら頭を撫でようと手を伸ばすシャルを、ソルテは少し頬を染めたままかわして話を戻そうと口を開けた瞬間――
「…………」
唐突に周囲からざわめきが起こり、ソルテは口を閉じて声の方へと視線を向けた。「ん?」と洩らし、シャルもヒジリもソルテに習って顔を向ける。
ざわめきの中心――だが、そのざわめきも実際にその人物たちが現れた瞬間囁きへと変わった。皆一様に黒い衣服を纏った人物、漆黒の五人の少女たち。




