四
「それに、優勝者には星の所有権が与えられるけど、これは争奪戦じゃない。あくまでスポーツの試合だから、『スポーツの度を越えた』装備は誰も着けない。だから、多少の差はあったとしても、闘衣の優劣で試合が決まることはないと思う」
「なるほど、じゃあうちの場合はヒジリ次第ってわけね」
ソルテの話を聞いて、こちらに顔を向けてくるシャルに、ひじりは緊張感のかけらもなく笑ってあっさり答えた。
「あはは、まあ、なんとかなるっしょ。相手の闘衣を壊さなきゃいけないってのは、ちょっと可哀想な気もするけど」
「最初にルールを聞いたときはわたしもそう思ったけど、ヒジリも試合は見たでしょ?」
「分かってるって。試合は試合だからね、そこは真剣にいくよ」
笑顔のまま、ひじりは頷いた。多くを言わなくとも、試合を見た、ということだけでシャルの言いたいことは分かっている。
七煌杯の勝敗は、闘衣を破壊され戦闘不能になったら負けとなっていた。ただし、破壊とはいっても命に危険が及ぶことはない。
これもレギュレーションにあることだが、七煌杯の闘衣は二重構造となっている。同じ強度の闘衣を二枚重ね、外側の闘衣に戦闘装備を搭載している構造になっており、その外側が破壊されれば戦闘不能となり負けになるというルールになっていた。
それでも、もし攻撃が強ければ……と誰もが思うことだが、誰だって人を傷つけたりなどしたくはないし、当然ながら人を傷つけてしまえば罪に問われ出場権剥奪となってしまうので、ソルテが言ったとおり二重の闘衣を貫くほどの装備をつけることは誰もしなかった。いや、それ以前に、そもそもそれだけ強力なエネルギーを使う攻撃は、プレイヤーに負担がかかりすぎ扱うことはできないというのもあるのだが。
ともあれ、そこまで安全面を徹底した結果、人が負傷するような事故は今まで起こったことはない。
だが、だからといってゲームのようになっているかといえば全く違った。それは、試合を一目見たときにすぐに分かったことだった。
「国の威信や誇り、それに加えて個人の想いも関わってくるからね。半端でやったら、すぐに負けそうだ」
「ふふ、頼んだわよ、誇り高き我が戦姫」
「だから、プリンセスじゃないって」
「プリンセスでしょ。七煌の戦姫(Twinkle Seven Princess)」
ひじりに念を押すシャルに、ソルテが横から小さく呟いて修正した。
「それは俗称。正式には七煌の選手」
「そうだけど、プリンセスのほうが可愛いよ。ねえ、ヒジリ?」
「たしかに可愛いけどね。実際言われるとやっぱり恥ずかしいよ」
もう一度話を振られ、当の本人であるひじりは苦笑して答えた。
プレイヤーに若い女性が多いことから、いつからかプリンセスとも呼ばれるようになっていた。これは、ひじりが言うところの魔法少女っぽい闘衣のせいもあるだろうが、プレイヤーと言うよりもプリンセスと言うほうが響きがいいのでよく使われているというのもある。ただ、それでも正式名称にはならないのは、さすがに格好がつかないからだろう。
「『プリンセス』っていうのはさすがに、なんていうかアレじゃない?」
「そう? 別に恥ずかしいことじゃないよ」
「それは、シャルが本物のお姫様だからでしょ」
苦笑を止めないまま、ひじりは呟いた。姫と言う言葉の印象と性格とはかけ離れているが、この一歳年上の雇い主はれっきとした正真正銘のお姫様だった。
シャル・リード・ファティマ。17歳。ファティマ公国、ウェル・リード・ファティマ公爵の一人娘。
長く綺麗な金糸の髪に蒼い瞳。白い肌に白い服が良く似合い、見た目は清楚で姫らしいのだが、接する印象と生気に満ちた瞳はおよそ清楚な姫とはかけ離れた雰囲気を出していた。逆に、そうでなければ争いを好まず不参加を決めていた七煌杯に参加しようなどと思わないだろう。




