三
――それから、二時間後。
「闘衣のレギュレーションに、七煌杯のルール、試合に関する誓約書に優勝した場合の手続き……あ~~、やっぱりリリアにも来てもらえばよかったかなぁ」
七煌杯エントリー会場にあるオープンカフェ。
そこで遅い昼食をとりながら、書類の束を手にしてシャルは溜息をついた。
「あはは、そうぶつくさ言わない。言いだしっぺはシャルなんだから」
「それはそうだけど……う~~」
右隣に座っているひじりが言った言葉を認めつつも、シャルはなお口を尖らせて呻き声をあげながら左隣に座っているソルテへと顔を向けた。
「ソルテは大丈夫だった? 闘衣の説明とか」
「大丈夫。さっきの説明だって内容を確認するくらいだったし。それに、もう闘衣は造り終っているから」
ぐったりしているシャルとは正反対に、ソルテはノートパソコンに目を通しながら涼しい顔で小さくはっきり答えた。
七煌杯で使われる闘衣をエントリー前に作るのは当たり前のことだった。何故なら、エントリー申請時に自国の使用闘衣の資料を七煌杯運営へと提出しなければいけないからだ。そこで、レギュレーションに沿ったものかどうか調べられ、もし違反していれば当然ながら七煌杯には参加できない。
「あ~、そうだよね。もう造ってあるもんね」
ソルテの答えに納得して頷くと、シャルは闘衣の資料をテーブルの端へと置いやった。その意味をすぐに察して、すかさずソルテは口を挟む。
「……読まないでいいとか思わないでね。責任者は全部目を通すことになってるんだから」
「う……だって難しいんだもん。それに、ソルテが分かってるからいいでしょ?」
「それでも見なくちゃ駄目。それに、そんなに言うほど難しくない」
七煌杯で使われる闘衣は、見た目を簡単に説明すると普通の服にプロテクターをつけたような形をしていた。とはいっても、その服やプロテクターに宇宙空間で肌が出せるくらいの最新の技術と科学力が詰まっていることは言うまでもない。もちろん個人によってデザインや色彩はことなり、鎧のような形にしていたり、ロボットのような形にしている闘衣もあった。
――ちなみに、ひじりが闘衣を見て真っ先に頭に浮かんだのが魔法少女の服装だったりしたのだが。
「レギュレーションといっても、大きさや安全の為の耐久性の問題だけで機器の内部までは調べられないし、規制もされていない。それは独自開発の発展を害するものだから」
これも当然のことで、大きさを決めなければいくらでも補強することができ、最終的には戦艦と戦艦の戦いのようになってしまう可能性もあった。もちろんそれは極端な話だが、一人でも大きな闘衣を造ってしまえば、それに対抗が起こり競争となって、いずれはやはり戦艦のような大きさまでなってしまうだろう。だからこそ大きさを決め、何よりも安全性を重視したレギュレーションにしたのだ。
そして、その代わりに内部の調査や規制をなくしたのは技術向上を停滞させない為だった。決められた大きさでどれだけの耐久性と強度を造れるかを競わせるために内部への規制はしないようにし、秘密保持のため調査もしないようにしている。
「でもさ、これってよくよく考えたら、すごい闘衣を開発したらそこの一人勝ちになっちゃうよね」
端へと寄せた書類をしぶしぶ手にしていうシャルの言葉に、ソルテはディスプレイから視線を上げると首を横に振った。
「そうでもない。現状の技術が拮抗しているというのもあるけど、どんなに強い武器もどんなに硬い闘衣もプレイヤー次第で弱くも脆くもなるし、結局は使い方次第だから」
そこで、ちらっとひじりへ視線を向けた。自分たちの代表である七煌の選手(Twinkle Seven Player)は、この少女だった。




