二
(……という言い方もおかしいか)
若い女性が多いというより、若い女性しかいなかった。何故なら、七煌杯には女性しか参加できないようになっているからだ。
女性だけになった理由は単純だった。イベント化を完全にするためだ。実際、連合のその思惑は成功したともいえる……とはいえ、今でも反発がないわけではない。当然、主に男性から。「国益に関することを女性にだけ権利を与え、競わせることは問題だ」という……平たくいえば、「国益に関することを、女性に任せておけない」という意見が出るのも理解できないことはない。
しかし、その意見が受け入れられなかったのは、これも単純な理由だった。少数意見だったからだ。第三太陽系戦争により兵として戦っていた男性のほとんどが亡くなり、結果、生き残った女性が国の中心になっていった。いや、正確に言えばならざるを得なかった。そして、その結果、戦争を推進していた男への不信感もあり、二度と戦争を起こさないという想いも重なって七煌杯は女性だけで運営するように決定した。
ともあれ、七煌杯には若い女性が多く、アイドルのような存在になったという流れもあり、十一年前には七煌剣星杯(Twinkle Seven Sword Star Cup)という、惑星所有権争奪とはまったく関係のない大会も行われるようになった。三年に一度開催し、全惑星で一番強い選手を決めるという大会だ。優勝者には剣星の称号が与えられ、国の誇りと象徴された。
(……それでも)
ソルテは、周りに映っている七煌杯の映像を見ながら胸中で付け足した。
七煌杯は確かにスポーツのイベントのようなものになった。いや、太陽系連合や平和を望む国々がそういう風に仕立て上げた。
だが、根が惑星所有権争奪というものである限り、どうしても政治的な関わりが絡んでくるのは仕方のないことでもあった。争奪戦という意識での恨みや憎しみ――戦争まで発展するような恨みや憎しみを、女性限定にしたスポーツの勝ち負けにすることでその感情の次元を変えることはできたが、『それでも完全とはいえない』というのは、避けることのできない政治的な関わりの問題だった。
実際、七煌杯で使用される専用の鎧――闘衣(Competition Clothes)の開発に莫大な予算をかけ、少しでも優秀な科学者を獲得しようと躍起になっている国は多い。
国益のためには、それは当然なことかもしれないし、科学力の競争という点も悪いことではない……だが、政治と利益が絡むと歪みが生じてくることもまた隠しようがない事実だった。
そのことをソルテは良く知っていた。知りすぎるくらいに。
(だからこそ私は付いていった――シャルに)
「ソルテ」
ソルテの心の声に返事をするように、聞きなれた声が呼びかけてきた。と、同時にいつの間にか長く思考していた自分に気付き、ソルテは顔を上げ、声の方へと視線を向けた。
見ると、受付を終ったらしいシャルとひじりがこちらに歩いてきていた。ソルテがこちらに気づいたことに軽く手を振ると、シャルは続けて口を開いた。
「ごめんごめん、待たせちゃって。初参加だと色々手続きが多くて……って言ってもまだ終ってないんだけど」
まだ長くかかりそうなことに、腰に手をあてぐったりと溜息をつきながらシャルはソルテにお願いした。
「それで、今度は闘衣のレギュレーションの説明だって。一緒に来てくれる、ソルテ?」
「……うん」
こくっと頷いて、ソルテもシャルたちのほうへと歩き出した。
ソルテは十歳で博士称号を与えられた科学者であり、ファティマ公国の闘衣開発技術主任でもあった。




