一
七煌杯(Twinkle Seven Cup)というのは、つまりは惑星所有権争奪戦のことだ。七煌は七つの太陽を意味し、その意味のままいえば七つの太陽の戦いということになる。各国の代表が鎧のようなものを装備して宇宙で戦い、その勝者が惑星の所有権を獲得する。それが、七煌杯だった。
何故、そのまま惑星所有権争奪戦とはつけず七煌という名称にしたかといえば、争奪戦という意識を無くしイベントという認識にさせる為だった。争奪……奪い争う、という意識を無くそうとした理由はよくわかるし共感できる。実際、感情的なしこりを少しでも減らそうとしたのなら、それは成功したといえるだろう。
(……それでも、まだ完全とはいえないけど)
ソルテは、初めて来た七煌杯エントリー会場になんの感動も受けないまま、頭の中でそんなことを考えていた。
宇宙暦一九九九年……というのも実は正確ではない。宇宙暦とはいっても、星間の交流が活発になり共同体としての形が出来始めて付けた暦で、個々にあるその星特有の暦には一万年以上経っているものもある。
いや、もっといえば、宇宙の始まりが分からない以上、そして、宇宙の広がりも分からない以上、正確に宇宙暦とつけるのはほぼ不可能に近い。それを考えれば、人類の歴史なんて実にちっぽけなものだった。
(でも、そんなちっぽけな歴史でも、人類は争う事を繰り返してきた)
現在の宇宙暦一九九九年からおよそ三百年前。第一から第七まである太陽系を纏める太陽系調和維持連合(Solar maintain harmony Union)が設立された。
文字通り宇宙の平和と調和を願って設立された連合だったが、それでも戦争が終ることはなかった。連合設立後も戦争は続き、連合がやっとその意味を果たすようになったのは全ての惑星を合わせた総人口を半分までにした第三太陽系戦争が終結してからだった。
その後、連合の元、人類はやっと永久戦争放棄を決定した。
(――それから百五十年後)
宇宙暦一九六三年、第三太陽系戦争からの復興が落ち着き始めた頃、連合は七煌杯を発表した。
連合が何故七煌杯などというものを作ったのか、その理由は明確だった。長く続いた戦争の一番の原因が、まさに惑星所有権争奪だったからだ。
永久戦争放棄を決定したからといっても、宇宙の探索まで止めるわけにはいかなかった。もし、止めてしまえば人類の向上や発展も止めてしまうことになってしまう。かといって、探索を自由にし、以前と同じように早い者勝ちというふうにしてしまえば、また戦争が起こりかねない。
そして、考え出されたのが、全ての太陽系の中心機関である太陽系連合のみが探索を行い、見つけた未開発惑星の所有権を各国の代表が戦って決めるという七煌杯だった。
ちなみに、未開発惑星というのは人類、または知的生命体が存在していない惑星のことで、もし少数でも人類が存在していたら、それは観察保護惑星となり、干渉することは禁止とされている。宇宙に進出できるほどの科学力をもったところで、初めて連合が交渉するようになっていた。
ともあれ、そうしてできた七煌杯は、始まった当初は争奪戦という意識が抜けず様々な問題が起こったものの、だんだんと新しい格闘競技として全ての国に受け入れられていった。
今では、宇宙的人気のスポーツのように受け取られ、七煌杯の選手は子供たちの尊敬と憧れの対象だった。しかも、選手には若い女性が多いこともあって、アイドルのような扱いになっている国もある。




