八
ユニをシートへ誘い、リリアが改めてお茶を用意していく中。
「なにか、不思議な人たちだよね、ヒジリたちって」
少し緊張しているのか、ちょこんと正座して口を開いたユニにひじりは笑った。
「そう? 初めていわれた」
「こんなふうに言ったら変に思うかも知れないけど……匂いが違う気がする」
「あ、ごめん、なにか匂う?」
「いやっ、そうじゃなくてっ! 土の匂いがしないなぁって!」
「あはは、成程」
「どこからきたの? なんだか都市の人って感じがするけど」
「まあ、そうかな」
都市は都市でも王都から来て、眼の前にお姫様が居るって伝えたらどんな顔をするかな――なんて考えが過ぎるが、おそらくシャルは嫌がるだろうからそれは言わず。
というより、視線の隅で「言ったら、ぶちのめすから」とにっこり微笑んでいるシャルの事はわざと無視して。
「それより、どうしてさっき空をずっと見てたの?」
「ぇっ……ぁ、うん」
ひじりの質問に曖昧に答えると、リリアに勧められたカップを両手で持ち「いただきます」と一口飲んでからユニは微笑んだ。
「おいしい……こんなにおいしいお茶、初めて飲んだ」
「でしょ! お姉ちゃんはお茶を入れるのがすごくうまいんだよっ!」
「うん、ほんとにおいしい」
嬉しそうに、誇らしそうに話すテリアに微笑み、ユニはもう一度カップに口を付ける。
「初めての味……わたしが知らなかった味」
「知らなかった味?」
「うん……時々思うの。外の世界ってどうなってるのかなって」
「外の世界って、都市とかのこと?」
「うん、都市とかもだけど……」
続けて質問するテリアに頷き、しばらくカップの中のお茶を見つめて……そして、ユニは顔を上げて空へと瞳を向けた。
「たとえば、空の向こうとかどうなっているのかなって」
「空の向こうって、宇宙のこと?」
「うん、わたしは見たことないから。テリアは行ったことある?」
「あるけど、わたしも二回くらいだよ。他の星には行ったことがないし」
「そうなんだ。宇宙ってどんなところ?」
「真っ黒! でも、星はキラキラしてて綺麗!」
「真っ黒って……まあ、そうだけど」
テリアらしい答えにひじりは笑い、そして、ユニへと顔を向けた。
「行ってみたい? 空」
「ん、そうだね……行けたら、一度は見てみたいかな」
「だったらっ――むぐ!?」
(ちょっと、どうしてシャルちゃん!?)
口を押さえられ、瞳でそう抗議してくるテリアにシャルはにこりと微笑み、そして、ひじりに視線を向けた。
(その難儀な性格、どうにかならないの)
そうも思うのだが、シャルの気持ちも理解できる。七煌杯のことを話せば、シャルのことも話さなければならなくなる。それは簡単な方法だが、それでは意味がなかった。
憧れを利用するような事はしたくないし、姫の命令にもしたくはない、という気持ちはひじりにも分かる。
「ふぅん、なるほど」
テリアとシャルに「?」と首を傾げるユニの頭をぽんっと撫で、
「じゃあ、行って見ようか、空」
今度は驚いて見上げるユニに、ひじりをにこりと微笑んだ。




