七
「――はい」
「ありがとう、助かったわ」
ゆっくりと戻ってきた褐色の少女は、馬からすらりと下りるとシャルに帽子を手渡した。さっきは一瞬でしか見れなかったが、改めて近くで見ると随分と幼く感じる。テリアの言うとおり同じ歳くらいだろう。
艶のある綺麗な黒髪。陽にきらきら光る大きな瞳――まさに野に咲く花のような自然の少女。
「すごい、すごいね! あんなに遠くに飛んでいった帽子を馬でぴゅーっていってとって来るなんてすごいっ!!」
「え? うん、ありがとう。でも、そんなに大したことじゃないよ」
「ううん、すごいよ!」
興奮した様子で話しかけるテリアに、少女は少し照れながらも微笑んだ。だが、実際すごいことだと、ひじりも感じていた。
テリアの声を聞いて、走り出した方向と遠くの帽子を見てすぐに起こったことを理解し馬を駆って走り出した。瞬時の判断と行動。目も耳も良いのだろう。何より、風の流れを計算して帽子の位置を把握した。その全ての『感覚』は、なかなか身に付くものじゃない。
「わたしはテリア! あなたの名前は?」
「わたしはユニ。ユニ・ミニセル」
「何歳?」
「十歳だけど」
「じゃあ、一緒だね!」
手をとってきゃきゃっとはしゃぐテリアに、少女――ユニも笑った。屈託のない人懐っこい笑顔。そんな表情がユニの性格をよく表している。
「でも、珍しいね。こんなところに来るなんて」
「そうかな、いいところだよ」
「いいところだけど、観光で来るようなところじゃないよ」
そう言って、ユニはテリア以外へと視線を向ける。
「家族旅行ってわけでもないみたいだし、歳もバラバラだし、何をしにきたの?」
「見ての通り、ピクニック、かな」
「あはは、なるほど。そうみたいだね」
シートの上にあるお茶やお弁当を見てユニは笑い、それから答えたひじりへと顔を向け「えっと」と声を洩らす。
「ごめん、自己紹介が遅れたね。わたしはひじり、で――」
「わたしはシャルよ。それで、こっちがリリアで、小さい子がソルテ。よろしく、ユニ」
「……小さいっていうな」
「ふふ、うん、よろしく」
「さて、これでみんなの自己紹介も終わったことだし――」
不満そうなソルテはこの際無視して――というより、ソルテの膨れた顔を見るためにシャルはわざといっていたりするのだが。
ともあれ、ユニへ向かってシャルは微笑みながらウインクした。
「一緒にお茶でもどう?」




