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七煌の戦姫 - Children of the New Century -  作者: shio
第二章 星のお姫様 -The Little Princess-
18/20


「お姉ちゃんはシャルちゃんの付き人だから、わたしはひーちゃんの付き人♪」

「いつもだけど、もてもてだね、ヒジリ」

「うらやましい?」

「うらやましい。リリアもこれくらいわたしに甘えてもいいのに」


 一斉に向けられる視線に、


「し、しませんよ!」


 リリアは顔を紅くして手と首を振った。


「――で、お茶してるのはいいけど」


 緩やかな時間、風と草原の音だけが流れている中、二杯目の紅茶を口にしてシャルはひじりに向かって呟いた。


「どうするの。なにも考えなしにここに来たわけじゃないんでしょ?」

「んー……まあ、ほんとにピクニックもいいなぁって思ってたんだけどね。天気が良かったし」


 ひじりは地平線を見つめたまま言葉を続ける。


「こういうところに来たほうがいいかなって。煮詰まってもしょうがないし……あとは」

「あとは?」

「あとは、まあ、感、かな。なにかあるかも、みたいな」

「ふふ、なるほどね。あなたらしいわ」


 シャルは笑って、もう一口カップに唇を触れさせた。


 ――――サァ――――


 風が流れていく。自然の匂い、蒼い空、遠くの山々、無限に広がっている草原。


「――――」


 気持ちのいい一時――そんな時だった。


「ひーちゃん?」


 ひじりがじっと何かを見つめている事に気付き、お茶を渡そうとしたテリアが不思議に思って問いかけた。


「どうしたの?」

「ん……ちょっとね」


 テリアに微笑んで返事をし、ひじりはまた同じ方向へと視線を向けた。


「?」


 ひじりの視線を追って、テリアも顔を向ける。遠くに見える馬たち。ぱっと見ただけでも十数頭はいるだろう。各々、のんびり歩いていたり休んでいたり草を食べていたりしている。それは自然そのもので、なんの違和感もない光景――だが、


(……ぁ)


 テリアは小さく胸で声をだした。

 馬の群れから少し離れた場所、そこにずっと動いていない馬と、そして、一人の人間が立っていた。

 よくよく見つめてみる。遮るものがない草原というのはこういう時にはありがたい。多少遠くても、大体のことは分かってくる。

 それで分かったことは、人間というのはそうなのだが、身体を見れば大人ではなかった。大人ではない、あの子は――


「女の子……かな。もしかしたら、わたしと同じくらいかも。あの子がどうかしたの?」

「いや、空を見てたからさ」

「空? あ、ほんとだ。なにしてるんだろう?」

「ん、なに、どうかしたの?」


 シャルが会話に入ろうとした、その時、


 ――――ビュゥッ――――!


 鋭い音が耳をかすめ、ひじりたちの背中を叩いた。


「――ぁっ」


 帽子が空に舞った。つばの広い白い帽子。すぐに分かる、シャルの帽子だった。

 障害物もなにもない広い草原、空に舞い風に流された帽子はどこまでも飛んでいきそうだ。なくなりはしないだろうが、どこまで飛んでいくかは風に聞くしかなかった。


「待って――っ!」


 テリアが走り出す。まあ、これもピクニックのイベントで、軽い運動にもなるかな――そんなことを考えて、ひじりもテリアの後を追って走りだそうとした、その瞬間だった。


「――行くよっ、スレイプ!」


 少女の声が空に響くと、走り出したテリアとひじりの横を馬が駆け抜けていく。馬上にいるのはさっき見ていた少女。一瞬しか見れなかったが……黒髪を三つ編みにした小麦色の肌の……そして、一瞬でも印象的だった瞳の綺麗な女の子。

 少女は見事な手綱で疾風のように一気に駆け抜け、またたくまに小さい人となる。蒼い空に白い鳥が飛ぶように舞っている帽子を追いかけ、そして――


「すごいすごいっ! あんなに遠くにいったのに、帽子をとったよ!!」


 テリアが大きな声で歓声をあげた。追いついた少女は、帽子を地面に落すことなく馬の上でつかみとったのだ。

 すごいすごい!と興奮しているテリアの横で、ひじりは遠くの少女を見つめて笑った。


「……へえ」


 ピクニックに来てみるものだ。思いつきだったが、感は当たったかもしれない。


「見つけたかも」


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