四
走り回るような年齢じゃない、ということと、私服を着ているということを含めて恥ずかしがるリリアにシャルは「まったく」と苦笑した。いつものこととはいえ、同じ環境で育ってきたはずなのに姉妹でこうも違うものかと思ってしまう。
レイティル家の姉妹、姉のリリア・レイティルと妹のテリア・レイティル。前述のようにレイティル家はファティマ公国に代々仕えてきた家系で、二人の両親もそれぞれにシャルの父、ファティマ公とその婦人に仕えている。
その流れで姉のリリアもシャルの付き人となったわけだが、シャルは『付き人』ということを嫌い、親友として接するようにしていた。現に今も、リリアの服は普段のメイド服ではなく――ひじりも初めて見た――私服だった。これもシャルが「出かけるのに、メイド服なんてありえない」と強く言ったからで、ひじりなどは(もうそれ若干命令だよね)などと思いながらも、リリアはシャルの勧めのまま私服を着ることになった。それこそ、「付き人」として育てられたからだろうか、「シャル様、それはできません」と困ったように断りながらも、結局はシャルに押し切られてしまっている。シャルは嫌だろうが、二人の姿はまさに「おてんばな姫様に振り回されるメイド」の姿そのものだ。
大人しく控えめな性格で、何事も一歩下がっている印象がある。これは、付き人として育てられた性格というよりも、もともとのリリアの性格だろう。リリアの白い私服姿は綺麗で清楚で、シャルに劣らずどこからどうみても「深窓のお嬢様」なのだが、それでも少し地味に見えてしまうのはその性格によるものかもしれない。
そんな姉とは違い、内面から元気と明るさを発しているのが妹のテリアだった。そのおかげか、姉と似たような白い服が太陽に照らされて輝いて見える――と感じるくらい、テリアは周りを明るくさせる雰囲気をもっていた。
シャルのことも「シャルちゃん」と呼び、ソルテのことも「ソルテちゃん」と呼んでいる。テリアの家を考えれば、仕える姫とその客人に対してそれは絶対にしてはいけないことなのだが、シャルの許しもあってテリアは二人をそう呼んでいた。とはいえ、もちろん第三者がいる場ではテリアも「姫様」と呼んでいる。ただ無邪気なだけでなく、テリアは周りのことが分かる聡明さも持っていた。
そんな性格だからか、年齢問わずテリアには友達が多い。そして、このメンバーの中で唯一学院に通っている学生だった。
本来ならファティマに仕える家として教育は家庭内ですることがしきたりだったのだが、そのしきたりを壊し学院に通うようにしたのが他ならぬシャルだった。家に閉じ込められることを嫌ったシャルは初等学院に通うことを強く希望し、結局、その流れでリリアも一緒に学院へと行くことになったのだ。そして、テリアもまた流れに従って初等学院へと通っている。とはいえ、そこはのんびりした性格のファティマ公国。学業といっても午前中しかなく、家の田畑や牧場の手伝いなどがあればそちらを優先という緩やかな学院となっていて、テリアも今日は学院が終わってからひじりたちとここへと来ていた。
ちなみに、テリアとソルテは同じ十歳だが、ソルテは学院には行っていない。シャルはテリアと一緒に行くように勧めたのだが、「どうして?」という冷たい一言でその話は終わってしまった。
「――でもさ、やっぱり学院に行ったほうがいいよ、ソルテ」
「……必要ない」
シャルの言葉に、ソルテはいつも通りの小さな声に若干の不機嫌さも加えて呟いた。この不機嫌さはシャルが闘衣を壊したことをまだ怒っているわけではない。単純に眩しい太陽が苦手なことと、一時間ほど歩いたことに疲れているからだ。
ずっと室内でなにかの研究をしているソルテ――だからこそ、十歳という幼さで博士号を取得できたのだろうが――そんなソルテをシャルは少し心配していた。確かに、ソルテのお陰で七煌杯に出ることが叶ったのだけれど……それでも、ソルテは十歳の少女なのだ。できるなら、普通の少女として過ごしてほしいと思っている。矛盾していることなのだが、技術者として知ったソルテを初めて見たシャルは、その才能というよりも友達になろうと咄嗟に思ってしまった。そして、そうだからこそソルテもシャルに付いてきた。




