三
つばの広い白い帽子に、白のワンピース。金色の髪に蒼の瞳、白い肌。
「なんか腹立つ。そうすると、本当のお姫様っぽくて」
「いきなり? というか、一応本物のお姫様だから」
「うん、まあ、似合いすぎてるから、わたしも本物のお姫様だって今気付いた」
「じゃあ、わたしって今までなんだったの?」
「え? シャルはシャルだよ」
ひじりの言葉にシャルは一瞬俯いて帽子のつばで表情を隠し、それから顔を上げて、
「まあね」
と笑った。
「なに照れてんの」
「照れてないし」
先に歩いて行くシャルにひじりも笑い、一度だけ空を見上げてから後を付いていった。
そんなこんなで辿り着いたのは、ファティマ城のあるファティマ中央都市から遠く離れた――といっても、今の航空技術があれば一時間ほどで着いたのだが――広大な牧場だった。
他の星よりも自然が多いファティマ公国といっても、中央都市はそれなりに発達している。電気も通っていれば、機械も『少し』はある。
だが、この辺りの地域となると電気もないらしい。目をこらさないと見えないほどの遠くに木造らしき建物がちらほら見えるが、それ以外は、山と林、そして、ただただ広い草原。見える風景はそれだけしかなかった。
「ん~~! 気持ちいいね」
「うん、気持ちいい…………けど」
んっと伸びをするひじりの横でシャルも深呼吸をし、心地よい風と自然の息吹を胸いっぱいに吸い込んでから、腰に手を当てて今更な質問を呟いた。
「で、わたしたちは何しに来たの?」
「え? ピクニック?」
「オッケイ、わかったわ。ピクニックね」
シャルはふんすともう一度深呼吸、そして、
「ってなんでよ!!」
空に響き渡る声で叫び、ひじりを見つめた。
「よし、すっきりした」
「え、そういうこと?」
「……バカ二人」
何故か満足げにしているシャルに突っ込むひじり。小さく呟くソルテと苦笑するリリア。そして、
「ひーちゃん~~っ! こっちこっち~~!!」
一際元気な声で呼ぶ少女に、ひじりは笑って手を振った。
「うん、いまいくよ、テリア」
「うんっ!」
テリアは大きく頷き、きゃきゃっとはしゃいで広い草原を走っていく。大人しく何事も控えめな姉のリリアとは違って、テリアはいつも無邪気で元気一杯だ。
「すごいね、広いね!」
「たしかに、わたしもこんな広い草原ははじめてかも」
素直な感動を伝えるテリアに微笑みつつ、ひじりも草原の彼方を見つめた。実際、ひじりも少し感動している。空と、風と、草原の匂いと、その全てを身体全体で感じさせてくれるこの感覚はなかなか味わえない。風や自然と一体になっている感じなのだ。
「どこまで広がってるんだろ~。ね、ひーちゃん、あっちまで行ってみようよ!」
「あんまりはしゃぎすぎちゃ駄目よ、テリア」
「わかってる、お姉ちゃん! いこっ、ひーちゃん!」
そういいながら、テリアはひじりの手を掴むと走りだした。みんなでお出かけしているのが嬉しくて楽しくてしょうがないのだろう。特に、ひじりが来てからのテリアはずっとこんな感じだった。
「もう、テリアったら……」
「ふふ、まあ、いいんじゃない。たまにはこういうのも」
「それはそうですが……」
「リリアもわたしを気にしなくて走りまわってきていいのよ。今はメイドでもないしね」
「そ、そんなことできません……! それに、私服を着るように言ったのはシャル様じゃないですか」
「これは家の行事じゃなくて、まったくのプライベートなんだから私服で当たり前でしょ」




