二
「もう、ごめんってばソルテ」
「そうそう、悪いのは全部シャルだから」
「ええー、わたしのせいなの?」
「他に誰が悪いっていうのよ」
とはいえ、ひじりも確かにシャルが悪いわけじゃないよね、とも思っていた。国のせいともいえるが……機械が使えないことはそもそも批判されるようなことではない。
ただし、今が今だった。機械が使えなければ――闘衣を使えなければ、七煌杯には当然出ることはできない。
「……初心者でも使えるはずなのに」
「う……だから、ごめん」
ソルテが怒っている理由の一つがそれだ。ソルテは十歳という年齢ですでに博士号を持っている科学者であり、天才的な技術者でもあった。そんなすごい技術者が初心者でも扱えるように苦心して造り上げたのが今回の闘衣なのだ。あらゆる動作を自動にして、簡単な操作で扱えるようにしてある。
にも関わらず、シャルは闘衣を使いこなすことができなかった。それは、自分の技術不足のせい――と、ソルテは思っている。不機嫌な理由がそれだった。
そして、もう一つが、
「……少し、壊れてた」
「うう……ごめん」
飛んでは落ち、飛んでは落ちを繰り返したお陰で、せっかく造った闘衣が壊れたからだった。ソルテにとっては、自分の作品は子供みたいなものなのだろう。大事にする気持ちはよく分かる。
「リリアとテリアは大丈夫そうなんだけどね」
「……うう、そうですね」
呟いたひじりに、後ろで控えていたリリアはシャルと同じように唸ってから、頷いた。
リリアはリリアで別の問題があるのだが……とりあえずはまあ、闘衣が使えるだけ良しとしなければならない。というより、その部分を気にしていたら、それこそ話が先に進まない。
「プレイヤー登録の前だったってのが幸いだったよね」
プレイヤー登録は七煌杯の前日になっていた。ちなみに、闘衣の最終チェックやメディカルチェックなどもその日に行われる。
当然ながら、一度プレイヤー登録をしてしまうと変更はできない。そして、五人いなければ登録はおろかエントリー無効にされてしまう。
「メンバー集めかぁ」
根本の問題だった。ただでさえ、このチームは五人ぎりぎり。メンバーが集まらなければ試合には出られない。
「もう一回貼り紙する?」
「う~ん、でもそれやって人来なかったんでしょ?」
「ヒジリが来たじゃない」
「いや、わたしはともかく」
ひじりは笑った。自分はともかく、この国の人が来なければ意味がない。
「貼り紙よりかは、ビラ配りとかのほうがいいと思うけど」
「う~ん、でも、わたしがやっちゃうと『命令』になっちゃうから。なるべくならしたくないんだよね」
「あー……」
シャルの言葉に、ひじりは苦笑した。シャルは姫という立場にも関わらず、命令するのがとにかく嫌いだった。というより、気を使われるのが嫌いなのだ。だからこそ、直接会うことがない貼り紙という形にしたのだろう。といっても、結果は人が来なかったわけだが。
「シャルの気持ちもわからなくはないけど、ここじゃ難しくない?」
「うー……やっぱりそう?」
ひじりの言葉にシャルは唸った。国王の一人娘であり、しかも、なにかと目立つことをするシャルのことを知らない人間はファティマ公国にはいないだろう。
「なにかこう、すぱっとなんとかならないかな」
「すぱっとねぇ」
ひじりは空を見上げて考えを巡らせた。とりあえず、待っていても今のままでは人は来ないだろう。と、するなら――
「やっぱりここはあれしかないんじゃない」
「あれ?」
「スカウト」
「すかうとぉ? いや、だから、わたしだと……」
「なにいってるのよ。ここじゃなくて別のところ」
小さいながらも、ファティマ公国は一つの惑星。当然ながら、シャルたちが生活しているここだけが世界の全てというわけじゃない。しかも、貼り紙をしていたのはファティマ城があるこの都市だけなのだ。それで見つからなかったのなら、別の場所に行くしかない。
「もったいないよ、こんなに広い世界なんだもの。探すなら、外に出なくちゃ」
天気もいいしね、と付け加え、ひじりは遥か地平線を指差してにこっと笑った。




