八
「今度は負けないんだから、覚悟しておくのね!」
「…………」
少女の宣言に、セシィスはオックスブラッドの瞳を向けただけで何も応えなかった。表情にも変化はない。
「いやぁ、こりないよねルイちゃんも」
変わりに応えたのは、グレイシア帝国のクレイ・コーギルだった。頬杖をついてにやにやと笑い、ルイ――モンテルテイラ共和国の七煌選手育成学院の制服を着たルイ・スレイヤへ向かってからかうように続ける。
「にしても、うちが参戦する七煌杯を調べて全部参加してくるなんて。よっぽど好きなんだねぇ、うちの大将のこと」
「んなっ!? す、好きとかじゃないもん! わたしとセシィスは永遠のライバルなのっ!!」
「永遠だって。熱い求婚だね」
「っ!? ~~~~!!??」
「いやぁ、ほんとルイちゃんはかわいいね」
「かわっ!? だから、違うの! 違うんだってば!!」
ぼんっと紅くなるルイに、クレイはけらけらと笑った。グレイシアの他の三人は慣れた光景なのか、リウスはセシィスにお菓子を勧め、最年少のメリィは楽しそうににこにこお菓子を食べながら二人の会話を見つめ、フラウはおっとり優しく見守りながらも四人の紅茶のお変わりを注文していた。
「まあ、否定できないな」
「って、ちょ、ミリオ!?」
「まあまあ、ルイちゃん、ミリオちゃん」
冷静につっこみをいれるミリオ――ミリオ・エイラルと、優しく嗜めるシンシア――シンシア・メディウム。同じ制服を着た、同じ学年の三人。そして、モンテルテイラ共和国の代表の三人だった。
「いつも、お騒がせしてごめんなさい」
「いいですよ、こちらも楽しいですし」
「うん、楽しいから、ルイちゃん好きー!」
謝るシンシアに、フラウは微笑み、メリィは弾んだ声を上げる。そんな三人にルイはまた声を上げた。
「だーかーらー、なになごんでるの! わたしたちは敵なのよ!」
「ライバル同士でも仲良くしちゃいけないってことはないよ、ルイちゃん」
「ぅ……それはそうだけど」
「まあ、ライバルとは思われてないけどね」
「っ! ミリオ!!」
シンシアとミリオの二人にルイは「もーもー!」と拳を振り、そして、びっとセシィスをもう一度指差した。
「とにかく! 今度の今度は勝つんだから! 覚悟しなさいよ!!」
「…………」
対して、セシィスは無言……だが、一瞬だけ、それは誰も気付かないような一瞬だったが、冷たく鋭い視線を落とした。
「いくよっ、ミリオ、シンシア!」
「じゃあ、また試合でね~!!」
去っていく三人に、元気にメリィは手を振る。そんな、三人の後姿を見ながら、クレイはやれやれと笑った。
「まったく、可愛いよねぇ、ルイは」
「ふふ、でも、今回も最大の敵はモンテルテイラになりそうですね」
「まぁな。他は相手にならないだろ。さてさて、良い調整になればいいんだけどな。な、大将?」
フラウの言葉に頷き、話を振るクレイに、
「……そうだといいがな」
セシィスは短く、興味なさそうに応えた。
「――いやぁ、なんというか」
静寂が戻ったカフェに、ひじりは苦笑しつつ、正直な気持ちを呟いた。
「すごかったね」
「……モンテルテイラ共和国。七煌選手育成学院(TSPS)がある国で、優秀なプレイヤーが数多くいる。今は、グレイシア帝国の話題が大きいけど、間違いなく強豪よ。特に、今居た三人。グレイシアがなければ一強になれていたっていわれてる」
「いや、そゆことじゃなくて」
冷静に説明するソルテにひじりはつっこんだ。自分のやろうとしていたことを目の前で見せられ、安心したというか、複雑な気持ちがある。
「よかったかも、行かなくて」
「え? 今から行かないの」
「行かないよ、あんなにキャラが強くないし」
「ヒジリもなかなかだと思うけど」
「いやいや、わたしは地味なもんですよ」
面白がるシャルに、ひじりは手を振った。さすがに、あんな光景を見た後では行けなかった。いや、自分だったらもう少し静かにしたとは思うのだけど……
「まあ、とりあえずは……」
強い国がもう一つ出てきたことはまぎれもない事実だった。どういう組み合わせになるかわからないが、あの二つの国が負けないことを考えるなら、確実に二つとも戦うことになる。
「ますます面白くなってきたって感じ」
「勝てるかしら?」
微笑み見つめてくるシャルに、ひじりもにこりと――凛と勝ち気な顔で笑った。
「勝つよ、たぶんね。わたしは、勝つためにきたんだから」




