七
「ふ~ん、なるほどねぇ」
ソルテの答えにひじりは頬杖をついたままうんうんと頷く――と、そこでソルテはちらりとひじりを見つめた。
――七煌杯に参加しようとしているのに、プレイヤーなのに、七煌杯のこと全然知らない。
(…………)
ほんとうに、彼女はどうして七煌杯に参加しようとしているのだろう――
良い人だということはわかる。それは、シャルが仲良くしていることでわかっていた。自分はともかく、ソルテはシャルには人の見る目があると思っていた。いや、正確にいうなら、人を知る直感が優れていると思っている。そのシャルが警戒していない時点で、ひじりは信用するに足る人間だということは確信していた。それに――自分もひじりは嫌いではない。
だからかもしれない。信用しているからこそ、その不思議さが気になってもいた。すべてがデータベース化されている現代で、情報の一切がでてこない少女。しかも、プレイヤーとしてひじりは自分の闘衣を持っている。それにも関わらず、どこにも登録されていないというのは『ありえないこと』だった。
七煌杯を知らなければ、当然闘衣を持つことなどしない。闘衣は七煌杯でしか使わないものなのだ。専用に作られている。そして、七煌杯を知らなければ闘衣は造れない。
ひじりは誰から闘衣を貰ったのか。ひじりの闘衣は誰が造ったのか。何故、ひじりは七煌杯にでようとしているのか――
すべてが疑問のまま、ひじりは戦おうとしている。負けるためではなく、勝つために――そう、ひじりは初めてのエントリー、初めての戦いにも関わらず『勝つ気』でいる。
だとすれば、自分のできることは必要な情報を教え、できうる限りのバックアップをすること。ソルテはそう思っていた。どんな不思議な人だとしても、シャルのために、そして、自分の存在のために。
だからこそ、念を押す。相手は甘く戦える相手ではないのだ。一番になるというのなら、グレイシア帝国と必ず戦わなければいけない。
「……ヒジリ、小さい星の戦いといっても、もちろん遊びで試合をしているところなんてない。強い国が参加しないわけじゃないから。全勝で無敗というのはよく考えなきゃいけないと思う」
「もっちろん。油断する気なんてさらさらないし、わたしも全力出すから。まあ、なんとかなるっしょ、多分」
「どっからくるのよ、その自信。きびしい試合になるでしょ、あたったら」
「『きびしい試合』って、その言い方だと、シャルだって負ける気ないじゃん」
「当たり前でしょ、負けるつもりで試合なんかしないわよ。それに」
シャルはウインクしてにこりと笑った。
「わたしはヒジリを信じてる。愛しの我が姫を」
「どっからくるんだか、その自信」
シャルにつられるようにひじりも笑って、漆黒の少女たちのほうへと顔を向けた。
「とりあえずは、あの五人が今回の最大のライバルになるわけね」
確かに、普通ではないことはひじり自身も感じていた。これだけ注目されているのに、噂の五人は緊張も気負いも無い。まったくの自然でいる。
それは、帝国などという国のお姫様だからというのもあるかもしれない。だが、纏う雰囲気はお姫様とは違う。鋭く冷たい――シャルとは別の強さを持っている少女。
(おもしろいじゃない。戦うなら『こう』でなくちゃね)
強い、という空気。それに触れ、ひじりは立ち上がった。ベタな漫画みたいなことだが、すでに『物語のような世界』なのだ。だとしたら、ここは『らしく』いこう。
「じゃあ、ここは新人として、挨拶に行っとこうか」
「挨拶? 宣戦布告ってこと?」
「まあ、そんな感じ」
「いいわね。面白そう」
「……ちょっと二人とも」
「ん? 大丈夫だよ、ソルテ。声かけてくるだけだから」
「……なんて言うの?」
「んー……『今回の優勝はわたしよ!』てきな?」
「……恥ずかしいからやめて」
「冗談よ」
冷静に止めるソルテを安心させるように手を振って、ひじりは漆黒の少女のもとに向かおうとした――その時だった。
「今回の優勝はわたしたちだからねっ!!」
大きな声が響き渡り、ひじりは足を止めて……シャルとソルテに笑った。
「先越されたみたいね」
漆黒の少女がいるテーブルに、綺麗なエルブとホワイトを基調にした制服を纏った少女が三人――その真ん中の一人が、セシィス・リル・グレイシアに向かいびしっと指を差していた。




