六
「ぁ」
シャルが少し驚きの声を上げ、ソルテも僅かに視線を厳しくする。七煌杯に参加する者であれば、いや、プレイヤーだけでなくとも七煌杯を見たことがある人間なら誰もが知っている五人の少女。周囲のことなど微塵も気にせず颯爽と歩いていく姿を視線で追いながら、シャルはソルテに向かって小声で呟いた。
「あそこの国って、こんな小さな惑星の試合にも出てくるの?」
「……多分、本気のエントリーじゃないと思う。戦いの感を鈍らせないための調整、もしくは、新装備のテスト、戦闘シミュレーション……理由は他にも考えられるけど、大体そんなところだと思う」
「? なに? 有名人?」
「知らないのヒジリ!?」
思わずシャルは立ち上がって声を上げ……周囲の視線にすぐに腰を下ろすと小声でヒジリに話を続けた。
「試合の映像は見たでしょ?」
「いや見たけど、選手まで覚えてないよ。しかも、見たのは一試合だけだし」
「一試合だけって、ほんとにそれでよく選手になろうって思ったよね。……って、まあ、わたしもあんまり詳しくは知らないんだけど」
「知らないのかよ」
「…………」
とりあえずお馬鹿な二人に溜息をついて、ソルテはゆっくりと説明を始めた。実際問題、説明をしなければいけなかった。相手があの五人になる可能性もでてきた以上、できるだけ考えを共有して対策を練らなければいけない。
「グレイシア帝国。第三太陽系戦争での中心国であり、もっとも大きい国の一つ。だから『帝国』を名乗れてる。そのプレイヤー」
と、そこまで話し、ソルテはもう一度漆黒の五人の少女へと視線を向けた。映像では確認していたが、実際に直接見たのはソルテも初めてだった。
その注目の五人といえば、空いた席に座り何かを注文していた。カフェに来たのだ、それは当たり前の光景なのだが、あきらかに周りの空気は変わっている。変な緊張感――ソルテにとってはあまり好きではない雰囲気。とはいえ、シャルとひじりは何も気にしていないようだが。
「リーダーでグレイシア帝国王位継承権第三位のセシィス・リル・グレイシア。その付き人のリウス・ヘイテル。後は、クレイ・コーギル。メリィ・ファミィア。フラウ・レイ・ロレイシア。リウスは別だけど、他の三人も皇族」
「誰が誰で誰?」
「…………これ、七煌杯公式プロフィール。自分で見て」
ひじりの言葉にもう一度胸の中で溜息をつきつつ、ソルテは手元のパソコンの画面を差し出した。
「へー」
その画面を横から眺め、暢気な声をあげるシャルにも陰鬱になりながら、ついでに(……まったくバカ二人は)と付け足しながらソルテは説明を続けた。
……いや、公式プロフィールを見せているのなら説明の必要もないような気がしたのだが、多分、ちゃんと言わないとこの二人は理解しない。
「……いい? グレイシア帝国は連合にも多大な影響力を持っていて、当然七煌杯にも多く関係してる。初期の七煌杯では毎回エントリーして多くの惑星の所有権を獲得してきた。……でも、それも初期の頃だけで、最近ではあまり熱心ではなかったの。事実、勝ったり負けたりが多かったしね」
「ふ~ん、なにか意外ね。てっきり、勝ちを独占しているのかと思っていたけど」
……やっぱり、シャルは感がいい。ソルテは内心で頷いた。
技術力でいえば、グレイシアは群を抜いている。単純な話し、人がいてお金もあるからだ。だけど、それでも「勝ったり負けたり」だったのは……優秀なプレイヤーがいなかったからだった。
その影響で七煌杯に力をいれなくなった、というのはまことしやかに囁かれた噂だったが、落胆したというのは本音だろう。でも……
「……でも、二年前、セシィス・リル・グレイシアが出てきてから状況は一変したの。二十六戦全勝。デビューからの全勝と、連勝の記録保持者で今も更新してる。次の剣聖の最有力候補よ」
「二十六って……ほんとに小さな星の七煌杯にも参加してたのね」
「ん? どういうこと」
「……宇宙には無限の星があるけど、国にプラスになるような豊かな星は一年に一度か二度見つかるくらい。他の小さな星は、ほとんど名義上で七煌杯をしてるようなものだから」




