第二十五話 レイドボス
〜ここまでのあらすじ〜
店長の想いを受け、皆で協力して店長のラブレター作戦を手伝うことになった。
蓮華へ生徒手帳を返しに向かった際、それを萌奈香に目撃されてしまう。
萌奈香とはすれ違いの喧嘩別れをしたまま、会えずにいる。 ☜イマココ
〜登場キャラ紹介〜
・ガッツリン:多部 峰大
主人公。高2。取柄はゲームの腕で負けず嫌い。
・ローカロリー:相須 萌奈香
峰大と同じクラス。ハイスペックな天然女子。
・ソルトカット:多部 翔
峰大の双子の兄。学区1位で全国でも5本の指。
・TKG:瀬瑠 泰夢
中学時代の同級生。中二病は高校からデビュー。
・爆殺クチャラー:鳴戸 蓮華
ネット上の親友。関西弁が特徴のエンジョイ勢。
・ワンバウンド:埴 津丸
学区2位の男。理屈屋で余計な一言が多い。
・ガシマ店長
喫茶店開業を目指す銀毛の猫。語尾はニャ~。
・マロン
推定メスのタヌキャット。ガシマ店長が命名。
あれから萌奈香とは何となく会話をして無くて、ローカロリーとしてもログインをしていないのでVRMMOでは会ってすらいない。
俺自身、どんな顔をして萌奈香と会えばいいのか掴みかねている。
そうした事情もあって、合同パーティーの面々との交流が自然と増えていった。
周りから煽てられているのもあり、レイドボスへ挑戦する機運が高まりだす。
「ガッツリンさんのスキルがあればいけるって!」
「だぜだぜ! どのみち挑むんだし初回撃破ボーナスを稼ごうぜ! それからでもタヌキャット捜索は遅くないよ!」
神のように崇められるのは悪い気がしない。
店長には叱られるかも知れないが、雰囲気に流されて討伐へ行くことに。
出発準備を進めていると、耳と尻尾を垂れさせたガシマ店長が歩み寄ってきた。
「ガッツリン氏、オラもいくニャ~」
「危ないから店長は待っててくれよ」
「だけどニャ~……」
ガシマ店長が心配だからついてくると言って聞かない。正直お荷物だけど俺のユニークスキルがあれば何とかなるだろう。
「しょうがないな。店長は大人しく隠れてろよ?」
「ニャ~」
やり取りをしている合間にも、着信ランプが何度も点灯する。
連絡は埴からだ。
『ワンバウンド:共闘作戦を行う。二時間後に戦力を借り受けに向かう。報酬に関しては五種類用意しておいたので、好きなのを三つ選び、合流時刻までに回答しておけ。特に希望がなければ私が選んでおく』
埴から散々協力要請が来ているけれど、そんな義理も余裕も無いし適当に断って、以降は無視しよう。
返信を終え、応答ステータスを「応答不可」に切り替えておく。これで暫くは大丈夫。
他パーティーの面々を見回しながら声をかける。
「では、出発します! 俺のユニークスキルがあるから皆さんは気負わず無理しないで大丈夫ですから!」
「「おぉ~!!」」
◇◆◇◆◇《期間限定の森》エリア。
イベントで開放された区画へと訪れ、暫くは探索が続く。暖色系の植物たちが眼前を覆い、とても鮮やかな風景に映る。昔の紅葉を模したエリアらしく、秋の味覚と呼ばれる高級食材がたくさん採れた。
TKGと店長はすっかり打ち解けている。
「絶望のディストピア。大地のキスは奪われた……阻む絶壁はスメルか?」
「それは銀杏なんだニャ~」
逆に爆殺クチャラーは調子でも悪いのか、妙に動きがらしく無いというか、似合わない仕草が増えた。
「あ、そういやガッツリンは……」
筋肉質な格闘家男が手をモジモジさせている様子はちょっとキモいが、それは言わないでおこう。
グオオォオォォ!!
しかし、クチャラーの話が始まる前に、世界が塗り替わる程の雄たけびが轟く。
鼓膜が破れんばかりの音が響き、場にいる全員がガタガタと震えだす。
程なく、不気味な光を帯びて現れる脱出不可能を示すエフェクト。
ガシマ店長が全身の毛を逆立てて大地に伏した。
「なんだニャ~? この世の終わりかニャ~?」
「店長は東の区画へ走って! 早く!」
「我が同胞よ、信義を託せ!」
TKGが、震えて動けない店長を脇に抱え、太陽を背に走りだす。
安堵しつつも圧倒的なプレッシャーを受け、ログイン前に飲み込んだゼリーが胃酸と共にせり上がってくる感覚すら覚える。
「これが噂のレイドボス……レオランウータイガーかよ」
獅子の鬣を靡かせ、白虎の巨躯と尾、野性味のあるオランウータンの口髭も携えて現れた怪物。
四つん這いになり、ゆっくりとこちらへ地響きと共に近づいてくる。その重厚感はまるで超大型の戦車。
あまりの恐怖に声は出ないし、喉にも違和感がある中、そのボスが口を開いた。
『お前がこの群れの長だな? 我の縄張りに足を踏み入れたのは無自覚か? 今帰るならば許してやろう』
エネミーが喋った!?
喋るエネミーは今まで実装されなかったからとても驚いたし、イベントに対する運営の本気度も伺える。
それ以上にガシマ店長にとっては朗報だ。
マロンと会話が可能な未来があるかも知れない。
「生憎、お前を倒しに来たんでな」
俺は震える声でどうにか言い切った。
すると、猿の口元からは考えられないような二本の牙が伸び始め、吐く息には白いものが混ざり始める。
辺りの温度が急速に下がり始めたと思ったら、鬣や長い体毛部分も全てが白と銀で包まれていった。
『ならば我の糧となれ!』
そう言うや否や、ボスの姿は掻き消えて前衛の目の前に突如として出現。遅れて立っていられない程の突風が吹き荒れた。
映る光景に誰もが目を剥くだろう。
合同パーティーの中で最も耐久力のあったタンク役が一撃のもとに絶命させられた。
「ガ、ガッツリンさん!」
俺を求める声が皆からあがる。士気は低下し、発狂に近い声だ。
「いいぜ、万能感をくれてやる! スキル《お母さんの魔法の調理術》発動!」
ここからが本番。
味方から敏捷や認識速度を向上させる補助魔法が次々とかけられ、どうにか敵と渡り合える速度を手に入れた。だが、依然として敵の方が圧倒的に早い。
「なぁ、ガッツリン。アイツ、寒い方がようけ早う動けるんやないか?」
「ハッ! そうか! 魔法使い班!」
「既にやってるぜ!」
爆殺クチャラーの指摘で気付かされたが、敵のエリア魔法で今の低気温となっているはずだ。そして気温が低いほど高い能力を出す個体なのだろう。過去に気温が高いほど早くなるレイドボスがいたが、それの逆バージョンと考えれば自然だ。
魔法使いが二人がかりでエリア魔法をかけ、ようやく気温の主導権を奪い返す。
「ハッハッハ! 随分と遅くなったじゃねーか? このエテ猫野郎!」
『囀るなよ! 人間風情が!』
◇◆◇◆◇
「10倍に強化してこれかよ!? バランス調整どうなってんだ!?」
魔法使いからの雷撃が空から降り注ぎ、火炎の鞭も無数に飛び回る。
その中を無傷で切り抜けていくボス。最初は当てられた攻撃も徐々に回避され始め、今では当たる気配すらない。
残像を幾つも置き去りにして、冷気を撒き散らしてボスが荒れ狂う。
TKGと爆殺クチャラーが、突進スキルを活かして再びアタックを仕掛けた。
「《食卓の騒音爆弾》発動や!!」
「全員、耳栓をしろ!」
爆殺クチャラーがユニークスキルを発動させる。
咀嚼音を聞いたものは鼓膜に爆弾がセットされる強力な範囲攻撃。しかも気力減退や精神疾患などのデバフもてんこ盛りだ。欠点はフレンドリーファイアが深刻な点だろう。
予め用意していた耳栓を付ける。店長も慌てて特注品の猫用ノイズキャンセリングのヘッドセットを装着した。
ドン、ドドン!!
回避不能の攻撃が聞き始め多少は敵を怯ませることが出来、辺りにも氷エフェクトよりも、火の粉エフェクトの方が増え始める。
敵は咀嚼音を嫌がり無差別攻撃を始めたが、ヒット&アウェーが効いている。移動をサポートしているTKGの負担は相当だと思うが、ここは耐えて欲しい。
爆殺クチャラーが追加のガムを口に含んだ。
ここらが決着と判断し、周囲にもハンドサインで合図をして総攻撃をかける。
怒涛の爆発が敵鼓膜を捕え続け、動きが鈍ったところへ無数の雷撃、足を狙った斬撃、空に逃がさないための落石が殺到する。
物凄い爆煙が立ち込め、その向こう側で嘶くボスの声が聞こえた。
「や、やったか?」
「これ勝ったよね!」
あーもー! フラグ発言のオンパレードだよ!
諫めようとしたら、世界が赤色に塗り替わる。
「げ、無敵演出だ!」
敵は無敵時間へ入り、ボス演出が始まる。
体毛がメタリックな鎧へと変化し始めたことで、第二形態があると分かった。
だが、士気は高いしこのまま押せる。
そう思っていた矢先、俺のユニークスキルの光が消えた。
「は? MPは残っているのにどうして?」
突如として失われた万能感。
動揺する俺たちの前にここに居ないはずの男が現れた。
───用語説明:
【レオランウータイガー】
今回の大規模イベントで追加された七つの最強レイドボスの一角。
VRMMOで初めて遭遇した喋るエネミーの存在である。
【スキル《食卓の騒音爆弾》】
爆殺クチャラーの進化したユニークスキル。
咀嚼音を聴いた相手の鼓膜を爆弾に変える、内部破壊の強力な攻撃スキル。





