第二十二話 森のくまさんクレープ
〜ここまでのあらすじ〜
店長の想いを受け、皆で協力して店長のラブレター作戦を手伝うことになった。
ユニークスキルが進化し、ぶっ壊れ性能となったガッツリン。
合同パーティーのリーダーとしてタヌキャット捜索へ出撃していた。 ☜イマココ
〜登場キャラ紹介〜
・ガッツリン:多部 峰大
主人公。高2。取柄はゲームの腕で負けず嫌い。
・ローカロリー:相須 萌奈香
峰大と同じクラス。ハイスペックな天然女子。
・TKG:瀬瑠 泰夢
中学時代の同級生。中二病は高校からデビュー。
・アイムマヨラー
時代劇風のキャラ作りをしているネトゲ廃人。
・ジタンレシピー
ガッツリンが所属するギルドのギルドマスター。
・ガシマ店長
喫茶店開業を目指す銀毛の猫。語尾はニャ~。
・マロン
推定メスのタヌキャット。ガシマ店長が命名。
いつの間にかボスフィールドのエフェクトが全て消えた。
「「なんだこの力!?」」
俺のスキルの恩恵を受けた連中は、驚きの声をあげている。当然だ。全てを超越する万能感に包まれるスキルは、何でも出来るような錯覚すら起こす危険な代物。
俺がスキルを解除したら、他の連中は阿鼻叫喚の地獄絵図が即出来上がり。
「おい! ガッツリンさん。あのスキルをずっと発動しておいてくれよ!」
「いや、無理だって、MPも続かないし……」
「頼む! あの高揚感をもう一度!」
全能感からくる麻薬みたいな効能もあるっぽいし、無闇に使うのは止めておこう。
「ハイハイ、落ち着いて下さいね~」
興奮する皆を宥め、素材回収を依頼した。
訪れたときとは違う風景へ変わり果てた森。森?
ま、木が全部無くなった森に散らばっている素材を拾って回る。焦げた匂いが酷く原型を留めていなくても、ドロップ品として拾うと綺麗な状態になるのはゲームならではだろう。
日没を迎え、辺りは急速に暗くなってきているが、死の大地へと様変わりした様子が赤く染まっていくのは少し不気味にも映った。
日が完全に落ちると、新月だからか真っ暗だ。
トテトテと近づいてきた店長が、アイテムボックスから何やら取り出した。
「オラが明るくするニャ~」
周辺一体を鮮やかな暖色で照らす器具を取り出したガシマ店長。
VRMMOでは見たことが無い代物だが、周辺一帯を纏めて照らしてくれるのに、直接見ても眩しくないという不思議な光だった。
「凄いよ店長、助かった」
「と言う訳でオラも料理に参加するニャ~」
「それとこれとは話が別だよ店長」
料理参加を希望するガシマ店長を止める。
そもそもスキルを持っていない店長の料理はあんまり美味しくないし、高級食材を無駄にしたくないから。
「ぐぬぬ。なら珈琲だけでも淹れるニャ~」
「あ、それも遠慮するわ」
「ニャ~!?」
他の連中にバレないよう珈琲提供も禁止すると、店長が驚愕し、「ヨヨヨ」と嘘の泣き演技で出番の無さを嘆いている。
俺はローカロリーたちに目配せをした。
「大丈夫! 店長さんは居るだけで可愛いから役に立ってるよ!」
「せやせや、店長のアイテムボックスは荷運びでえらい助かっとるわ。ほな、これも帰りに運んでや」
「偉大な純喫茶の師よ、光臨の支えに謝意を。NEXT獰猛なる異形を魔眼で裁くは一等星の輝きオンリー」
アイテム運びや灯りの提供で役に立っていると口々に励ます。俺も口を開こうとしたら、店長が眠そうな目でTKGを睨んだ。
「オラがいつまでもTKG語を分からないとでも思ったのかニャ~? 灯りとマロンさんのことを言ってるのは分かったニャ~。マロンさんを異形と呼ぶのと悪口は許せないニャ~!」
惜しい。
後半は「魔眼で裁くは一等星の輝きオンリー」だよ店長。
これだからにわか仕込みは……おっと、メッセージの着信音だ。
ライブで戦闘映像を送っていたためか、凄い勢いで着信があったことに気付く。
ギルドマスターであるジタンレシピーから256件、アイムマヨラーから1件。
軽く目眩を覚えてしまったメッセージの方はスルーし、アイムマヨラーのメッセージだけを開いた。
『アイムマヨラー:いいなぁ。楽しそうでござる。拙者も早く一緒に遊びたいでござる』
マスターアップ前の現実逃避にも思えたが、魂の叫びだろう。店長たちにも相談し、俺たちの寄せメッセージで返信した。
その後、他パーティーの女子からも店長がチヤホヤされて、ローカロリーが割って入り、「店長さんは渡しません」と宣言。
何故か料理を店長が判定して、一番美味しかったところに店長の喫茶店をオープンする話になった。
「なんか変な話になったけど、店長は俺を選ぶよな?」
「……ガッツリン氏、世の中は無常ニャ~。オラは喫茶店をサポートしてくれるところに魂を売るんだニャ~」
この裏切者!
仕方がないので料理勝負だけは真面目にやろう。
食材はクマ肉各種。クジ引きで俺はデザート担当となったので多少不利である。
だが、問題はない。俺の真価を魅せてやろう。
まずはクマ肉の燻製をカリカリのチップスに仕立てる。
臭み抜きを済ませたクマ肉へ粉末シナモンを練り込んで寝かせ、燻製にもシナモンを使うダブル仕立て。ブロック肉では無く、縮むのを前提でスライス肉を燻っていく。出来上がった燻製スライスを、細かく切って一口サイズにし、深めのフライパンで炒める。たっぷりの菜種油を使うのでどちらかと言えば素揚げに近い。ジュワ~という音が食欲を唆る。カリカリになったら出来上がり。
次にマスカット、メロン、アボガドなどの緑が鮮やかなカット果物を用意する。
焼きたてのクレープにレアチーズクリームを塗り、クマ肉の燻製チップスを散らしてその上に果物を並べていく。
畳んだ後にホイップ生クリームとメープルシロップでデコレートして完成。
こうして各チームの料理が出来上がった。
──前菜チーム。
華やかな彩りが映え、タルト生地の焼けた香ばしい香りが漂う一品。
【熊脂のラルド・タルト】
食べる直前に垂らした蜂蜜の濃厚さが口の中へと広がる。生地は全粒粉だからか素朴な味わい。だけど、カマンベールやリコッタチーズの味がより際立つ仕上がりだった。
口当たりの軽い咀嚼音があちこちで聞こえ、喜色一面の周囲の様子から言っても、満足できる一品になっていることは疑いようが無い。
俺たちは店長へ視線を集めた。
「70点だニャ~」
自分じゃ作れない癖にやたら辛口採点の店長。
でも、採点理由は納得だった。
トップバッターだから高くても80点を上限にすると決めていたとのこと。
その上でクマ肉を活かしているかを判断したら、この前菜はクマ肉じゃない方が美味しいという結論。
コック帽を噛み、悔しがる料理人の肩を、店長はポンポンと肉球で優しく叩いていた。
──スープチーム。
立ち昇る湯気からは圧倒的なスパイスの香り。こんなのどうやったってお腹が空いてくる。
【熊肉と根菜のタイ風レッドカレー】
ギリでスープの体裁を保ってはいるが、ガチで勝ちに来ている。辛いスパイスも「後のチームなど知ったことか」という態度が前面に出ていた。
香りに関しては言うまでも無い。エスニックなスパイスで口の中も赤く塗り替えられていくし、煮込まれたゴロゴロ肉は程よい硬さで弾力があり、メインでもいけそうだ。
再び店長へ視線が集まる。
「からいニャ~……60点だニャ~」
忘れていた。店長の猫舌っぷりを。
こんな舌も喉も、ましてや胃までヒリ付くような辛さは、店長が耐えられない。体の芯から温まって汗だくになりながら、俺は勝利を確信した。
──デザートチーム。
俺の作ったデザート。クマ肉をどうやってスイーツに仕立て上げるかに頭を悩ませた一品だ。
【森のくまさんクレープ〜ガッツリンスペシャル〜】
「さぁ、食べてくれ店長」
「なんだかガッツリン氏のニヤニヤがイラつくニャ~。減点しても良いかニャ~?」
「おい! 顔で減点すんな!」
新鮮果物のフルーティーさとアボガドやレアチーズのコク。口に含むほどにバランスが変化し多彩な表情を見せる。カリッとした食感がアクセントのクマ肉チップスは噛むごとに塩気とシナモンを運んでくる。クレープとメープルシナモンの甘い香りは格別だった。
店長を見やると、酷く残念そうに尻尾を垂れさせている。
「店長、採点は?」
「顔で減点しても100点だニャ~」
俺は今日一番のドヤ顔を決めた。
───用語説明:
【店長の照明器具】
VRMMOには存在しない照明器具を複数所持。動力源も異なる。





