第十七話 余計な一言
〜ここまでのあらすじ〜
峰大とガシマ店長は互いの告白をそれぞれ叶えるため、全力で動き始める。
ゴリラーテル戦の窮地を店長に救われ、そのまま店長の思い出話を聞く流れに。
店長の想いを受け、皆で店長のラブレター作戦を手伝う約束をした。 ☜イマココ
〜登場キャラ紹介〜
・ガッツリン:多部 峰大
主人公。高2。取柄はゲームの腕で負けず嫌い。
・ローカロリー:相須 萌奈香
峰大と同じクラス。ハイスペックな天然女子。
・アイムマヨラー
時代劇風のキャラ作りをしているネトゲ廃人。
・ジタンレシピー
ガッツリンが所属するギルドのギルドマスター。
・ワンバウンド:埴 津丸
学区2位の男。理屈屋で余計な一言が多い。
・ガシマ店長
喫茶店開業を目指す銀毛の猫。語尾はニャ~。
・マロン
推定メスのタヌキャット。ガシマ店長が命名。
◇◆◇◆◇峰大の部屋。
あれから皆で色んな意見を出して「ダメ元でギルマスとアイムマヨラーに相談しては?」という流れになった。
こんな時くらい大人の力を借りてみようって話だ。
メッセージの文面を用意して送信する。
「うぉ、ギルマスから秒で返事が来た」
近日中に返事が貰えれば良い程度だったのに、よほど情報が魅力的だったのだろうか。早速開いてみる。
『ジタンレシピー:やっと報告する気になったか。各所から珈琲の出所をせっつかれて俺も痺れを切らしてたんだ。で、今夜、俺の部屋に来い。時間はいつでもいいから』
やっぱりか。
いずれバレるだろうし、この際、有益な情報と引き換えなら仕方ない気もする。
報告の仕方を考えていたらメッセージランプの色が灯る。
『アイムマヨラー:おぉ、ガシマ店長の頼みであれば拙者も人肌脱ぐでござるよ。しかし、デスマが厳しくて今月は動けないのでござる。せめてこれを店長に納めて下され』
アイムマヨラーからの久しぶりの連絡。忙しいみたいだけど律儀に返信をしてくれる。添付されていたファイルは追加のタヌキャット画像だ。
これがマロンなのか識別できないけれど、店長の愛の鑑定眼に任せるとしよう。
(……店長喜んでくれるかな? ん?)
ふと気付くとカーテンの向こう側が明るくなっていて、じわりと上昇した室温にも気付く。負けじと部屋のエアコンが気合いを入れて轟々と鳴いていた。
今日は小鳥たちも居ないようだ。この暑さでやられたのか、それとも彼等にも修羅場があったのか。サブロー……強く生きろよ。
寝不足でドタバタしたまま朝のルーティンを終えて、家を飛び出す。
「今日は楽しみ!」
(本日、多部 峰大は17歳になりました! いやっふぅ!)
なので今夜は萌奈香から家に誘われている。
萌奈香と彼女の両親が、毎年俺の誕生日を祝ってくれるのだ。
その楽しみがあればこそ、多少の寝不足や疲れなんか吹き飛ぶというもの。
俺は立ち漕ぎをしながら学校へと急ぎ到着。
「混んでるなぁ、上の段しか空いてないや」
校内の駐輪場に訪れると、下の段の駐輪ラックは全部埋まっていた。仕方無いので両腕に力をグッと込め、自転車を上の段へと持ち上げる。
少し背伸びしながら納車をしていると、駐輪ラック越しに嫌な奴の顔が見えた。
「げっ、埴」
「私のメッセージに対し、39時間15分も返事が無いのだが……心配してきてみればなんだその言い草は」
せっかくの誕生日だと言うのに、朝からヤな奴の顔を見てしまったし、小言もうるさい。心の中で「この糸目野郎!」と罵っておく。
「だから珈琲は謎の旅人から譲って貰ったんだし、イベントについては埴と協力することは無いから」
毎度同じセリフで断る。だが〝強引ぐマイペース〟をゆく埴には分かって貰えず「報酬に問題が?」と、何故か斜め上の解釈をしてくる。
「では、オリハルコンも付けよう」
「残念。もう持ってるよ」
「甘いな多部。お前しか揃えていないし、他のメンバーはまだ装備が追い付いていない。しかもその筋の者から聞いた話では、多部も金欠に喘いでいると」
どの筋の者だよ!? と、突っ込みたいが、的確に言い当てられたことに思わず一歩後ずさる。
逆に埴は一歩間合いを詰めてきた。
「そこから導き出されるのは、多部の主要パーティーメンバー以外に金づるが出来たという結論だ。最近の珈琲の流出量からして、珈琲を卸している主がお前のパトロンだ。違うか?」
俺は額と背中にびっしょり汗をかき、焦りを感じている。
データを与えたら厄介な奴だと再認識。
いっそバラしてしまいたい気持ちを喉元で押しとどめ、どうにか皮肉を放つ。
「めっちゃ的外れ。珈琲出荷量より俺の所持金が少ないんだし、ガセなんじゃねーの?」
言い終える前に後悔。埴の口角がみるみる上がる。
「なるほど。正解な訳だ。そして取り分の比率を暴露してくれてありがとう。ではイベントについてだが、シャークロコダイルに挑むで良いな。決行は六日後に。前日までにはオリハルコンを納品しておこう。では」
埴は勝手に話を纏めだした。すぐにでも送り付けそうな雰囲気だし、「受け取ったのだから契約成立だ」と言われる未来しか見えない。
踵を返した埴の肩を掴む。
「待て埴。俺らはシャークロコダイルには挑まない。海の方には出れない事情があるんだ」
マロンを探して森林部を重点的に回らなきゃならないのに、シャークロコダイル探しで海に張り付くなんて御免だ。
「よし、その事情に協力してやる。詳しく話せ」
「だ~か~ら、店長の事情は話せないんだよ!」
苛立って強めに返すと、埴は再び俺の方に向き直った。
「そうか。その店長が珈琲のオーナーだな。たしか街の方でお前が店長と呼ぶホビット族を見たという情報屋もいたな。それか」
くそっ! ミスった。鋭すぎるだろ!
不敵な笑みを浮かべた埴は言葉を続ける。
「お前の拠点にはホビット族の目撃情報もあったな。張り込んで捕まえるか」
「おい! 店長に手を出したら許さねえぞ!」
俺は気付けば埴の胸倉を掴んでいた。
思っていたより体が熱くなって、全身が強張っていることにも気付く。
狐目を薄く開ける埴が手を振り払ってきた。顎で監視カメラの位置を俺に促してくる。
「興味深い。多部が冷静さを取り戻したら再度話し合おう。正確には23時間39分後にまたここで」
◇◆◇◆◇教室。
(やってしまったーーー!)
売り言葉に買い言葉。自ら珈琲と店長のことを暴露してしまったどころか、暴力を振るおうとしたのをバッチリ監視カメラで撮られてしまった。
21XX年の現在は暴力沙汰イコール即退学である。
およそ百年前にいじめが社会問題となり、学校内の至る所に監視カメラや隠しマイクが配置され、加害者は問答無用で退学になる時代が到来した。
いじめ問題が無くなったかというと、より陰湿に、校外での暴力や隠語が発展していき追えなくなったという現状でもあったりする。
埴に弱みを握られてしまった。映像のことを持ち出されたら俺は何も出来ないのと同じ。
後悔して激しい自己嫌悪に陥っていたら、笑顔の萌奈香が歩み寄ってきた。
「どうしたの峰大? 頭抱えちゃってさ。それよりも今日の誕生日会なんだけど、私は用事があって遅れるから先に家に入っててくれる?」
はにかみつつ俺に合鍵を渡してきた。やや重く、ほんのり温かい鍵を受け取る。
萌奈香の体温を感じ、ドキドキしてしまう。合鍵を渡してくるということは、おじさんもおばさんも帰りが遅いのだろう。ダブルでドキドキする。
さらに萌奈香は、俺の耳元に口を寄せて「峰大、誕生日おめでとう」と囁いた。
耳、頬、胸と熱さが伝播していく。
今、俺の心臓は、お祭り最終日の和太鼓並みの迫力と勢いがある。
返事する間もなく萌奈香は席へ戻っていき、一度振り返ってウインクをした。
◇◆◇◆◇商店街。
一日中ドキドキしたまま過ごし、放課後を迎えた。
スクールゾーンの空調が入っている限られた時間だが、俺は少し寄り道をする。
人通りもまばらになり喧噪も次第に落ち着くにつれて、弾むような足取りになっていく。
「お返し、喜んでくれるかな?」
毎年祝ってくれる萌奈香へのささやかなお返しを購入した。
「にしても用事って何だろう?」
通学時間が終わるとスクールゾーンの空調が止まってしまう。百年前に猛威を振るっていた酷暑日のさらに上、獄暑日が今の標準だ。空調が動いているか、車の送迎が無いと外は危険である。
帰りが遅いことの心配をしていると、萌奈香に良く似た後ろ姿を見かけた。
───用語説明:
【獄暑日】
酷暑日(40℃以上)のさらに上で、獄暑日は45℃以上のことを指す。
それも初夏までの話で、真夏には死暑日(50℃以上)が待っている。





