第十五話 疎開した老夫婦
〜ここまでのあらすじ〜
峰大とガシマ店長は互いの告白をそれぞれ叶えるため、全力で動き始める。
さらなるレベルアップを目指し、メンバーたちと共に狩りへ向かうガッツリン。
複数のゴリラーテルと遭遇してしまい、一気に劣勢に陥った。 ☜イマココ
〜登場キャラ紹介〜
・ガッツリン:多部 峰大
主人公。高2。取柄はゲームの腕で負けず嫌い。
・ローカロリー:相須 萌奈香
峰大と同じクラス。ハイスペックな天然女子。
・TKG:瀬瑠 泰夢
中学時代の同級生。中二病は高校からデビュー。
・爆殺クチャラー:鳴戸 蓮華
ネット上の親友。関西弁が特徴のエンジョイ勢。
・アイムマヨラー
時代劇風のキャラ作りをしているネトゲ廃人。
・ガシマ店長
喫茶店開業を目指す銀毛の二足歩行猫。語尾はニャ~。
「あかんわ! ガッツリンのスキルしか有効打がないで」
攻撃を堅い外皮に阻まれ、距離を取りつつ唾を吐き捨てる爆殺クチャラー。
頼られるのは嬉しいが、高威力のスキルは敵もやすやすと使わせてはくれない。
俺の最強スキル《鯨の兜割り》は、両足を踏ん張った上で縦一閃のみ。
連携の取れていないゴリラーテルは、無秩序だからこそ読みにくい攻撃を繰り出してくる。爪の攻撃は一撃で大木をなぎ倒し、体当たりは岩石をも砕く。
「クチャラー、TKG! 少しだけ敵を足止めできないか?」
「無茶ゆうなや! 死なへんやけで精一杯や!」
防戦一方の爆殺クチャラーからは即ツッコミが入り、地に伏しているTKGからは普段の中二病すら無かった。へたり込むローカロリーが狙われるのも時間の問題だろう。
どうするかを自問するも、答えは出ない。
ゴリラーテルは低い姿勢から突き上げる噛みつきと飛び掛かってくる爪で、執拗に攻めてくる。攻撃を空振りさせても音を伴う風圧が肌を撫でた。
「くそっ! しつけーぞ!」
俺は装備のお陰でほとんどダメージを受けず、敵も馬鹿みたいに俺ばかり狙う。
ゴリラーテルは好戦的過ぎるゆえか、弱った相手よりその場で最強と思える相手に挑んでくる。お陰で満足に動けない皆も辛うじて生き長らえていた。
「《くし切り》!! 《乱切り》!!」
俺は複数を相手取り、手数重視のスキルを連発。
だが、最強クラスの耐久値を持つゴリラーテルたちは怯まない。防具のお陰で大ダメージは無いが、少しずつ削られていく恐怖があった。
疲労からか腕が重くなり始める。全滅を意識すればするほどに動きが悪くなり、反応が遅れていく。
ゴリラーテルが地面に埋まる岩を破壊し、その石礫のショットガンで以って、ついにローカロリーまでもが力尽きた。
万事休すかに思えたとき、遠方から膨大な光源が飛来し、辺り一帯を包む。光量に思わず目を閉じ、遅れてくる轟音も辛うじてやり過ごす。
鼓膜がようやく調子を取り戻し始めたとき、聞きなれたのんびり声が響いた。
「ガッツリン氏、帰りが遅いから迎えに来たニャ~」
「「店長!!」」
巨大な銃を担いだガシマ店長が、遠方に見える丘から援護射撃をしてくれた。
VRMMOでは見たこともない装備を次々と取り出す店長。相変わらずアイテムボックスも武器も謎だけれど、これ以上無い援軍だった。
店長の攻撃は視界を奪う効果がメインで、敵はまだ視力が戻っていない。
俺は足幅を広く取り、大地を強く踏みしめた。
「スキル! 《鯨の兜割り》!!」
両足を伝って力が腕へと昇っていき、それをスキルの力を持って叩き落す。
大腿筋、腹筋、広背筋、三角筋、上腕筋と力が連動し、絶大な威力が目の前で炸裂した。
ドゴォォォオオン!!
「よし! ヤッたぞ!」
切り系スキルの最高峰の前ではゴリラーテルの外皮も意味を成さず、一撃で真っ二つに叩き切った。
残りは二体。俺とガシマ店長の連携が火を吹く。
出会ってからまだそれほど長い付き合いでは無いのに、ここに射撃が欲しいと思ったところには店長の援護が届く。
10年来の親友のような感覚に気分が高まってきた。
「へっ、愛してるぜ! 店長!」
「ニャ? オラが愛してるのはガッツリン氏じゃなくてマロンさんなのニャ~!」
言葉の綾なのに、気持ち悪がって拒絶するガシマ店長の反応に少し傷つく。
その怒りをそのまま敵へとぶつけてやった。
「ラスト! 《鯨の兜割り》!!」
◇◆◇◆◇
「いや今回はマジでやばいと思うたわ。店長が来てくれて大助かりやったで」
「ニャ~、それほどでもニャ~」
「店長さん、ありがとう。店長さんは猫の箱舟だね!」
「ローカロリー氏、何かズレてるニャ~。でも助かったことは伝わったニャ~」
ちやほやされて満更でもなさそうな店長は、照れて体をモジモジさせている。
解せぬ。
ゴリラーテル三体のいずれも俺が撃破したというのに。
自分を指差しながら会話に割って入る。
「な、なぁ、俺は?」
すると全員のジト目が俺に注がれた。
「なんや? この成金野郎は? お金持ちの特権みたいな札束で敵を撃破しよってからに」
「ガッツリンは店長さんのヒモだよね? マネーパワー、とっても強いね!」
「キャッシュレス金言」
そんなハッキリと、オリハルコン装備のお陰だと言われなくても分かっている。
目にゴミが入る気分のところへ、歩み寄ってきた店長が肉球で腰を叩いてきた。
「ガッツリン氏が強くなったのは皆も知ってるニャ。素直に励ますのが恥ずかしいから照れているだけニャ~。もっと自信を持つんだニャ~!」
陽気な声につられ顔を上げてみると、悪態をついていても皆の表情からは愛情が見て取れる。
自信を持っても良いのかも知れない。
目を合わせようとしない爆殺クチャラーが赤らめた頬を掻く。このマッチョ男子は乙女かよ!?
「あー、ガッツリン? はよメシ作ってや!」
茶化そうと思っていたのに、はにかむ笑顔を見たらそんな気分では無くなった。
「おう、最高に旨いの作るから寛いで待ってろ!」
俺が笑顔で返すと、皆の話題はすっかりゴリラーテルの肉へと移っている。
口々に細かい注文が入るも、無視して肉料理の仕込みを始めていく。ゴリラーテルの肉は臭いし硬いので美味しく頂くには手間暇と時間がかかるのだ。
仕込みを待っている間、皆は店長の話で盛り上がっていた。
「店長さん、私ね。色々と聞きたいことがあるの。店長さんはいつ、どんな風にマロンちゃんを好きになったの?」
いや、もっと聞くべきこと他にあるだろ。
あの謎なアイテムボックスや、見たこともない装備を質問するべきだと思う。
でも、マロンの話題になった途端、店長の尻尾がリズミカルに揺れ出した。
「ニャ~。ローカロリー氏はまるで国王様みたいなことを言うんだニャ~。しょうがないから教えてやるニャ~」
猫の国の王様はやたら恋バナが好きらしいが、そんなことはどうでも良い。と、思っていたのに店長とローカロリーの会話はエスカレートしていく。
「オラ、マロンさんを一目見て、初恋の人を思い出してしまったニャ~」
以前も聞いた店長の初恋の話。
孤児だったその彼女は、老夫婦に養子として引き取られていたらしい。
老夫婦は人間で、日本からの移民だと店長は語る。
「そのおじいちゃんとおばあちゃんが純喫茶を経営していたの?」
「そうニャ~。いつも良い香りがして、穏やかなお客さんの笑顔で溢れる名店だったニャ~」
店長は、おじいさんが淹れてくれた奇跡の珈琲が目指す味だと言う。今でも充分凄いのだから、どれだけ高い頂きなのか。
「それでその彼女さんとはどうなったの?」
「疎開してからは会ってないんだニャ~……」
ローカロリーの質問に肩を落とす店長。
まだ店長が幼かった頃に、国が滅びるかどうかの戦争の影響で、疎開した老夫婦たちとは後の連絡が途絶えてしまう。
珈琲の研鑽を積み続けた店長は、最先端の地へ移住して喫茶店を開業した。
世界中の人が集まる所で有名店になれば、いつか会えるかも知れないと店長は考えた訳だ。
「えっと、その老夫婦のお名前がサイゴウさんなのかな?」
ローカロリーは屋号に書かれている名前について問い質した。
けれど、ガシマ店長は俯いてしまい、声のトーンも落ちていく。
「違うニャ……覚えてないんだニャ~。サイゴウ氏は祖国の英雄の名前だニャ~」
散り散りになった当時、幼かった店長は名前を覚えていなかったと話す。
───用語説明:
【スキル《くし切り》】
対象に対し角度を変えた三連続の強力な斬撃を繰り出す。
【スキル《乱切り》】
無軌道な連続の斬撃を繰り出す。攻撃回数は敏捷に依存。
【スキル《鯨の兜割り》】
切り系スキルで一撃の攻撃力で最大値を誇る。使用には制約が多い。
【巨大な銃】
イートインワールドには存在しない武器。何故か店長が所持している。




